第九話
学校での生活も半年が経った。
10人いたクラスメイトは半分の5名になっていた。
想像と実際のギャップに堪えられなくなった貴族の子供たちが次々と家に帰って行った。
私以外の4人はそんな光景を目の当たりにしてお互いの結束を強めたようだった。
ユイはその中でもリーダー格となりみんなを励ましていた。
ダリルはすっかり大人しくなり、身の程を知ったのか自慢話をしなくなった。
根は真面目ないい子なのかもしれない。
ダリルに金魚のフンのようについて回っていた『ナック』は水魔法の使い手だ。
もう一人の女子『キャリン』は風魔法を使う。
4人とも私には及ばないが他の同年代に比べるとはるかに優秀だった。
学校では薬草の知識も教えてくれた。
調合して精製して回復薬や解毒薬を作る授業もあった。
私は早いうちから治癒魔法が使えたのでこの分野にはノータッチだった。
この世界での薬草は種類も多く、作用も色々あった。
知らないことを覚えるのは大変だったがやりがいもあった。
私の毎日は充実していた。
生徒会長のアリアは私をみつけるたびに話しかけてきた。
「ネロの活躍は3年生まで噂になってるわよ!」
と、楽しそうに話していた。
そんなことも私にはどうでもよかった。
誰に何を言われていようが私には関係ない。
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秋も深まりもうすぐ冬になるという頃、学校では宿泊学習という名目の演習が予定されていた。
寒くなると魔物も鈍くなるのだという。
その鈍くなった魔物を相手に実地訓練をしようというものだ。
王都のすぐ近くに深い森がある。
王都は高い塀で囲まれていて結界が張り巡らされているので魔物は侵入してこない。
王都を目指してやってきた魔物は侵入できずにその森に棲みついてしまうことがあるのだという。
だからこの演習は王都にとっても好都合のイベントなのだ。
────
演習には各学年のSクラスの生徒が参加することになっている。
総勢21人プラス先生3名が大きな馬車3台に別れて出発した。
1年生は少ないからと言うことで3年生のアリアとマーサが1年生の馬車に同乗した。
「なんで私が1年生なんかと…」
マーサは相変わらずブツブツと文句を言っていた。
アリアは終始上機嫌で去年の演習の話を聞かせてくれた。
初めて参加する1年生たちはその話に釘付けになった。
魔物と言っても大きくてイノシシくらいのサイズだという。
思っていたよりも魔物が弱そうだったのでみんなは安心したようだった。
1時間ほどで目的の森についた。
森の入り口には大きなログハウスが建てられており、ここが拠点となる。
「各自、部屋に荷物を置いて15分後にここに集合すること!」
部屋は4人部屋だった。
1年生の男子3人と生徒会副会長のベルクが同室となった。
「俺は一応指導係だから、何かわからないことがあったら聞いてくれよな。」
「はい!ベルク副会長!」
ダリルとナックは明らかにベルクを憧れの眼差しで見ていた。
確かに爽やかなイケメンという感じで加えて強いときたら憧れの対象になるだろう。
広場に集合した生徒たちは薪集めや山菜の採集を命じられた。
魔法を使ったサバイバルという授業の実地訓練になる。
私は探知スキルを使って食べられそうな物を片っ端から採集した。
探知スキルと鑑定スキルがあれば楽勝だ。
ダリルとナックは薪集めにまわった。
そっちの方が体力は使うが簡単だからだ。
マーサが私に近づいてきて、
「そんなにホイホイ摘んで毒草でもあったらどうするつもり?」
と私のカゴの中を確かめた。
「あら、ちゃんと食べられるものがわかってるのね。」
マーサは珍しくニヤリと笑って立ち去って行った。
1時間ほどで終了の合図が鳴った。
私たちはログハウス前に戻ってきた。
薪は十分に集まった。
山菜もマーサを筆頭に上級生たちがたくさん集めてきてくれた。
ユイとキャリンは毒草を摘んできてマーサに怒られていた。
「私を殺すつもりなの?」
「ご、ごめんなさい…」
二人は料理で挽回すると言って張り切って鍋に向かっていた。
私はそっちの方は全く自信がないので大人しく見ていた。
先生が持ってきた材料も足して立派な山菜鍋ができた。
肉と野菜も合わさりとてもいいにおいがした。
星空の下で食べるご飯は美味しかった。
先生は「自力で集めた食材だから美味しいんだよ」と言っていた。
私は肉が入ったから美味しくなったのだろうと思ったがあえて言わなかった。
そうして1日目はあっという間にすぎた。
同室のみんなも疲れていたのだろう。
風呂を終えて部屋に戻るとみんなすぐに寝てしまった。
私もさすがに疲れてベッドに入るとすぐに眠ってしまった。
