第十三話
私が11歳になろうとしたある日、サイカは突然結婚すると言い出した。
相手は同じように街で武器を売っている『ガル』という男だった。
私もサイカの店を手伝うたびに会っていて、知ってはいたのだが全然気がつかなかった。
フラルは「やっとかい」と言った。
私だけが知らなかったようだ。
サイカは結婚して家を出ていくのかと思ったが、ガロは森の家の横に家を建てだした。
サイカが森に住むことはやめられないと言い、ガロと協議した結果の折衷案なんだそうだ。
ネロも新居で一緒に暮らそうと言われたが丁重に断った。
フラルもネロがいいならそれでいいと言った。
「私は一人でも構わないんだけどね。」と言いながらもなんだか嬉しそうにしていた。
私の選択は間違っていなかったようだ。
派手な結婚式は「いい歳だし恥ずかしい」と言ってやらなかった。
両家の親戚が集まって宴会のようなものが行われた。
私は今できる魔法を駆使して二人に結婚指輪をプレゼントした。
この世界では指輪の交換をしないらしいが二人とも喜んでいた。
二人はとても幸せそうだった。
新居が出来上がっても夕食は元の家で4人で食べた。
フラルは「二人で食べればいいのに」と言いながらも嬉しそうだった。
やがてサイカのお腹は大きくなった。
家族が増える。
すべてがうまくいっていて、みんな幸せそうに暮らしていた。
しかしその日は突然やってきた。
私が12歳になった冬の話である。
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いつものように4人で夕食を食べていると急に部屋が暗くなった。
この世界では魔法で明かりをつけている。
サイカは魔法をかけ直したが明るくならなかった。
私たちが困っていると明かりは元に戻った。
そして同時に部屋の中に知らない男が立っていたのである。
サイカたち3人は突然のことに驚き、戦闘態勢をとった。
私は座ったままその男を観察した。
グレーの髪の毛に眼鏡をかけた初老の紳士という感じでこの世界では見慣れないスーツを着ていた。
元の世界での執事のような格好だった。
「みなさま、お初にお目にかかります。私はタカタと申します。」
「急になんだよ!何しに来た?!」
サイカは今にも殴りかかろうという雰囲気だった。
「ネロ様をお迎えにあがりました。」
「はっ?!」
サイカたちは3人とも同じ反応をした。
その次の瞬間、私はどこか知らない場所にいた。
目の前にはさっきのタカタがいた。
「さぁ、ネロ様、こちらへどうぞ。」
私はタカタに触れられることなくここに転移してきたようだ。
私は戻ろうとしたがここがどこかもわからず、転移魔法もうまくいかなかった。
仕方なくタカタについていくことにした。
全体的に薄暗いところだった。
古くさいが豪華な作りの洋館というような建物のようだ。
長い廊下の先にある部屋に案内された。
タカタはドアをノックして「ネロ様をお連れしました。」と言った。
中から「入れ」という声が聞こえた。
タカタはドアを開け、私に中に入るよう促した。
書斎のような部屋で大きな机がある。
そこにいつかどこかで見たことがある人が座っていた。
─悪魔だ─
紛れもない、ベラリス先生の本に載っていた悪魔の絵の男の人がそこにいた。
私が観察していると悪魔は笑いだした。
「わしを目の前にしても驚きもせず、怖がりもしなかったのはお前が初めてだ。」
「あの、ボクに何の用ですか?まさか…」
私はいつかの仮説を思い出してしまった。
「あなたはボクのお父さんですか?」
私がそう言うと悪魔は大きな声で笑いだした。
「何をいうかと思えば!そんなわけがあるわけなかろう!!」
悪魔はひとしきり笑うとこう言った。
「お前の髪が黒いからそう思ったのかね?」
「はい。」
私が答えると悪魔は真剣な顔に戻り自己紹介を始めた。
「私は悪魔。名をランドライトという。お前の父なんかではない。召喚した者だよ。」
─召喚─
どこかで聞いた話だった。
しかしそれは人間が勇者を召喚したという話だ。
「私は城で生まれました。なぜですか?」
「わからん。なぜ地上で…しかも王家に生まれるなど思いもしなかった。」
この悪魔が言ってることはめちゃくちゃだった。
