第二十話
早めに朝食を終えた私たちはスプラン王都の近くの森に来ていた。
こちらへ向かってくる人はいなかったが南北にはしる街道にはチラホラ人が歩いていた。
馬車を引く人たちが目立ったので近郊から商売に来ている商人たちだろう。
私たちも意を決して街の方へと進んでいった。
ラミラミはその美しさから少し人目を引いた。
近寄ってくる男をみつけるとシロネはこっそり『あっち行けの魔法』を使っているようだった。
─これがあっち行けの魔法か─
魔法にかかった人は何をしていたのか忘れたかのような顔をしてくるりと向きを変えてどこかに行ってしまう。
王都の門につくと門番からギルドカードの提示を求められた。
私たち3人は持ってきたそれを見せて難なく中に入ることができた。
スプランの城下町はとても賑やかだった。
サマルナよりも人が多く、店もたくさんあった。
シロネは初めての大きな街に終始ビクビクしていた。
シロネの様子が気になったので私たちは街外れの人の少ない木陰で休憩することにした。
「シロネ、大丈夫?」
「うん、まだ人間に慣れなくて。ごめんね。」
シロネは『仲良くしたい』と言っていたが、そう簡単に人間を信用できないのだろう。
無理をさせずに帰ろうかと考えていると小さな子供がふらふらとやって来てラミラミの目の前で倒れた。
ラミラミはその子供に近寄った。
「あなた大丈夫?!」
ラミラミはその子を起こそうとした。
「大丈夫です!」
その子は立ち上がり走り去っていった。
「大丈夫だったのかしら?」
ラミラミは心配そうに子供が走り去っていった方向を見ていた。
もうその姿は見えない。
「あの子は大丈夫だと思うけど、ラミラミは財布を盗られたよ。」
私がそう言うとラミラミは驚いて懐を探した。
「ホントだわ!いつの間に!!今の子が盗ったというの?!」
「すごい早技だったね。」
「すごいって、わかってたんなら止めなさいよ!」
「だって財布にはほとんどお金が入ってないでしょ。ギルドカード作るのに使っちゃったんだから。」
「だからって!んもう!!許せない!!子供だからって、悪いことは悪いことよ!!」
ラミラミがプンプン怒っているのでシロネは怖がっているようだった。
「シロネが怖がってるよ。」
「えっ?!シロネに怒ってるわけじゃないわ!大きな声を出してごめんなさいね。大丈夫よ、シロネ。」
「悪いやつ、倒す?」
シロネは子供にも容赦なさそうだ。
「倒さない。でもどうしてそんなことをしてるのか知りたくなったな。」
「そうね、やめさせないといけないわ!」
そうして私たちはさっきの子供を探すことにした。
豊かそうに見えるこの街にも何か問題があるのかもしれない。
────
シロネは鼻がよく効く。
シロネの探知能力と私の気配察知ですぐにその子をみつけることができた。
その子は裏路地でラミラミの財布からお金を取り出し、財布を捨てるところだった。
私は土魔法で反対側の通路に壁を作った。
子供はそれに気がつき、こちらを見た。
「やべっ!」
子供は私が作った壁を登ろうとした。
ラミラミはなかなか登れない子供を捕まえた。
「逃さないわよ。」
「なんだよ!たいした金も入ってなかっただろ!ケチが!!」
ラミラミは魔法で子供を動けないようにした。
─そこまでするのか─
「金額の問題じゃないわよ。人から物を盗むって悪いことよ?わからないの?」
「たくさん持ってる人から分けてもらってるだけだよ!!」
ラミラミはたくさん持っていなかったが。
「返すよ…返せばいいんでしょ…」
子供は観念したようでおとなしくなった。
ラミラミは子供のポケットからお金を取り返し、捨てられた財布を拾って中に入れた。
「ボクはネロだよ。今は旅の途中なんだ。君はここに住んでいるの?」
できるだけゆっくりと怖がらせないように言ったつもりだったが子供は目をそらしておし黙った。
「親の顔が見てみたいわね。」
ラミラミは子供を睨みつけている。
「親なんて…そんなものとっくにいないよ。」
子供は泣きそうになっていた。
シロネが近づいてきてその子の頭を撫でた。
「シロネ?」
「もう許してあげて。」
シロネも泣きそうになっていた。
ラミラミは魔法を解いた。
子供は動けるようになっても逃げ出さなかった。
「親がいないって、死んだの?」
私がそう聞くと、
「ネロ、聞き方ってものがあるでしょ!そんなストレートな…」
ラミラミが怒った。
