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第十八話

私たちはシロネをみつけた大きな木の前に転移してきた。

今日はここからだ。

東に向かって歩きながらシロネにここでの暮らしぶりを聞いた。

木の実や小さな魔物を狩って暮らしていたのだという。

母親も同じような白い獣でもっと大きかったんだそうだ。

数十年前に人間たちが大勢でやってきて母親を殺したのだという。

シロネは透明化の魔法が使えたので難を逃れたのだそうだ。

「シロネは魔法が使えるんだね。」

「うん。少しだけね。」

それにしても数十年前に母親と死別してここに一人だったとは。

確かに寂しい思いをしたのかもしれない。

─私なら何も感じないから大丈夫だったかもしれないが─


「シロネは言葉も話せるし、普通の魔物ではないよね。出会ったときも二足歩行だったし。なんていう種族なんだろうね?」

「えっと…わかんない。同じ人に会ったことない。」

サイカの本棚にはあの白い獣について載っている本はなかった。

きっと珍しい個体なのだろう。


「まぁいいじゃない。シロネはシロネよ!」

ラミラミはシロネの肩に座るのがお気に入りになったようだ。

一生懸命シロネのお世話をしてくれるので私がすることはほとんどなかった。


数時間で森を抜けた。

「ここまで来るのは初めて。」

シロネは森の外に興味津々なようだった。

「ご飯にするから遠くに行かないでよ。」


私はフラルが持たせてくれたブランケットを草原にひいた。

そこにサンドイッチとリンゴのような果物を出した。

遠足というかピクニックのような雰囲気になった。


シロネはきちんと靴を脱いでブランケットの上に座り、お行儀よくサンドイッチを食べた。

「本当にいい子ね!」

なぜかラミラミが嬉しそうだった。


この森には魔物がいると集落の女の人が言っていたが、きっとシロネのことだろう。

ここ周辺で人間の姿はまったく見られなかった。

この森から数百キロで王都につく。

シロネは小さいが元があれなのできっと体力もあるだろう。

数日あればたどり着けるかもしれない。


「どこに行くの?」

シロネは初めて見る景色をキョロキョロと見ながら楽しそうに歩いていた。

「王都だよ。お城のある街に行くんだよ。」

「人間いっぱいいそう。」

「きっとたくさんいるわよ!楽しみね!」

「ラミラミにも人間の姿になってもらうかも。」

「そうね、子供2人で歩かせるわけには行かないものね!近くなったら変身するわ。」

どうやらラミラミは人間の姿になるのがあまり好きではないらしい。


シロネは母親を人間に殺されたと言っていた。

それなのに『人間と仲良くなりたい』と言っていた。

普通なら恨んでもいいくらいの出来事なんだろうけど。

数十年の間に人間を観察していてそう思えるようになったというのだろうか。


「シロネが子供の姿なのはラミラミのせい?」

「いいえ、私は人間の姿になれとだけ魔法をかけたの。どんな姿になるかはわからなかったわ。きっとあの獣は長生きする種族で生まれてから数十年くらいじゃまだまだ子供なのね。」

