第十七話
森の中にいる気配は数年前に倒したキマイラのそれに似ていた。
かなり大きな魔物に違いない。
私は慎重にその気配に向かって進んでいった。
森の真ん中に大きな木が生えていた。
その幹はサイカの家くらいの大きさがありそうなほどとても大きな木だった。
気配はそこからする。
─この木が魔物なのかな─
私は距離を保ちながらその大きな木を観察した。
その大きな木には大きな窪みがあった。
その中の空気だけゆらゆらして見える。
─何かいる─
私は風魔法を細い針のようにしてそこに目がけて撃ち込んだ。
「ぎゃーーー!!!」
静かな森に大きな声が響いた。
木の窪みいっぱいに白いもふもふした毛が見えた。
何か魔物が隠れていたようだった。
私は警戒しながら少しずつ近づいていった。
ラミラミはフードの中から震えながら覗いていた。
「やめて!殺さないで!」
大きな体の白い獣だった。
耳は元の世界の猫のようだったが体は熊かパンダのようなボテッとした丸いボディだった。
白い毛は長くて図鑑でも見たことがない生き物だった。
「あなたは何?」
言葉を話すのだからただの魔物ではないだろう。
「私は何だろう?」
大きな黒い瞳でこちらを見るそれは何かに似ていた。
─サイカの家にあるぬいぐるみだ─
敵対してこないようなのでこのままスルーすることにした。
「ボクはネロ、旅の途中だよ。驚かせてごめんね。じゃあ、ボクは行くね。」
私が立ち去ろうとしたらそれは話しかけてきた。
「待って、ネロは私が怖くないの?」
振り向くとそれは窪みから出てきていた。
「怖くないよ。だって君はボクを襲おうと思っていないでしょ?」
「そうだけど…他の人間たちは私を見ると怖がったり攻撃したりしてくるんだ。だから私はどこにも行けなくて…ずっとここに隠れていたんだ。」
「まぁ!なんて可哀想な獣!」
いつの間にかフードから出てきたラミラミはその白い獣のまわりを飛んでいた。
─かわいそう─
この獣は私と同類なのだろうか。
「人間に狩られないようにね。」
私はそう言って立ち去ろうとした。
「ネロ!!ちょっと待ちなさいよ!このままこの子を置いて立ち去る気?!」
「えっ?うん。」
ラミラミが何を言いたいのかわからなかった。
「ひとりぼっちでこんな薄暗い森の中にいるなんてかわいそうでしょ?!助けてあげようとか思わないの?!」
「助ける?君は困っているの?」
白い獣は泣きそうな顔でこちらを見ていた。
「私は…人間と仲良くしたい…」
「それは無理だと思うよ。」
私がそう言うとラミラミは私を叩き出した。
「なんて薄情なの!!!少しくらい考えてあげてもいいじゃないの!そんな即答して…」
白い獣は泣きだしてしまった。
「一生ここで隠れるしかないんだ…」
そう言われてもこの大きさの獣が人間と一緒に暮らしているのなんて見たことがない。
魔物は問答無用で討伐されてしまう。
「わかったわ!私に任せなさい!!」
ラミラミは白い獣のまわりをクルクルと飛び回った。
白い獣はみるみるうちに小さくなって人間の姿になった。
あっという間にそこには小さな女の子がいた。
「ほら!これで問題ないわ!!」
ラミラミはドヤ顔でこちらを見ていた。
「ボクが裸の女の子を連れ回すのも問題かもしれないけど。」
私がそう言うとラミラミは私からローブを奪って女の子に着せた。
「帰ってフラルに服を用意してもらいましょ!あなた名前もないの?!」
女の子の姿になった白い獣は嬉しそうに自分の姿を見ていた。
「名前って何?」
「ネロ、名前をあげて!」
白い猫みたいな感じだった。
「シロネ…」
「いいわね!シロネ!!あなたは今日からシロネよ!」
「シロネ…シロネ!私はシロネ!!」
シロネコって言おうとしていたのだが気に入ったようなのでそれでいい。
私はこのままシロネを連れ回すのも嫌だったので森の家に帰ることにした。
ラミラミはいつも転移する私にくっついてるだけで一緒に転移できると言っている。
私はシロネの手を掴んだ。
シロネは嬉しそうにこちらを見上げていた。
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問題なくシロネも一緒に転移できた。
─身体がバラバラにならなくてよかった─
いつもより早く帰ってきたので家の中にフラルはいなかった。
私はシロネをそこに待たせてサイカの家に行ってみた。
サイカのお腹はかなり大きくなってきていた。
あと1ヶ月くらいで生まれるんだそうだ。
「あらネロ、今日は早いのね。」
「あのねサイカ、ちょっとお願いがあるんだ。」
サイカを連れて戻るとシロネは来たときと同じ場所から動いていなかった。
初めての場所が怖いのだろう。
「なぁにこの子!かわいい子ね!」
「シロネって言うんだけど、服がないんだ。何かないかな?」
「あらあらかわいそうにね。ネロが小さかったときの服ならあるけど…男の子用だわね…」
「別にそれでいいけど。」
「だめよ!シロネは女の子よ!かわいい服がいいに決まってるじゃない!」
シロネは困った顔をしていた。
「あんたたち、小さい子を囲んで何してるのよ。」
フラルが帰ってきたのである。
事情を話すとフラルはすぐにサイカが小さいときに着ていたものを出してくれた。
「なんでも取っておくものねぇ。」
着替えたシロネはとても可愛らしかった。
「いいの?もらって?」
「もちろんだよ。お古でごめんね。」
フラルがそう言うとシロネは初めて笑顔になった。
「ありがとう!!」
「それでネロ、この子はどこの子だい?」
サイカは夕食の支度を始めながら重大なことをやっと聞いてきた。
「えっと…森で一人でいたから…」
「そう言えばシロネ、あんた家族もいないの?いつから一人なのよ?」
カップに入ったミルクを美味しそうに飲んでいたシロネはみんなの方に顔を向けた。
「ママはいたけど、人間に殺された。」
部屋の中は静まり返った。
きっと人間にみつかり狩られてしまったのだろう。
フラルはシロネを抱きしめた。
「こんなに小さいのに…辛い思いをしたのね。」
シロネは「ママ…」と言いながらフラルにしがみついてそのまま泣きだしてしまった。
「うちの子になりなさい!サイカもいなくなったし、部屋もあるわ!」
「あぁ、そうだね。そこの部屋を使いなよ。」
そうしてシロネは私の妹になった。
一応元は白い大きな獣だと説明をしたけど信じてもらえなかった。
みんながいいならそれでいい。
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シロネはサイカの部屋をもらったが寝るときは私のベッドに入ってきた。
ラミラミはそんなシロネの頭を撫でてあげていた。
私は自分のベッドに戻ってほしかったがまたラミラミがうるさそうなので我慢した。
フラルはそんな私たちの様子を見て嬉しそうにしていた。
─これが正解なのか─
翌朝、シロネを連れて行くかどうか悩んだ。
家に一人にするのはさすがに心配だ。
急に元の姿に戻ったら家が壊れかねない。
フラルたちに預けてもいいが余計な仕事を増やしてしまうだろう。
「ネロたちと行く。」
シロネはそう言い、ラミラミもそのつもりのようだ。
「何かあっても私が守るわよ!」
魔物が怖いくせにラミラミはお姉さんのようにそう言った。
フラルは反対したが本人が行きたいというので折れた。
私たちは3人で旅をすることになった。
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