第十九話
「はい、シロネちゃん!ネロとお揃いのローブだよ!」
フラルは嬉しそうにシロネにフード付きのローブを着せた。
「フラルありがとう!やったー!」
シロネは喜んでぴょんぴょん飛び跳ねてクルクル回っていた。
シロネが私と同じものを欲しがったのでフラルが古いローブを出してきて修繕してくれたのだった。
「よかったわね、シロネ!似合ってるわよ!」
ラミラミも嬉しそうだった。
人間たちは嬉しいが伝染するのだろうか?
一人が笑うともう一人も笑う。
実に不思議な現象である。
「ネロ、今日はお出かけ?」
「うん、あともう少しで王都まで行けそうだからね。頑張って歩こうか。」
「はーい!」
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私たちは前回最後に立ち寄った丘の上の岩陰に転移した。
転移先に誰かいないか、いつもそれだけが心配である。
今日も幸い誰もいなかった。
前回、盗賊に出会ったので人間が全く居ないとは言えなくなった。
きっと街に近づいているからだろう。
私たちは東に向かい丘をくだっていく。
今日はあいにくの曇り空だった。
もしかしたら途中で雨が降るかもしれない。
シロネの晴れにする魔法の効果範囲はどれくらいなのだろうか。
雨が降ったらぜひ使ってみてもらおう。
丘を下ると畑が見えてきた。
誰かが住んでいるらしい。
小さな家がポツンと見える。
郊外で農家をするフラルのような人がここにもいるようだ。
見たことのない野菜が実っている。
─街に種が売ってたら買って帰ろう─
ポツンと一軒家を越えるとまた何もないただの街道になった。
まばらに木も生えていて魔物もチラホラいる。
シロネは向かってくる魔物に『小さいやつ』をあてて倒している。
シロネは私よりも反射神経がいいようで、私が対処する前に倒してくれる。
─最強の護衛かもしれない─
空が暗くなってきた。
「雨が降りそうだね。」
私がそう言うとポツポツと雨粒が顔に当たった。
「ホントだ。」
シロネは口を大きく開けて雨粒を口に入れようとしている。
「シロネ、水筒があるから雨を飲まなくていいんだよ。」
「あっ!そうだった。いつもの癖で。」
シロネはえへへと笑っていた。
「ねぇシロネ、晴れになる魔法をちょっとやってみてくれる?」
「いいよ!」
シロネは天に向かって腕をクルクル回した。
私たちの頭上にある真っ黒な雨雲がみるみるうちに引き裂かれ、青い空が見えた。
「このくらいでいい?」
私たちから半径10mくらいだけ晴れた。
「もっと広くもできるの?」
「やろうと思えば多分できるよ。やる?」
「ううん、やらなくていいよ。ちょっと見てみたかっただけだから。」
「シロネすごいわね!もしかして神様とかなんじゃないの?」
ラミラミは濡れた体を太陽の光で乾かそうと両手を広げた。
─さすがに神様は人間に殺されたりしないだろう─
私たちは雨にあたらずに進むことができた。
シロネの晴れにした部分はまるでシロネについてくるかのように移動した。
実に便利な魔法である。
小さな森に入り、抜けると先に大きな城が見えた。
どうやら目的の場所にもうすぐ辿り着ける。
雨はすでに止んでいた。
そろそろ日暮れだった。
「今日はここまでにしよう。」
「お城でっかいね!」
サマルナの城よりも大きそうだった。
取り囲む塀も立派だった。
「王都に入る前に作戦を練らないとだめかな。」
「そんなの私が人間の姿になれば問題ないでしょ!」
「そうだけど、旅の目的なんか聞かれたら答えられなくて怪しまれちゃうかも。」
「なるほどね、じゃあ帰って作戦会議にしましょう!」
────
夕食後、サイカとガルも参加して作戦会議が始まった。
ラミラミは親子の設定を嫌がったので『姉弟妹』の設定になった。
「どこから来たのか、何をしに来たのかを聞かれて困らないようにしないと。」
サイカはなんだか楽しそうだった。
逆にガルは心配そうだった。
「3人で大丈夫かなぁ…」
楽観的なサイカと心配症のガルで2人はバランスの良い夫婦なんだろう。
「冒険者なら冒険者ギルドに商人なら商人ギルドに登録していないともしかしたら王都には入れないかもしれないわね。」
「ぎるど?」
「サマルナの王都にもあるわよ。学校で習わなかった?」
私は記憶を思い起こした。
冒険者になろうだなんて言ってる人も商人になるという人もいなかった。