私は鑑定スキルを使ってみたが『判定不能』と出た。
「わしを鑑定しようだなんて1000年早いわ。」
私は諦めて悪魔を観察することにした。
黒髪に黒い瞳で容姿端麗な姿は本にあったままだった。
真っ黒のお葬式のようなスーツを着ていた。
オーラというか威圧感を感じた。
「なぜ今になってここに連れてきたのですか?」
私が聞くと悪魔はこう答えた。
「お前が必要になったからに決まってるだろう。」
そしてニヤリと笑った。
─私が必要に?─
私は机の前にあるソファに勝手に座った。
帰ることができない今はこの悪魔の話を聞くしかない。
タカタは悪魔にお茶を持ってきた。
私にも同じものをテーブルに出してくれた。
私はお茶を一口飲んだ。
ふわっといい香りがする美味しいお茶だった。
悪魔は終始ニヤニヤしなから私を見ていた。
私も悪魔の方を見た。
「ボクは何をするために呼ばれたんですか?」
「なぁに、簡単なことだよ。勇者を殺してほしいんだ。」
─勇者?!─
悪魔はそのまま説明を始めた。
「お前を召喚したのは私の気まぐれだ。勇者が召喚されたと噂を聞いてな、まぁそれは結果的にはデマだったんだが。
召喚したのに目の前に現れなかったから失敗したとばかり思っていた。
しかし遊びで放った私のペットをお前は殺してしまっただろう?
その時初めてお前という存在が地上にいると知ったのさ。
興味がなかったわけではないが、ジジィが学校に悪魔除けをしだしてな…手が出せないうちにすっかりお前のことも忘れていたのさ。」
なんて無責任な話だろうか。
「しかしまた勇者が召喚されたと聞いてな、どうやら今度は本当らしいんだよ。
わしもまだその存在を確認したわけじゃないんだがな。」
私は嫌な予感がした。
「それってサイカのお腹にいる赤ちゃんじゃないてすよね?!」
「サイカとは…お前を育てたあの女か?そんなわけない。勇者が赤子から育つなんて聞いたことないぞ。
タカタよ、そんな気配あったか?」
「まったくございませんでした。」
「うむ。」
予感が外れてよかった。
タイミングが合っただけか。
「なぜ自分で勇者を倒さないんですか?悪魔って強いですよね?」
「あぁ、もちろん強いさ。しかし勇者にだけは勝てない運命になっているんだ。
神いわく、世界の均衡を保つためなんだとよ。」
絵本では均衡を保つために神は悪魔を煉獄に住まわせた。と言っていた。
「ここは煉獄?」
「いかにも。」
私は頭の中で話を整理した。
悪魔の言ってることはめちゃくちゃだが、話の流れ的に矛盾はないように思えた。
「勇者を殺すっていうことは、また地上で暴れまわって世界を滅ぼそうとしているということですか?」
「いいや、別に地上をどうにかしようなんざ思ってもいないさ。
攻めてくるのは勇者の方だよ。
この煉獄に攻め入ると勇者を召喚したバカは言ってるらしいよ。」
「地上と煉獄は繋がっているのですか?」
「穴を掘れば来れるというわけではない。ゲートという門があってそれを越えると行き来できる。繋がっていると言われればそうだな。」
勇者は何のために悪魔を討伐したいのだろうか。
地上で目撃情報がないのは悪魔が地上に用事がないからだろう。
キマイラは迷惑だったが。
なんだかよくわからなくなった。
「話はよくわかりませんがボクがやるべきことはわかりました。サイカたちが心配してるので一度家に帰りたいのですが。」
私がそう言うと悪魔はまた大笑いをした。
「そんなにホイホイ行き来できるとでも思っているのかい?!」
「行けないんですか?」
「行けたら地上にもたくさん悪魔が住んでいただろうよ。
帰るのは無理だが手紙くらいなら届けてやってもいいぞ。」
悪魔がこちらを指差すとテーブルの上に紙とペンが現れた。
『みんなへ
ボクは怪我もなく元気です。
ボクにしかできない仕事があり呼ばれてしまいました。
仕事が片付いたらきっと帰れると思います。
サイカの赤ちゃんが生まれる前に帰れるようにがんばります。ネロより』
手紙を書くなんて初めてだった。
これでいいのかはわからないが書いた紙をタカタに渡した。
どうやら私はしばらく煉獄で過ごさないといけなくなった。
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