第二十三話
サイカとフラルも騒がしくしている私の部屋にやってきた。
「何を騒いでいるの?」
サイカは大きな水槽を見て絶句していた。
フラルは「何してるのよ!溺れちゃうわ!!」と中の少女を助けようとした。
私が止める間もなくフラルは水槽から少女を出してしまった。
─私があんなに悩んだのに─
少女は息をしていた。
弱々しく目が開いた。
口元が動いているが何を言っているかわからない。
私は治癒魔法をかけた。
「ラミラミもお願い!」
「わかったわ!!」
私とラミラミはありったけの力を注いだ。
「あり…か…と…」
少女が喋ったのである。
フラルはタオルを持ってきて少女を優しく拭いた。
私は火魔法と風魔法を合わせて温風を送った。
真っ青だった少女の顔がうっすらピンク色になった。
すっかり乾いた少女をガルは私のベッドに寝かせた。
「変わった髪の色だね。目も青い。」
少女は疲れているようでそのまま眠ってしまった。
フラルは少女の頭を優しく撫でていた。
「ゆっくりお休み。」
私たちは居間へと移動した。
「ネロ、説明してちょうだい。」
サイカは怒っているようだった。
「えっと、あの…」
私は城での一件を最初から話した。
「じゃあ敵かもしれないその子を連れてきたってこと?」
「うん。」
「出していいかわからないから水槽ごと?」
「うん。」
サイカは頭を抱えている。
「ちゃんと片付けます。」
「そういうことじゃないでしょ!」
サイカはそう言うと私を抱きしめた。
大きなお腹がつかえて変な感じがした。
「無理をしないでって言ってあったでしょ!心配させないでよ!!」
サイカは泣きそうになっていた。
「ごめんなさい。」
こういうときは謝らないといけない。
サイカがこうやって怒るときは私を心配してくれてる時だ。
きっと私がやりすぎて心配をかけてしまったのだ。
「とりあえず水槽は戻してきなさい。」
サイカにそう言われて私は静かに部屋に戻った。
少女は寝息を立てて眠っている。
私は来たときと同じように透明化して水槽に抱きついた。
そしてあの水槽があった部屋に転移した。
幸いなことに人はいなかった。
どうやらまだバレていないようだ。
私はあった場所に水槽を戻した。
なんだか傾いてしまったような気もしたが長居は無用だ。
私はすぐに部屋に戻った。
ビシャビシャになった部屋の中にも温風をあてて乾かした。
少女は気持ちよさそうに眠っている。
悪魔に言われた『誰が何のために』を探る前に本人を連れてきてしまった。
どう考えても任務とは違うことをしている。
しかしこうなってしまったのだからこれはこれで仕方がない。
私は探知されないようにこの家に強い結界を張った。
ラミラミはすぐにそれに気がついたようで、
「私も2重で結界を張っておくわね。」
と言ってくれた。
これだけしておけば並の魔術師くらいになら探知されないだろう。
────
少女は寝たまま起きず、夜になった。
私たちはいつものように夕食をとっていた。
私の部屋からガタンという音が聞こえた。
フラルはすぐにドアを開けた。
そこにはベッドから落ちた少女がいた。
「いてて…」
「あんた大丈夫かい?!」
フラルは怖がりもせずに少女をベッドに戻した。
─こういう時のフラルは最強だ─
「ありがとうございます。」
少女は普通に話せるようになったようだった。
私はベッドの横に座り少女に話しかけた。
「ボクはネロ、君を水槽から出したこのすごい人はフラルだよ。あっちにも家族がいます。」
ドアの向こうからサイカたちが手を振っていた。
「私は長浜あかりです。高校2年生です。」
─日本人?!─
召喚されたとは思っていたがまさか日本人の高校生だとは思ってもいなかった。
「ヘンテコな名前だね。」
そう言いながらフラルはあかりにホットミルクを渡した。
あかりはフーフーしながら美味しそうにそれを飲んだ。
「美味しい。何かを口にするのはここに来て初めて。」
