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第二十五話

私は熱を出した。

頭がクラクラして歩くこともできなくなった。

あかりは私の部屋を返してくれた。

元サイカの部屋にベッドを追加してシロネとの二人部屋にしたらしい。


私は頭の中がごちゃごちゃになっていて考えることもままならない。

何か、考えないといけないことがあるはずなのに。


フラルは心配してつきっきりで看病してくれている。

ラミラミは治癒魔法が効かずに落ち込んでいた。

「私の治癒魔法が効かないなんて、そんなことありえないわ!!」

シロネは熱冷ましの薬草を私の顔にペタペタ貼っていた。

サイカも心配してくれていたがお腹の赤ちゃんに何かがあったらいけないのでこの家には立入禁止になってしまった。


12年生きてきてこんなことは初めてだった。

もの思いついた頃には治癒魔法が使えていて、何かあれば自分で治すことができた。

しかし今回はまるで効かない。


私はどうなってしまうのだろうか。

私はきっと不安を感じている。

どうなるのかわからないことに恐怖を感じている。

─どうせなら嬉しいや楽しいを感じたかったな─



────


それから私は3日ほど寝込んだ。

フラルは私の看病でボロボロになっているようだ。

─自分のことを優先して─

そう伝えたかったが声を出すこともできなかった。


横でフラルが眠ってしまった。

自分のベッドで寝てほしいのだが。


その時、あの感覚がおそってきた。

ペンダントが熱い。

この状態で悪魔に呼ばれてしまったようだ。

私はどうすることもできずに目を閉じた。


「呪われたのかい。」

悪魔はそう言うと面白いものでも見るように魔法陣に倒れている私を見下ろしていた。


─呪い?─


悪魔はいつものように指をスッと動かした。

私の体は急に軽くなり、頭痛もなくなった。

「あ、あれ?」

私はすっかり元気になっていた。

「ありがとうございます。」

悪魔は一瞬で誰も治せなかったものを治してしまった。


「どこで呪いなんてかけられたんだい?」

気がつくと悪魔の執務室にいた。

タカタは今日は冷たいお茶を出してくれた。

喉が乾いていたのでありがたかった。

飲み干すとすぐにおかわりもくれた。


「ボクは呪われていたの?」


悪魔はフフフと笑って私の前に黒いモヤモヤしたものを出した。

「それがお前の中にあったよ。立派な呪いさ。」

「呪い…」

私に思い当たるのはただ1つだった。

私は悪魔に勇者を連れ出してしまったことからヤミのことまですべてを報告した。


「お前と同じ髪の色…ほぉ、それは興味深い。」

私はテーブルの上でモヤモヤしている小さな黒いものをじっと見ていた。

「なんだ、気に入ったのか?」

悪魔はそう言うとそのモヤモヤを小さな瓶に入れてくれた。

「それ自体はもう何もできない。無力な呪いの抜け殻だよ。」

私は瓶に入ったモヤモヤを眺めた。

「持って帰っていいぞ。」

「あ、ありがとうございます。」

私はポケットに瓶をしまった。


「それで勇者はお前と一緒にいるのか。」

「はい、でも普通の人間にしか見えません。鑑定してみましたがなんのスキルも持っていませんでした。」

「ほぉ、それは残念な個体だったのだな。」

「どこかに戦争をしかけるようなことを言ってましたが、相手がどこなのかはわかりませんでした。」

「さすがに煉獄に攻めようとは思わないか。」

悪魔はそう言って笑いだした。


「その勇者はおそらく無害だ。」

「えっ?」

「しかしそのヤミというやつは危険分子だな。」

「はい。」

私はヤミのニヤリという顔を思い出した。

不思議なことに恐怖心を感じなかった。

私はいつもの私に戻ったような気がする。

もしかしたらすべては呪いの影響だったのかもしれない。


そう思うと少し残念な気がした。

やっと私にも感情というものが芽生えたのではないかと思っていたからだ。


「ヤミについて調べたほうがいいですか?」

「いや、今のお前じゃ歯が立たないだろう。わざわざ近づかなくていい。」

そう言って悪魔は私のペンダントに六芒星の形をしたチャームを追加した。

