第二十一話
兵士たちはダラダラと北へと歩いていた。
待ちゆく人たちは兵士を見ると嫌な顔をして家に入っていく。
できるだけ関わりたくないのだろう。
北に行くと畑がたくさんあった。
塀の中でも農業ができるなんて、スプランの国の城下町はそうとう広いのだろう。
兵士たちは数件並ぶ家のドアを叩き、中から人を出して集めた。
中年の男女数人と私よりも少し年上に見える少年少女たちが数人いた。
「まだ子供じゃないか?」
「でも人数も足りないし、これくらい誤差だろう?」
集められた人々は怯えていた。
「私たちは戦争に行っても何の活躍もできないと思いますが…」
年長の男がそう言うと兵士の一人がその男を蹴った。
「そんなことお前が決めることじゃないんだよ!」
兵士たちは集めた人を歩かせ、城の方へと歩いていく。
「タラタラしないで歩きな!」
まるで奴隷でも扱っているようだった。
城の北の門は裏口のようだった。
小さな入口があり、兵士は門番に連れてきた人たちを受け渡した。
兵士たちの仕事はそこまでのようだった。
私は集められた人たちに混ざり城の中へ入った。
城の中に入ると見るからに魔術師という格好をした老人がいた。
「こちらへ。」
老人はみんなを地下へと連れて行った。
きらびやかな1階とは違い、地下は薄暗くてジメジメしていた。
暗い通路をかなり進んだ。
突き当りに大きな部屋があり、そこは少し明るかった。
そこには異様な光景が広がっていた。
人間がたくさん横たわっていて頭に何かをかぶせられている。
それには管がついていて一つにまとめられている。
そしてその先にあったのは水槽に入った少女であった。
真っ白な髪の毛で、目を閉じてはいるが死んでいるわけではなさそうだった。
─白い髪の毛─
私は勇者を思い出した。
本に出てきていたのは料理人だったが、白い髪の毛に青い瞳だった。
この子の瞳の色はわからないが白いワンピースを着ているように見える。
寝ている人たちは微動だにしない。
連れてこられた人たちはその光景に絶句し、逃げ出そうとする者もいた。
しかし老人は魔法で彼らを気絶させた。
同じように寝かせられ、管のついた何かを被せられている。
「新鮮なのはいいのぉ。」
老人は満足そうにそう言うと部屋を出ていった。
私は改めて何が起こっているのか調べることにした。
ここに寝かせられている人たちは頭から何かを吸われている。
それがこの水槽の少女へと取り込まれているように見える。
この中にダイの両親もいるだろうか。
見ても誰が誰なのか私にはわからなかった。
この人数の人を運び出すのは大変だろう。
どうにか起こして歩かせてもすぐにみつかってしまうだろう。
かと言ってこの人たちを見過ごすのはまたみんなに薄情者だと怒られそうだ。
私は大きな麻袋が落ちているのをみつけた。
それをアイテムボックスにした。
そして頭から変な装置を外して眠っている人たちをどんどん麻袋に入れた。
─少し我慢してくださいね─
その数、30人くらいだろうか。
─亜空間にも空気があるよね?─
私は心配になり麻袋にたくさん空気を取り込んだ。
そして水槽の少女が残った。
水槽から出せば連れ出せるが、はたして出していいものか。
悩んでいると足音が聞こえた。
先ほどの老人ではなく見回りの兵士のようだった。
兵士は「なんじゃこりゃ!」と言って走って行ってしまった。
私は急いで王都の外の森へと転移した。
────
森の中には人間の気配はない。
私は広い場所に行って麻袋から人々を取り出した。
なかなかの肉体労働だった。
今日連れてこられた人たち以外はみんな衰弱していた。
私は並べられた眠っている人たち全員に回復魔法をかけた。
まず今日連れて行かれた人たちが起きた。
「ここは?!」
人たちは急に森にいるので驚いている。
「説明するからみんなが起きるまで少し待って。」
起きた人たちは異様な光景に怯えていたが私の言うとおりにおとなしく待っていてくれた。
なかなか起きない人には治癒魔法もかけた。
大きな岩をくり抜いてそこに水魔法で水を入れると起きた人たちは競うようにゴクゴクと飲みだした。
きっと飲まず食わずであそこに寝かせられていたのだろう。
全員が目を覚ましたので私はゆっくりと説明を始めた。
「みなさんは城の地下で変な装置に繋げられて眠らされていました。あのままでは命の危険があると判断し、勝手にみなさんをここに連れてきてしまいました。戻りたい人がいらっしゃればすぐにお連れしますが…戻りたい方いますか?」
みんなは首を横に振った。
