第二十六話
森での暮らしは何事もなくうまくいっていた。
ケンとネネにもいつの間にか子供ができたようだった。
フラルはだんだん大きくなるお腹を見てはニコニコしていた。
リロもよちよちと歩き出した。
私は13歳になり、相変わらずの生活をおくっていた。
あかりは相変わらずただの人間だった。
魔法が使えるようになるわけでもなく、とんでもないスキルを覚えるわけでもなかった。
『勇者は可哀想なやつ』と悪魔は言っていた。
あれを最後に私は悪魔に呼ばれることはなかった。
ときどき、ふと悪魔のその言葉を思い出す。
どういう意味なのか今でもわからなかった。
よく考えてみると悪魔は最初『勇者を殺せ』と言っていた。
それが、私のつけているペンダントをみつけた悪魔は『行き来できる』ということに気がついた。
『殺せ』からすぐに『探せ』に変わったのはなぜだろうか。
そして最終的には『守れ』と言っていた。
気まぐれで私を召喚するような人だから考えがコロコロ変わるのもわかるけど。
結局悪魔は私に何をさせたかったのだろうか。
─音信不通になってるし─
しかし平和な生活というのも悪くなかった。
私はこの世界に来る前はただ惰性で生きていた。
できるだけ人に関わらないように。
今も別に一人でもいいのだが、いつの間にか守らないといけない家族ができた。
家族が何のためにあるのかはまだよくわからない。
泣いたり笑ったりみんなは忙しそうだ。
私はみんなの気持ちがわからない。
経験を生かして推測しているだけだ。
私は空を見上げた。
今日はとても良く晴れている。
しかしそれは突然やってきた。
街の方の空が急に真っ暗になったのである。
明らかにおかしい。
かと思えば煙が上がっているようにも見える。
サイカたちも慌てて街の方を見ている。
「ラミラミが!!街にいる!」
フラルが悲鳴を上げた。
「ちょっと行ってくる!!」
私はすぐに街へと転移した。
────
街には見たことのない大きな魔物がたくさんいた。
私は暴れ回る魔物たちを片っ端からやっつけていく。
「ラミラミ!!!」
私は大声でラミラミを探した。
魔物が苦手なラミラミだからきっとどこかで怖がっているに違いない。
ラミラミが店を出す通りまでやって来た。
魔物は倒しても倒してもやってくる。
─いったいどこから?─
途中で怪我をしている人をみつけると治癒魔法もかけた。
通りの端まで来るとラミラミが怪我をした人に治癒魔法をかけていた。
「ラミラミ!!」
「ネロ!!!」
ラミラミは天使の姿に戻り私のフードに隠れた。
「この魔物たちはどこから来たの?!」
ラミラミは震えながら、「北の方」とだけ言った。
私は森の家に転移してラミラミをフラルに預けた。
「ネロ!」
私が街に戻ろうとするとシロネがついて来た。
「シロネ、行ける?」
「悪いやつ、倒す。」
私は頷いてシロネを掴みまた街へと転移した。
大きな魔物たちは建物を破壊し、人間たちを傷つけている。
私とシロネは魔物たちを倒しながら街の北へと向かった。
教会の前まで行くと地面に大きな魔法陣が描かれていた。
そこからどんどん魔物が出てきている。
「なにこれ?!」
シロネは湧き出て来る魔物を前に目をパチパチさせていた。
「シロネ!」
「うん。悪いやつ、倒す!」
私は土魔法で魔法陣の描かれた地面を砕いた。
魔法陣はシュッと音がして消えていった。
魔物はそれ以上出てこなかった。
私たちは街で暴れている魔物をすべて倒した。
瓦礫の下敷きになった人や怪我した人を探して街の広場に集めた。
ラミラミを再び呼びに行き、治癒魔法をかけてもらった。
それでも間に合わず、多くの人が亡くなった。
街の人々は突然の厄災に泣き崩れた。
私は魔法を駆使して壊れた建物をなんとか修繕して回った。
寝る場所だけでも確保してあげたかった。
フラルとあかりもやってきてみんなに温かい料理をふるまった。