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翌朝、朝食をすませた私たちは外の広場に集まっていた。
「学年ごとに集まって探索をすること、先生の指示をよく聞いて絶対に単独行動はしないこと!」
「はい!」
ベラリス先生率いる1年生は森の西側担当になった。
比較的明るくて小さな魔物が多いのだという。
みんなは杖を握りしめてゆっくりと森に入っていった。
大きな魔物の気配はない。
私は魔物がいる方向をみんなに教えた。
「ほほぅ、君は気配探知も使えるのかね。」
ベラリス先生はいつものように嬉しそうに私を見た。
ユイたちは入学式のときとは比べ物にならないくらいの強い魔法が使えるようになっていた。
光属性のユイも攻撃系の魔法を覚えることができ、今回も積極的に魔物を討伐していった。
狩った魔物はベラリス先生が便利アイテムのアイテムボックスと呼ばれる小さな亜空間スペースに入れた。
好きに物を出したりしまったりできるのだそうだ。
とても便利だけど簡単に作れる代物ではなく、とんでもなく高価なものなんだという。
─いつか自作しよう─
もちろん私も買えるわけがないので研究して自分で作ろうと心に誓った。
午前中は各学年問題なく魔物狩りをした。
しかし昼食後の休憩時に事件は起こった。
突然森の奥からSクラスの魔物がやってきたのである。
キマイラと呼ばれるその魔物はライオンをベースにゴリラと蛇をくっつけたような奇妙な姿をしていた。
先生たちは生徒に下がるように指示をした。
とても生徒では太刀打ちできない魔物だということだ。
ベラリス先生を筆頭に3人の先生は連携を取ってうまく立ち回っていた。
見ているだけでもとても勉強になる戦いだ。
しかし相手も簡単には倒されてくれなかった。
なかなか仕留められずにいる間にもう一匹やってきてしまった。
先生たちは目の前のキマイラに集中していてそれに気がついていない。
先生3人掛かりでも苦戦を強いられているわけで、10歳程度の子供たちが束になっても相手にならないだろう。
私は考えあぐねた結果、生徒たちの前に来る前に倒すことにした。
先生たちの様子を見て私には勝てる勝算が取れていた。
私は影からもう一匹のキマイラのところに転移した。
ちょうど昨日山菜を取った場所だった。
蛇の部分が毒を飛ばそうとしたので蛇の部分の根本を切った。
風魔法を応用して高速回転させてカッターのようにした。
切れ味がよかったので蛇の部分は動けないように細切れにした。
─なかなかいい感じの仕上がりだな─
私は次にゴリラに向かって土魔法で大岩を作りそれをぶつけてみた。
ゴリラは頭に直撃を受けて失神したようだ。
─これはイマイチだな─
そして残るライオンには火魔法で射抜いてみた。
火矢のようにして数発放ってみたがどれも貫通してしまい火事を起こしそうになった。
慌ててそこに水魔法をかけて火を消した。
燃えながらもライオンは生きていた。
失神していたゴリラも目を覚ました。
─火魔法は扱いにくいなぁ─
そして私は取っておきの魔法を試した。
使ってみたかったが、なかなかタイミングがなくて使えなかったものだ。
私はそれをライオン目がけて放った。
闇属性の重力魔法で物体を圧縮するというものだった。
ライオンとゴリラ、それに細切れになった蛇はその真っ黒な魔法に吸い込まれていった。
そしてあっという間に圧縮されて小さくなった。
コロンと転がったそれはただの黒い球体になった。
私はそれを拾い上げた。
「アチッ」
圧縮したばかりのソレは熱を帯びていた。
─こんなに熱くなるんだ─
相当なエネルギーがそこに集中した結果なのだろう。
私はなんとか拾い上げて元いたログハウスの影に転移して戻った。
どうやら先生たちの戦いは佳境を迎え、生徒たちは私がいなかったことに気がついていなかった。
私も応援の輪に加わり、ついに先生たちはキマイラを倒した。
あたりは拍手喝采が巻き起こった。
ベラリス先生は倒れたキマイラをアイテムボックスに片付けた。
「こんな大物が居るとは思わなんだ。調査不足で申し訳なかった。演習はここまでとする!」
生徒たちは大興奮のまま帰り支度をして帰路についた。
帰りの馬車の中でも先生たちの武勇伝で生徒たちは大いに盛り上がった。
私はポケットの中からあの黒い球体を出して眺めた。
それは美しく艷やかで真っ黒だった。
「珍しいわね、ネロが笑っているなんて。」
ユイが不思議そうにこちらを見ていた。
─私が笑っていた?─
気がつかないうちに私はニヤニヤとしていたらしい。
相変わらず心の中は真っ黒だったが、もしかしたら私にはいろいろな感情が芽生えつつあるのかもしれない。
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