「記憶にないや。」
「ちなみに私たちは商人ギルドに登録してあるわよ。」
サイカはそう言ってギルドカードというものを見せてくれた。
身分証のようなものなのだろう。
「商人ギルドに入っていない人が商売をするのは違法なのよ。みつかったら逮捕されちゃうわ。」
「冒険者ギルドっていうのは?」
「そのまま冒険者たちのためのギルドよ。依頼を受けて賃金をもらうの。」
サイカのように何かを作って売るのもアリだし、魔物を討伐してお金を稼ぐのもいい。
「2人はどっちがいい?」
私はラミラミとシロネに聞いてみた。
「冒険者!」「商人ね!」
シロネは冒険者を選び、ラミラミは商人を選んだ。
「遠くで商売をするなら商品を運ぶための馬車やアイテムボックスがないと怪しまれちゃうかもしれないわね。」
どちらも買うとなれば高価だ。
お金を貯めて、となると時間がかかってしまいそうだ。
「アイテムボックス、作ってみるよ。」
「作るってネロが?!」
「うん。仕組みはベラリス先生から聞いてたし、なんだかできそうな気がするんだよね。」
「とても複雑な魔法らしいわよ。そんなすぐに作れるかしら?」
サイカはそう言ったがフラルはすぐに大きめのリュックのようなカバンを持ってきてくれた。
「これなら口も大きいし、使いやすいわよ。」
「ありがとう、フラル。」
そうして翌日はアイテムボックスの研究とうまくいけばギルド登録に行くことになった。
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アイテムボックスには亜空間の魔法が使われていると言っていた。
取り出し可能なブラックホールのようなものがあればいいわけだ。
私は一人で森に来ていた。
シロネたちはフラルに任せて置いてきた。
農作業の手伝いができると2人とも嬉しそうにしていた。
小さな巾着で試してみる。
ブラックホールをベースに形状を安定化させて消えないようにして…
私は色々やってみた。
亜空間とはこの次元と違う場所。
私はそれをイメージして巾着に魔法をかけた。
消えてもいいように石や枝を中に入れてみる。
明らかに袋より大きいものを入れてみたが、すんなり入った。
あとは欲しいものを取り出せるかどうかである。
─石出てこい─
そう念じながら袋の中に手を入れて探してみる。
袋の中には何もないように思える。
覗いてみたが石も枝も見えない。
─失敗か─
ブラックホールをベースにすると物がどこかに消えてしまうらしい。
そもそものベースを変えなくては。
試行錯誤を続けるうちに何かを得た感じがした。
私はもう一度巾着に魔法をかけた。
─この中は広い亜空間─
巾着は一瞬光った。
再び石と枝を入れてみる。
そして取り出そうと手を中に入れてみた。
─枝を取り出したい─
私がそう念じると手に枝が吸い付くように当たった。
私はそれを掴んで取り出した。
大成功である。
そうしてフラルがくれたリュックはアイテムボックスになった。
帰ってからサイカたちにアイテムボックスを作ろうかと聞いたが、
「庶民がそんな高級品を持っていると怪しまれる。」
と言って断られた。
確かに悪いやつに狙われでもしたら本末転倒だ。
午後になり、サイカが王都のギルドに連れて行ってくれると言った。
私はサマルナの王都の人目につかない転移ポイントに転移した。
サイカは初めての転移にちょっと興奮していた。
結局私たちは、私とシロネが冒険者ギルドに、ラミラミが商人ギルドに、と分かれて取ることにした。
特に年齢制限もなく、冒険者ギルドは依頼を何か一つこなすことを条件に、商人ギルドはお金を払うだけでそれぞれギルドカードがもらえた。
私とシロネは簡単な薬草集めをクリアし、見事にギルドカードを手に入れた。
ラミラミはこの前の盗賊のお金を使ってギルドカードを手に入れた。
「シロネごめんね。また稼いで今度こそ何か買おうね。」
「うん!いつでもいいよ。」
ラミラミはサイカの真似をしてアクセサリーを作った。
私はそれに魔法をかけて魔除けにした。
準備は整った。
「明日スプランの王都に行きます。」
私がそう言うとみんな真剣な顔になった。
知らない場所に行くのは心配もあるようだった。
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