「そうだよ、戦争に行ったきり帰ってこない。きっと死んだんだ。」
シロネはカバンからサンドイッチを出してその子供に渡した。
「いいの?」
子供はシロネからサンドイッチを受け取るとガツガツと食べだした。
ラミラミも「しょうがないわね」と言い、自分のサンドイッチを渡した。
シロネが私の顔を見たので私も自分のを子供にあげた。
子供は泣きながら黙ってサンドイッチを食べた。
そうとうお腹が空いていたのだろう。
こんなにたくさんの人間が住んでいる街なのに、この小さな子供に食べ物をあげる人はいなかったようだ。
「僕はダイ。この街に住んでいる。お父さんとお母さんは戦争に連れて行かれて帰ってこない。」
ダイはポロポロと大粒の涙を流した。
「ひとりぼっちなんだ…」
シロネはハンカチでダイの涙を拭いてあげている。
ラミラミもなぜか泣いていた。
─これが感情の転移か?!─
「戦争してるようには見えないよね、この街。」
戦時中となれば街中はピリピリとしていて兵士がたくさん見回りなんかをしているイメージがある。
戦地が遠くにあるのだろうか。
「人間は何かあればすぐ戦争するもんね。本当にバカな種族だわ。」
ラミラミも今は人間の姿なのだが。
ここで私が立ち去ろうとしたら、2人は怒る気がする。
しかしこの子を連れて歩くわけにもいかない。
不幸な人に会うたびに連れ回していたら大家族になってしまう。
私がいろいろ考えているとラミラミが気を取り直した感じでこう言った。
「ダイのお父さんとお母さん、本当に死んだのかしら?もしかしたら生きてるかもしれないわよね?」
ダイはびっくりした顔でラミラミを見た。
「でもみんな、きっと死んだろうって。」
「その人たちだって知らないはずよ。まだわからないじゃない。」
無責任なことを言って期待させるのはよくないんじゃないかと私は思った。
すでにダイは希望を与えられたかのように笑顔になっている。
「もしかして探しに行くなんて言わないよね?」
私はやる気満々のラミラミに聞いた。
「あら、察しがいいわね!探しに行くわよ!」
シロネも笑顔になった。
「シロネも、ダイのお父さんとお母さん探したい。」
多数決では勝てない。
「わかったよ…ダイ、わかってることを詳しく教えてくれる?」
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ダイは住んでいる家に私たちを招いてくれた。
街の端にある小さな家で広くはないが畑もあった。
子供が一人で暮らすのは心細かったに違いない。
「急に家に兵士がやって来てお父さんとお母さんを連れて行ったんだ。もう1ヶ月くらい前に。」
近所に住む若い男女はそうやって連れて行かれたのだと言う。
残った老人たちが「戦争に駆り出されて死んだだろう」と噂をしているようだった。
兵士が連れて行ったのなら国が関わることなのは間違いなさそうだ。
男性ならわかるが女性も連れて行ったとなると戦地で戦う以外にも仕事があるのだろう。
「兵士たちを調べないと詳しいことはわからなさそうだね。」
私は一人で調査に行くと言った。
「じゃあ私は資金調達をするわ。ダイに食べ物も買ってあげられないもの。」
ラミラミは商人ギルドに行って持ってきた商品を売れないか相談してみると言った。
「シロネはどうする?」
「シロネ、ダイといる。」
ダイは嬉しそうに笑った。
「じゃあ僕がシロネに街を案内してあげるよ!」
2人は見た感じ同じくらいの年格好だった。
「シロネ、悪いやつがいても強いやつは禁止だよ?」
「わかってる。あっち行けする。」
私はダイにシロネのことを頼んだ。
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私は例のごとく透明化して兵士の詰所に忍び込んだ。
戦時中とは思えないほど兵士たちはダラダラとしていた。
昼から酒を飲むものもいればカードで賭けをしている者たちもいる。
「10人ほど追加してほしいって言われてるぞ。」
「またかよ。ちょうどいいやつらまだいたかなぁ。」
「北の集落に数人いたと思うが。怒られる前に行ってくるか。」
兵士たちはダルそうにぞろぞろと詰所を出ていった。
私はひっそりとついていくことにした。
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