「何も考えずに連れ出してしまったのですが、おそらく街に戻ればまた捕まってしまうことだろうと思います。きっと秘密の研究か何かをしていたと思いますので。」
私の言葉を聞きながら泣き出す人たちもいた。
こんなわけのわからない状況なのにみんなは何かを察しているようで静かに私の言葉を聞いていた。
「街にどうしても帰りたいという人は止めませんが、どうなるかはわかりません。このまま他に住むところを探したほうがいいような気もします。」
「あの、街に子供を残してきていて…どうしても街に戻りたいのですが…」
若い夫婦たちが数組いた。
この中にダイの両親もいるかもしれない。
「私でよければその子たちをここに連れてくることも可能です。
どうでしょうか?みなさんは自由ですが城のあの怪しい奴らから見たら逃亡人かもしれません。私が全部悪いのですが。」
私は今さらながら『やってしまった』かもしれないと思った。
しかし怒る人はいなかった。
「助けていただいたのはわかります。ほんの短い時間でしたが他の人が何をされているのか、自分たちが何をされるのか、わかりました。あのままではきっと死んでいたでしょう。」
まわりの人たちも頷いていた。
「街に戻るのは危険だな。」
「家も畑もあるのに…なんでこんなことに…」
「ゴイラクさんは?モニカさんもいない。」
「エリスさんもベンさんもいないよ…」
「あそこにいた人たちは全員連れてきたつもりです。」
私のその言葉にみんなは察したようだった。
─死んでしまったのだろう─
日が暮れてきた。
魔物も出てくるかもしれない。
私は火を起こし、結界を張った。
「魔物が出てくるかもしれませんがこの火の周りに結界を張りました。この辺の魔物くらいなら入ってこれないでしょう。食料や毛布を調達してきます。今日はここで野宿になりそうですが我慢できますか?」
みんなは「ありがとうございます。大丈夫です。」と言った。
私はダイの家へと転移した。
────
3人に今の出来事を話した。
ダイには両親がいるかどうかはわからないと言ったが嬉しそうだった。
みんなはびっくりしていたが私が今やるべきことを伝えると真剣な顔に戻った。
ダイは同じようなひとりぼっちの子供を何人か知っているという。
ダイにその子たちを集めてもらうことにした。
ラミラミには食料を調達してもらう。
シロネは毛布を作れると言った。
私は意味がわからなかったがシロネの持っているカバンの中にたくさん狩った魔物が入っているのだという。
アイテムボックスに魔物を詰め込んでいたのだろう。
私は想像したくないので深く考えずにシロネに任せた。
ダイは5人の子供を連れてきた。
ラミラミも今日儲けた分のお金をすべて食料にかえてきた。
「じゃあ行こうか。みんな手を繋いで。」
私たちは輪になった。
この人数での転移は初めてだったが失敗する気はしなかった。
────
私たちは無事に森についた。
─誰もバラバラになっていないな─
私はみんなのところへ案内した。
ダイの連れてきた子供たちは無事に両親に会えた。
そしてダイの両親もここにいたのだった。
「お父さん!お母さん!!」
再会を喜び人々は涙していた。
人間は嬉しいときも泣く。
─まったく理解ができない─
ラミラミはみんなに食料を配った。
シロネが魔物の毛皮で作った毛布をみんなに配った。
それはなかなかよくできていた。
少しゴワゴワしていたがとても温かい。
ついでに魔物の肉を焼いて振る舞っていたが人気はないようだった。
フラルが心配しそうなので一度私は森の家に帰った。
事情を話し、今日は帰らないというと悲しそうな顔になった。
「無理だけはしないでね。」
「うん、いってきます。」
────
人々はこれからどうするかそれぞれ話し合っていた。
近くの街に頼れる者がいる人はそちらへ行くと言った。
私は考えなしに連れ出してしまったことをよくなかったかもと思っていたが、みんなは「命があればどうにでもなる」と言って感謝してくれた。
行くあてのあるものは明朝出発するという。
ダイの家族や若い夫婦数組は行くあてがないという。
「フラルたちに相談してみよう。みんな森に家を建てて住めばいいよ。」
私がそう言うと「ネロのそういうところ、サイカにそっくりね!楽観的っていうか。そうね、きっとどうにかなるわ!みんなで森に行きましょう!」とラミラミが呆れてそう言った。
そして私たちは初めて森で野宿をした。
シロネはみんなを守ると頑張っていたがいつの間にか眠ってしまっていた。
私は寝ているみんなを見ながら水槽にいた少女を思い出した。
─あの子も無事だといいな─
────




