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第十五話

私が生まれたのはサマルナという国で北の山を越えるとスノール国、東の大河を越えるとスプラン国があると学校の地理で習った。


このサマルナという国は大きくはないが海にも面していて海路での国交も盛んで栄えている国だと誰かが自慢していた。

騎士団長が言っていた隣の国とはおそらくスプランだろう。

国境すべてを大河が流れている。

橋があるらしいが関所があり、冒険者や商人の往来があるくらいだと言う。

この世界での一般人はあまり他の国を訪れたりはしないようだ。


私はとりあえず東に向かった。

歩いてどれくらいかかるのだろうか。

馬車を手配するお金もないし、もちろんバスや電車もない。

風魔法を応用して飛べないこともないが途中で魔力切れになるのも怖い。


自転車のようなものを開発するかなどと考えているうちに王都を抜けて何もない街道に出た。

街を出るとまったく人がいない。

畑など必要なものはすべて塀の内側にある。

防衛面では優れているのかもしれない。


街道を少し進むと大きな森に入った。

道も急に細くなり、馬車がやっと通れるくらいの幅しかない。

国交が盛んではない理由の一つかもしれない。


私は透明化を解いて普通に歩いた。

森の中は木が密集していて薄暗い。

さっきから魔物の気配があちらこちらである。

私は魔物を倒しながら進んでいった。

Cランクと言われている小さな獣のような魔物ばかりだったが少し先に強い気配を感じた。

私は慎重にその気配の主を確かめた。


大きな熊のような魔物が何かを襲おうとしているところだった。

私は反射的に熊に向かって風魔法を飛ばした。

鋭いカッターのようなその魔法は熊の背中を斬りつけた。

致命傷にはならなかったらしい。

熊はゆっくりとこちらを向いた。


私は突進してくる熊に試してみたかったいろんな攻撃系の魔法を放った。

魔法が命中するたびに熊の速度は落ちて、私の目の前に来る前に倒れてしまった。

─もっと試したい魔法があったのに─


私は熊が動かなくなったことを確認し、街道に戻ろうとした。

─そういえば何かが襲われていたな─

私は熊が向かってきた方向を見た。

特に物音はしない。


私は「まぁいいか」とその場をあとにした。

「ちょっと待ちなさいよ!まぁいいか、じゃないわよ!!」

どこからかそう叫ぶ声が聞こえた。

私はキョロキョロと辺りを見回した。

しかし人間の姿はどこにもない。

─幻聴だろうか?─


私が首を傾げていると目の前に白く光るものが現れた。

よく見ると、きせかえ人形のような美しい姿の女の子が白い羽をパタパタさせながら飛んでいた。


「妖精さん?」

おとぎ話に出てくる小さな妖精に見えた。

「はぁ?あんた天使も知らないわけ?!」

「天使??」

この小さな飛ぶものが天使だというのか。

─天使は実在しないと言われている─

どこかの本にはそう書いてあった気がする。


「はじめまして、少年。私は天使のラミラミよ!」

「どうも、通りすがりのネロです。」

私はペコリと頭を下げた。

「では、急いでいるので失礼します。」

私は礼儀正しく挨拶をしてその場を去ろうとした。


「ちょっと待ちなさいよ!そこは『わぁすごい!天使様だ!』ってなるところでしょ?!」

「えっ?」

この飛んでるものが天使だとしたら悪魔陣営の私にとってはややこしくなる気がする。

これ以上関わらないほうがいいと本能がそう言っている。

「わぁすごい。天使様だ。では失礼します。」

私はそう言うと走ってその場から逃げた。


後ろからついてくる気配がする。

私は急いで透明化の魔法を使い、風魔法で空に舞い上がった。

そして気づかれないように猛スピードで森を駆け抜けた。


森を抜けて振り向いてみたがさっきの自称天使はいなかった。

私はゆっくりと街道に戻り透明化の魔法を解いた。

─無駄な魔力を使っちゃったな─

転移で帰る分の魔力は取っておかないと。


私はまた歩き出した。

今の一件で思ってたより早く森を抜けることができた。

日が落ちてきた。

無理せずここら辺で帰ろうかと思っていたらまたあの声が聞こえた。


「ネロ!!あんた天使を目の前にして逃げたわね!どういう神経してんのよ!」


それは目の前でキラキラしながら飛んでいた。

「えっと、ボクに何か用ですか?」

失礼のないようにと私は一応聞いてみた。

天使は急に顔を赤らめてボソボソと話しだした。


「用っていうか、さっきあなた私を助けてくれたじゃない?あのでっかい獣から…それで、お礼もしてないし…その…」