あかりは飲みながら泣きだしてしまった。
「ここは…どこなの…私は……死んだの?…」
部屋は静まり返り、あかりの泣き声だけが響いた。
「ボクも転生者なんだ。」
あかりはビクッとして私を見た。
「あなたも?」
「うん。でも赤ちゃんからやってるからね、あかりとはちょっと違うかもしれない。」
「この世界で生まれたということですか?」
「そう。」
「私は…気がついたらこの身体の中にいた…体中が痛くて、動けなくて…気がついたらあの水槽に入れられていたの。動けなくて、あなたが来るまで目も開けられなかった。」
あかりはポツポツと状況を話してくれた。
あかりはやはり日本人だった。
普通に暮らしていた女子高生だ。
─私とは人種が違うように感じたが─
ある雨の日に傘をさして歩いていると急に雷に撃たれたのだという。
そこからの記憶は曖昧で、痛くて苦しい記憶しかないのだそうだ。
しかし動けなくても意識はあったようであの水槽で何が行われていたのかも薄っすらわかっているらしい。
「私のために…たくさんの人が亡くなったと思います…」
あかりは震えながらそう言った。
シロネはいつの間にか隣に来ていて、あかりの頭を撫でていた。
「あかりは悪くないよ。何もできなかったんでしょ?」
あかりはゆっくりと頷いた。
「へんなこと聞くよ、嫌だったら答えなくてもいい。
あのさ、ボクを殺したいと心の奥底で感じる?本能みたいな何かで。
ボクじゃなくても、悪魔を倒さないといけない!みたいな使命感を感じることがある?」
あかりはポカンとして首を傾げた。
「ネロくんを殺したいだなんてそんなこと考えもしませんよ。それに、悪魔って?角が生えてて羽が生えてるような?」
あかりがイメージした悪魔はよくゲームに出てくるようなやつだろう。
「心の奥底にある感じはしない?」
「ごめんなさい。言ってる意味がよくわからないです。そんな感情はないと思います。」
あかりが嘘をついているようには思えなかった。
と言うことは、戦争を考えていたのは人間だろう。
勇者を召喚して使おうとでも思ったのだろう。
「変なこと聞いてごめんね。でも大事なことだったんだ。」
「はい、大丈夫です。あまりお役に立てずにごめんなさい。」
「そんなことないよ。今はゆっくり休んでね。」
「ありがとうございます。」
私はみんなを部屋から出した。
みんなは興味津々という顔をしていた。
私は悪魔が『勇者が煉獄に攻めてくる』という噂があるということを言っていたことを教えた。
「あの子がそんなことをするようには見えないわよね。」
ラミラミは天使の姿に戻っていた。
やはりこの方が落ち着くんだそうだ。
「また勝手に連れてきちゃってごめんなさい。」
私はフラルの方をちらっと見た。
「一人も二人も10人だってたいして変わらないよ!そんなこと、気にするんじゃないよ。」
サイカはそれを聞いて笑っていた。
「でも本当に勇者だったら何か使命があるんじゃないの?ネロみたいに召喚者に絶対服従みたいな契約とかないのかね?」
私もそれが気になっていた。
「誰が勇者を召喚したんだろう?」
王が命令したのは間違いないだろう。
しかしあの王にそんなことができるのか?
それではロージだろうか。
ロージはあかりによく話しかけていた。
まるで自分の子供か何かのように。
「私と同じだったら召喚した人には逆らえないかもしれない。悪いことでも命じられたらやってしまうかもしれない。」
勇者の能力はわからないが悪魔を一瞬で倒した歴史を考えれば強大なものだろう。
悪魔に報告したらなんて言うだろうか。
もしかしたら息の根を止めるように命令してくるかもしれない。
─そんなことしたくない─
私は答えの出ない問題をずっと考えた。
何度考えてもいい未来は出てこなかった。
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