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第二十二話

何事もなく朝になった。

兵士たちが探しに来るかと思ったが、この人たちは『戦争に行ってる』ことになっているので大事にはできなかったようだ。


残っていた食料を行くあてのある人たちに分けて渡した。

少ししかなかったがシロネが焼いた魔物の肉も渡していた。

「栄養あるよ。」

鑑定してみたそれは毒もないし、確かに栄養は摂れるようだ。

「食べても害はありません。飢えるよりいいでしょう。」

「ネロさん、ラミラミさん、シロネさん、ありがとうございました。救っていただいたこの命、大切にします。」

昨日兵士に蹴られていた男性が私の手を握りしめて感謝を伝えてくれた。


ラミラミは売り物のペンダントをみんなに配った。

少し強めの魔除けをかけておいた。

「お守りです。魔除けの効果があるのでぜひ持っていってください。」


次々と旅立っていった。

無事に目的地にたどり着けるといいのだが。


そして残った私たちは森へと転移した。

ちょっと心配なので数名ずつにわけて転移した。

─バラバラになったら困るし─


────


フラルに事情を話すと目を丸くして驚いた。

「そんなこと現実にあるのかい?!なんてひどいことをするやつがいるんだ!」

フラルは怒っていた。

「この森は誰のものでもないよ。住みたい人がいたら住んで構わないさ!家を建てるなら手伝うよ!」


サイカとガルも手伝うと言ってくれた。

若い夫婦2組は街で住めるところと仕事を探してみると言った。

サイカはあてがあると言ってその夫婦たちを近くの街に連れて行った。


「じゃあ仕事にかかろう!」


こうしてダイの家族の『キース』と『サリー』と、もう一組の夫婦『ケン』と『ネネ』は近くに家を建てることになった。


────


シロネは『中くらいのやつ』を使って木をバタバタと倒した。

私は土魔法で根っこを引き抜き、整地をしていった。

連れてきた人たちも各々使える魔法で木材の加工や組み立てを手伝った。

大変な作業にもかかわらず、みんな楽しそうだった。

─労働が喜びに変わるのか─

私にはまた理解できなかったがみんながいいならそれでいい。


シロネの大活躍とガルの建築センスでほぼ1日で2軒の家は雨風をしのいで住めるほどになった。

あとは内装だったが住人たちが自分たちでやると言ったので任せることにした。

大人数になったので食事は外でみんなで食べた。


サイカが戻ってきて街に行った人たちはなんとかなりそうだと教えてくれた。

連れ出したときには途方もないと思った出来事だったがうまくいきそうだった。


────


ベッドで寝ていると体に違和感を覚えた。

首にかけているペンダントが熱い。

私はシロネたちを起こさないようにそっとベッドから出た。


忘れていたがきっとあれだろう。

─悪魔に呼ばれている─


一瞬で悪魔の地下室に移動していた。

「おかえり、ネロよ。」

悪魔はニヤリと笑ってこちらを見ていた。

「どうも。」


執務室に移動した私にタカタはホットミルクのようなほんのり甘くて美味しい飲み物を出してくれた。

「さて、ではさっそく報告してもらおうかね。」

悪魔はじっと私をみつめた。


私はスプランでの話をした。

どこからも『勇者』というワードは聞いていなかったが、あの少女には何かある。


「髪の毛の白い少女か…」

悪魔は真剣な顔になり何かを考えている。

「完全体で召喚できなかったのかもしれないな。おそらく目覚めさせるために人間から魔力か精力かわからんが吸ってそれに与えていたのだろう。」

悪魔は満足そうな顔になった。


「引き続き誰が何のために召喚したのか探ってきてくれ。」

悪魔はいつものように指をシュッと動かした。

私は魔法陣の上にいた。

「いってらっしゃい。」

悪魔はニヤリとそう言って何か呪文を唱えた。


────


私は部屋に戻っていた。

ペンダントが熱くなっている。


私は気づかれないようにベッドに戻って目を閉じた。

すっかり忘れていたが私は悪魔に召喚された者。

すべきなのは人助けではなく勇者をみつけること。

─落ち着いたら任務に戻ろう─


────


翌日私たちは畑の拡大作業に入った。

移住してきた2家族は農家として暮らしていたからだ。

シロネと協力して土地を開拓するとあっという間に畑が出来上がった。

フラルは女性陣を連れ出して街に作物の種を買いに行った。

私は近くに大きめの穴を掘って水を貯めた。

フラルは水魔法を使えるが他の人たちが使えないと水やりに困るだろうから。


小さい頃からフラルを手伝ってきたつもりだったが農作業の細かいあれこれはよく知らなかった。

いつも当たり前のように出てくる野菜を作るのがこんなに大変だとは思わなかった。

私が大好きなトマトも種を植えて実がなるまで大事に育てないといけないのだろう。

次食べるときにはもっと味わって食べようと思った。


シロネはダイという友達ができて楽しそうだった。

ラミラミも新しい住人たちの世話をやくのが忙しく楽しそうだった。

そんな中で私は一人でスプランの城へ行くことにした。

「一人で大丈夫?私も行くわよ!?」

ラミラミがそう言ってくれたが、ずっと透明化するつもりなので一人のほうが楽である。