暗くなりかけた頃、やっと城から騎士団一行がやって来た。
目立ちたくない私たちは見つかる前にひっそりと森の家に戻った。
────
留守番をしていたサイカたちに惨状を話して聞かせた。
サイカは肩を震わせて泣いていた。
ガルはそんなサイカを抱きしめていたが、顔は恐怖で引きつっていた。
何もわからないリロは楽しそうに積み木で遊んでいた。
その日、森の家の私たちは被害にあった人たちのために祈った。
─どうぞ安らかにお眠りください─
夜になり、みんなはベッドに入ったが眠れないようだった。
ラミラミはまだ震えていた。
「ラミラミ、大丈夫?」
「大丈夫よ!」
ラミラミは作り笑いをしてそう言ったが私の布団に入ってきた。
「でも今日は一緒に寝てあげるわ!」
私は小さなラミラミの頭を優しく撫でてあげた。
この行為にどんな意味があるかはわからないが、フラルやシロネはいつも悲しそうにしている人の頭を撫でていた。
今はラミラミの頭を撫でるべきだと感じた。
ラミラミは照れくさそうにしていたがすぐに眠ってしまった。
たくさん魔法を使って身体は疲れていたのだろう。
小さな寝息を聞きながら私も目を閉じた。
昼間の光景が目に焼きついてまったく眠れなかった。
─誰があんなひどいことを─
私の脳裏にヤミのニヤリと笑った顔が浮かんだ。
この一年、魔法の鍛錬も怠らなかった。
まだ自信はないが前の私よりは強くなっていると思う。
もっと強くなりたい。
─みんなを守るために─
────
翌日、私はこっそり街の様子を見に行った。
城の兵士たちもやって来ていて瓦礫を撤去したり、炊き出しをしたりしていた。
まるで戦後の戦地のようだった。
もう魔物の気配はない。
ここは城の人たちに任せていいだろう。
しかしなぜこの街が狙われたのだろうか。
騎士団の様子をみると王都は無傷のようだ。
戦争を目的として狙うなら王都だろうに。
私はハッとした。
私の仮説が間違っていなければ王都が危ない。
私は急いで王都へ向かった。
────
私の仮説は無情にも合っていた。
王都は戦場になっていた。
スプランの国が攻めてきたのである。
騎士団を街に向かわせて手薄になった王都を。
私は透明化したままスプランの兵士たちをバタバタと倒した。
スプランの兵士たちは見えない敵に恐怖を覚え、パニックになった。
逃げ惑うスプランの兵士たちに私は容赦なく斬りかかった。
その勢いは凄まじく、あっという間に広場を奪還した。
─どこかにヤミがいるかもしれない─
私はその気配を探したがみつけられなかった。
その時、嫌な予感がした。
まさかこれも囮なのでは、と。
私は急いで森の家に帰った。
────
帰ると住人たちが外に集まっていた。
「みんな大丈夫?!」
みんな大丈夫そうな顔はしていなかった。
「髪の毛がボサボサでヒョロっとした魔術師が…」
フラルはそこまで言うと泣き崩れてしまった。
みんな声も出せないくらいの怖い思いをしたようだ。
私はぐるっとみんなを見渡した。
─1人足りない─
そこにあかりの姿はなかった。
「あかりは?!」
「魔術師が…」
シロネは私に抱きついてきて大声を上げて泣いた。
─ヤミがあかりを連れて行った─
あかりは昨日初めてここから出てしまった。
被災した街の人たちのために。
それをヤミに察知されてしまったのだろう。
結界を出た瞬間にヤミにはここがバレてしまったに違いない。
「スプランに行ってくる。」
私がそう言うとみんながこちらを見た。
「そんな…無理よ一人じゃ…」
サイカはリロを抱きしめながらそう言った。
「シロネ、悪いやつ、倒す!!」
「私はネロの守護天使よ!ネロが行くなら私も行くに決まってるじゃない!」
2人とも涙を拭いた。
「いいの?」
2人は頷いた。
「じゃあ、行こう!」
私は2人を掴んでスプランへと転移した。
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