この世界にはまだまだ知らないことがたくさんある。

時間ができたらもっとたくさん本を読んでこの世界を知りたいな。


「ネロ、何か悪いものが来る。」

シロネは突然私の腕にしがみついてきた。

ラミラミはフードに隠れた。


確かに嫌な気配が5つくらい、こちらにジリジリ近づいてくるようだ。

私は立ち止まり気配の位置を確かめた。

街道沿いに生えている木の陰に人間が5人ほど、こちらを見ている。


私はとりあえず彼らが出てくるのを待ってみた。

「ちっ、気づかれたか。鋭いガキどもめ。」

そう言って男たちが出てきた。

『盗賊みたいね』フードの中でラミラミが小声でそう言った。

「なかなか器量の良さそうなガキどもじゃねえか。こりゃ高く売れそうだぞ。」

男たちは私たちにナイフを向けてニヤニヤしながら近づいてくる。

「シロネ、ボクから離れないでね。」

「うん、わかった。」


私は試してみたかった魔法がまだあることに気がついて男たちに向かって順番に放った。

水魔法に雷を帯びさせて風魔法で加速させて飛ばす何か。

重力魔法で作った小さなブラックホール。

光魔法で作ったナイフ。

炎を凝縮させた玉。

どれも盗賊たちに命中した。

盗賊たちは次々と倒れ、最終的にはブラックホールに吸い込まれていってしまった。


「あの人たちどこに行ったの?」

シロネはキョロキョロと盗賊たちを探していた。

私はブラックホールを消した。

「私にもわからない。きっと行くべきところへ行ったと思うよ。」

「そうなんだ。バイバイ、盗賊さんたち。」

盗賊たちは武器や荷物を落としていった。

「お宝はあるかしら?」

ラミラミはさっそく荷物を漁っている。

「ダメだよ、そんなもの持ってたらボクたちが盗賊だと思われちゃうよ。」

「何よ!もったいないじゃない!じゃあお金だけもらいましょ!」

ラミラミはお金だけ取り出してシロネのカバンに入れた。

「シロネ、街についたら何か買いましょうね。」

「やったー!」

─どちらが盗賊なのかわからないな─


小高い丘を登るとちょうど夕焼け空になった。

シロネは立ち止まり夕焼けを見ている。

「森からこんなの見えなかった。」

あの薄暗い森の中では陽の光もまともに入ってなかっただろう。

私はしばらくシロネに夕焼けを楽しませた。

私もいつか教室の窓から見た夕焼け空を思い出した。

あの日もそういえばこんな空だった。


「今日はこの辺で帰ろうか。」

私はちょうど陰になる岩の裏をみつけた。

「はーい。」

人間がいないのを確認して私たちは森の家へ転移した。


帰るとフラルが飛んできて、

「シロネちゃん!大丈夫だった?!」

と抱きしめた。

─フラルよりも強いと思うけど─

そう思ったけどシロネが嬉しそうにしていたので言うのをやめた。


フラルはたくさんの料理を用意して待っていてくれた。

シロネはカバンから花を取り出した。

「フラルにお土産したんだけど、萎れちゃった。」

シロネはクタッとした花を見て悲しそうな顔をした。

「まぁ!きれいな花ね!ありがとうシロネちゃん。花瓶に入れたら元気になるかもしれないわよ!」

フラルは萎れた花を見て嬉しそうにした。

─萎れているのに─


花瓶に入れても花は元気にならなかった。

私はこっそり花に向かって治癒魔法をかけてみた。

花はみるみるうちに蘇り美しく咲いた。

「フラルすごいね!お花、元気になったね!」

「わぁ、本当だね。シロネちゃん、お土産ありがとうね!」

ラミラミはそれを見てニッコリと笑っていた。

─人間は花が好きなんだな─


────


翌日、私は「今日は出かけない。」と言った。

「おやすみ?」

「いや、今日はシロネの能力を確かめる日にしたい。」

「私の能力?」

「そう、どんな魔法を使えるのか把握しておきたいんだ。」

「いいわね!私も知りたいわ!」

ラミラミはシロネのまわりをクルクルまわりながらそう言った。


というわけで、朝食を済ませた私たちは森にやってきた。

家から少し行くと少し開けた場所がある。

私がもっと小さい頃に魔法の練習をした場所だ。


「シロネ、攻撃系の魔法は使える?」

シロネは少し悩んで、

「うん、たぶん。」

と言って見たことのない何かを岩に向かって飛ばした。

岩は一瞬で爆発したように粉々になった。

「これだと魔物が消えちゃうから、お腹が空いてるときはこっち。」

そう言って木に向かってまた見たことのない何かを飛ばした。

木の幹にサックリと傷がついた。

「強いのと、弱いのだよ。あと中くらいのもあるよ。」

そう言ってまた木に向かって何かを飛ばした。

木はスーッと切れて倒れた。


「シロネ、やっぱりすごいね。」

正直ここまですごいとは思っていなかった。

ラミラミは言葉を失っていた。

「えへへ。」

シロネは褒められて嬉しそうだった。

「透明になるやつと、他には何か使える?」

「あっち行けの魔法が使えるよ。でもネロには効かなかったよ。」

「当たり前じゃない!私が状態異常にならないように加護を与えているもの!」

「そうなんだ、ラミラミはすごいね!」

─あっち行けの魔法─

人間を寄せつけない魔法だろうか。

だから今まで討伐されずに過ごしてこれたのか。


「他にはね、雨を降らせる魔法と、晴れにする魔法と、うーん。他に何かあったかなぁ。」

シロネは目の前にだけ雨を降らせてみせた。

喉が乾いたら雨を降らせていたのだという。

実に便利な魔法だ。


「あとは物を動かしたり、飛ばしたりする魔法くらいだよ。」

透明化できる時点できっと普通の人間よりはるかにすごいのだろうと思っていたが、予想以上だった。

ますますシロネが何と言う種族なのか知りたくなった。

きっと優れた種族に違いない。


シロネはラミラミと薬草や花を摘んでいる。

「ネロ見てー!食べられる草だって!」


シロネはよく笑うようになった。


「フラルに料理してもらおう。」

その日は1日ゆっくりと穏やかに過ごした。


────

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