────


私は城の北側にある裏口の近くに透明化したまま転移した。

相変わらず門番がいる。

私はうまくすり抜けて城の中に入った。


昨日は何も見ずに地下へ行ってしまったが改めて見るスプランの城はサマルナのものよりかなり大きかった。

大広間と思われる大きな部屋には人がいないようだった。

できれば王がどんな人なのか見てみたい。


私は城の中をウロウロと散策することにした。

気配を消しているつもりだったが私よりも能力が上の人には気がつかれてしまうだろう。

私は強い魔力を感じると慎重に進んだ。

城の中は特に変わった様子がない。

地下から30人の人間が消えたというのに。


私は昨日見た老人をみつけた。

早足でどこかに行く様子だった。

大きなドアをノックして中に入ろうとしている。

私は急いでその老人についていった。


部屋の奥の部屋へと進むと太った髭の男がいた。

男は長椅子に横になり、若い女性が足や腕をマッサージしていた。

「ロージよ、どうなっておるのじゃ?」

「ご報告いたします。地下にいた者たちは一瞬で消えたようです。

警備をしていた兵士は誰一人として地下から上がってくる者を見ていないとのことです。転移魔法や転移アイテムでどこかに行ったのではないかと考えられます。」

「侵入者がいたということか?」

「もうしわけありません!そのような事実は認められませんでしたが、状況を考えるとそうとしか思えません。

そうじゃなければ…勇者様がみなを吸収し尽くしたかと。」

「勇者が肉体をも吸収したと?」

「推論でございます。その可能性もないとは言えないと。」

「ほぉ…まぁよい。補充を急げ。」

「仰せのままに。」


ロージという男は汗だくになって王の前から去っていった。

私はその後をつけることにした。

ロージはまっすぐ地下へと進んだ。

地下には水槽の中の少女だけがそこに存在していた。

「勇者様、申し訳ございません。すぐに変わりの者たちをご用意いたしますので。」

ロージは少女にそう話しかけるとまた部屋を出ていった。


私はそのまま水槽を眺めていた。

この少女はなぜ水の中にいるのだろうか。

死んでいるようには見えないが呼吸はどうしているのだろうか。

私は円柱の水槽を観察した。

どういうシステムなのかはわからないが下から小さな泡がシュワシュワと出ている。

もしかしたらこれが酸素なのかもしれない。

水槽を叩いてみたが変化はない。


私はふと考えて、少女に向かって治癒魔法をかけてみた。

もしかしたら病気か何かかもしれない。

魔法をかけてみたが特に変化はない。

さすがに魔術師たちが試しているか。

そう思って水槽の中の少女を見ると急に目を開いた少女と目が合った。


少女は目だけをキョロキョロと動かしている。

私は彼女の目から視線を外せないでいた。

身体を動かすことはできないようだった。

私はどうすることもできずにただ彼女と目を合わせていた。


ロージが兵士を連れて戻ってきた。

私は壁の方へと移動して観察を続けた。

少女はすぐに目を閉じた。

ロージは兵士たちに警備をもっと厳重にしろといろんな場所を指差していた。

人員を配置しろという命令のようだった。

「ロージ様、国内での下級平民はほとんどいなくなりました。対象を広げますか?」

「うむ、やむを得んな。任せる。急いで集めてくれ。」

「承知しました。」

兵士はすぐに部屋を出ていった。

ロージはまた水槽の中の少女に何かを話しかけ、部屋を出ていった。

私は兵士の動向を探ろうかと思った。

どこかでまた人々を捕まえて来るのだろう。


部屋を出る前にもう一度少女を見た。

少女はまた目を見開き、口をどうにか動かそうとしている。

声など聞こえるわけもない。

少女が口を開くとブクブクと泡が出てきた。

─大丈夫かな─

注意深く口元を見ると何か言っているように見える。


『た す け て』


どう見ても少女はそう言っているように見える。

─助けて?─


「ここから出してほしいの?」

少女はゆっくりまばたきをした。

「それはイエスってこと?そうなら1回まばたきをして。」

少女はまたゆっくりとまばたきを1回した。

「ここから出しても死なない?大丈夫なの?」

少女はまたまばたきをした。


私には判断がつかなかった。

悪魔にしてみれば勇者は天敵のようなものだ。

煉獄に攻めてくるという噂がたっていたのには少なからず何かがあったからだろう。

これは罠なのか?


私は決められずに考えるのを諦めた。


風魔法を出して水槽の土台部分と上の何やらついている装置の下に切り込みを入れた。

水槽はスーッと地面から離れて動いた。

私はその円柱の水槽を抱きしめるようにして転移魔法を使ってみた。

─バラバラ ビシャビシャになりませんように─


────


私は水槽を抱いたまま森の家の部屋にいた。

水槽の中には少女の姿があった。

ドシンという音に気がついてラミラミたちがやって来た。


「ネロ、あんたなにをもってきたの?!」


シロネは水槽に顔をくっつけて中を見ている。

「この子、だぁれ?」

「多分、勇者。」


「えぇーー???」


────


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