「あぁ、あなたがあの熊に襲われてたんですね。怪我がないようでよかったです。お礼は結構です。試したい魔法も試せたし。では、失礼します。」

私はそう言ってまた頭をペコリと下げて立ち去った。

─さっさと転移して帰ろう─

足早に森へ戻り念の為透明化してから森の家へと転移した。


無事に部屋に戻った私は透明化を解いて部屋のドアを開けた。

「ただいま。」

台所にはサイカとフラルがいた。

「おかえり…」

二人はこちらを見て目を丸くしている。

「ネロ、あんた何を連れて帰ってきたんだい?」

私は嫌な予感がした。


ふと横を見ると見覚えのあるものがキラキラと飛んでいた。

「ずいぶん小さな小屋ね。ここネロの家?」

私はサイカたちに視線を戻した。

「連れてきたわけではありません。」


「ネロの家族かしら?私は天使のラミラミよ!この子のこと気に入ったから守護天使になってあげるわ!ありがたく思いなさい!」


私たち3人はドヤ顔をして飛んでいる白いものに釘付けになった。

「守護天使って何?」

「ちょっとネロ!どういうことなのよ?!」

サイカたちもよくわかっていないようだ。


「ただいまー!遅くなってごめん。」

そこにガロが帰ってきた。

ガロもみんなの視線の先を見て驚いている。

「ネロくん、妖精を捕まえたのかい?!」

ガロにも妖精に見えるようだ。


「だーかーらー!天使だってば!なんなの?ここには鈍い人間しかいないの?!説明してあげるからとりあえずご飯を出しなさい!お腹ペコペコなのよ!!」


そう言われてサイカとフラルは急いでテーブルにご飯を用意した。

サイカは小さな食器などないので小皿に少しずつ取り分けて出した。


「いただきまーす!」

そう言うと自称天使はどこからか自分用の小さなフォークを出してご飯を食べだした。

「いただきます。」

私もお腹が空いていた。


サイカたちはまだポカンとしてパクパク食べる自称天使を見ていた。

小皿いっぱいの料理を食べ終え、それは話しだした。


「あなたたちにはまず天使のことを教えないとダメそうね!

人間は勝手に天使は実在しないとか言ってるけどね、あれはまったくの嘘よ!

天使はいます!天界にたくさん!

そして妖精と間違えるのは天使に対してとても失礼です!妖精はもっと小さいし人間の言葉を話せないわよ。そんなことも知らないの?!」

妖精はときどき見かけるとサイカが言っていた。

臆病なので普段は身を隠しているんだそうだ。


「あの、なんだかごめんなさい。」

私が謝ると、

「まぁいいわ。私は心が広いので許してあげるわ。」

と両手を腰に当てて得意な顔をした。

「それでなぜここに?守護天使ってどういうこと??」

サイカは少し怒っているように見えた。


「さっき森でね、すごく大きくて凶暴な獣が私に襲いかかってきてね、もう少しで食べられそうになっていたの。そこをそのネロが颯爽とやって来て倒してくれたのよ!

だからお礼に守護天使になってあげるって言ってるの。」

「いえ、お礼は結構です。どうぞお帰りください。」

私はまたペコリと頭を下げた。


「はぁ??あんた守護天使が付くってどういうことか知らないの?!

何もせずにいろんな効果がつくのよ?!

攻撃力アップとか、状態異常がつかなくなるとか、魔力だって上がるし!!なんなら回復魔法だって使えるのよ?!

それを必要ないって本気?!バカなの?!」


「あ、本当に大丈夫ですから。お気持ちだけいただきます。」

私がそう言うと自称天使は泣きだしてしまった。


「ひどいわ…人間のくせに…天使に必要ないとか言うなんて…そんなのないわ…」


フラルはハンカチを渡していた。

「ネロ、せっかくだから守護天使になってもらいなよ。」

フラルは泣く子に弱いようだ。

サイカとガロも頷いていた。


「いや、でも本当に間に合ってるので…それに本当に天使なら問題も出てきそうだし…」

「本当に天使よ!!!ネロったらひどいわ!!」

サイカたちは私を睨みつけ始めた。

みんな天使の味方になってしまったようだ。


「じゃあ、お願いします…」

私は丸く収める選択を取った。

悪魔のことは後で考えることにしよう。

「仕方ないわね!私が守ってあげるわ!」

天使は切り替えが早いようだ。

嬉しそうに私たちのまわりをキラキラさせながら飛び回った。


「ラミラミって呼ぶことを許すわ!」


こうして不本意ながら私には守護天使がついた。


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