「呪いを跳ね返す呪文が施されている。」

悪魔は少し悩んで、

「それだけじゃ心もとないな。」


「痛っ」

私は太腿に痛みを感じた。

ズボンを捲るとそこには六芒星があった。

「安心だろう。」

そう言って悪魔は笑っていた。


「ネロよ、勇者とは可哀想な存在なのだ。しっかり面倒をみてやれ。」

悪魔はそう言うと私を魔法陣の上に移動させて呪文を唱えた。

「はい。」


────


目を開けるとベッドに戻っていた。

私はフラルを起こさないようにそっとベッドから出てフラルに毛布をかけた。


居間に行くと心配そうな顔をしたみんなが一斉にこっちを振り向いた。

「ネロ?!大丈夫なの?!」

「うん。治った。心配かけてごめん。」

「ネロ!!!」

シロネは大声を上げて飛びついてきた。

そして大粒の涙を流して泣きじゃくった。

「ごめんね、もう大丈夫だよ。」

その声でフラルは起きてしまったようだ。

「ネロ!!」

フラルも抱きついてきて声をあげて泣いてしまった。

なぜか見ていたラミラミも泣いていた。

─また連鎖したのか─


声を聞いて駆けつけたガルがみんなにお茶を淹れてくれた。

サイカは念のため、まだ立入禁止だ。


私はテーブルの上に悪魔にもらった瓶を出した。

瓶の中で黒いモヤモヤが揺れている。

「なにこれ?」

みんなは不思議そうにそれを眺めた。

「呪いだって。多分、城でヤミという男にかけられた。」

「呪い…だから治癒魔法が効かなかったのね。」

ラミラミは少しホッとしたようだった。

「そうみたい。いろいろやってくれたのにごめんね。」

「ううん。私が呪いに気がつければ浄化できたのに…冷静になれなかった私のせいだわ。守護天使失格ね。」

ラミラミはポロポロと涙を流した。

「泣かないで。ラミラミは何も悪くないから。」


部屋の中は静まり返った。

「とにかくボクはもう大丈夫だから。悪魔にもヤミにはもう近づくなって言われたし。」

私が話しているとラミラミがピクッとした。

そして私のズボンをめくった。

「何よこれ!悪魔につけられたの?!」

ラミラミは太腿につけられた六芒星をみつけた。

「あ、うん。呪いを跳ね返すって。もしかして本当は悪いもの?」

「いいえ…ちゃんとした護符よ…悪魔め、忌々しいやつ!!」

ラミラミの情緒の移り変わりは私には難しすぎた。


安心したフラルはたくさんの料理を作ってくれた。

あかりも手伝っていて見覚えのある料理を出してくれた。

「ハンバーグ?!」

「うん、みんな魔物の肉は美味しくないって言うから…どうかな?」

ハンバーグの上にはトマトソースがたっぷりとかけられていた。

「あかり!すごく美味しいよ!!」

あかりは頬を赤くして照れているように見えた。

「よかった…」

フラルも私の前に真っ赤なトマトをたくさん出してくれた。

「フラルのトマトはやっぱり最高だね!」

私はもりもり食べた。

みんな幸せそうだった。

─美味しいものは人を幸せにする─

私がこの世界で初めて学んだことだ。


────


翌日から任務のなくなった私は家のまわりや裏庭に畑まで、敷地内の防衛面を考え直した。

ラミラミの結界だけではなく、侵入者を知らせてくれるアラートのような魔法や悪意を感じると攻撃する植物を植えたりと思いつく限りを施した。


あかりがここにいる以上、いつ誰に狙われるかわからない。

ヤミはそんなにあかりを重要視していない感じだったが念には念を入れるのは悪いことじゃない。


そうして数日が経ったとき、サイカが産気づいた。

フラルとラミラミがサポートし、元気な男の子が生まれた。

「サイカ、おめでとう。お疲れ様。」

赤ちゃんは小さくて触ると壊れそうだった。

「ネロの弟だよ。」

サイカはそう言ってにっこり笑った。

─私に弟が─


もちろん血の繋がりはない。

しかし私はこの小さな命を守りたいと思った。


「名前は『リロ』です。みなさんどうぞよろしくお願いします!」

ガルは感動したのかずっと泣いている。

「リロ、よろしくね。」

小さな身体でリロは大きな声を上げて泣いていた。


────

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