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プロローグ

私は人の気持ちがわからない。


なぜ笑ったり泣いたりするのかわからない。


何が楽しくて何が悲しいのか、私にはわからない。


─そう、私には感情というものがない。─



────


私には家がない。

私には家族がいない。


『かわいそうに』とよく言われるが何が『かわいそう』なのか私にはわからない。

私に家族がいて、家があったとしても今と何かが変わるだなんて想像もつかない。


だって私は私だから。

まわりがどんなに変わったとしても私が変わるとは思えない。

何度もシュミレーションしてみたけれど、私には同じ結果しか出てこない。


『私は変わらない』


人はよく、自分や他人を比べて『幸せ』だとか『不幸』だと言う。

確かに表面上は『幸せ』に見えたり、『不幸』に見えることがある。


お金持ちの男は大きな家に住み、高級車を並べてドヤ顔をしている。

それは『持っていない』人が見ると『幸せ』に見えるかもしれない。

自分の手の届かないものを『持っている』人を羨ましく思うことがあるかもしれない。


しかしその男はたくさんの人に囲まれながらも常に孤独で、ある人から見るとそれは『不幸』なのかもしれない。


逆にボロボロのアパートに母親と子供の二人暮らしをしているその子供は『不幸』だと見えがちだが、二人はお互いを思い合っていて貧しさなんて気にしない『幸せ』な生活をしているかもしれない。


そんなあやふやな『幸せ』や『不幸』なんて私にはどうでもいい。



私は『死ぬ意味がない』から生きている。

ただそれだけのこと。

まわりからどんなに『かわいそう』と言われてもどうでもいい。

なぜ私にそんなことを言うのかもわからない。


所詮、人間なんて全ては自分のために行動している。

善も悪も最終的には全て自分のために行うことだ。

自分の欲望を満たすために人は生きている。


だからなんだということはない。


別にどうでもいい。

誰が何をしていようと私には関係ない。


私の歯車は誰の歯車とも噛み合わない。


────


放課後の教室は西日がさしてオレンジ色になっていた。

外からは部活動で汗をかく人たちの声が聞こえる。

私はいつもみんなが帰るまで教室にいた。

受験の話や新しくできたカフェの話なんかが聞こえなくなるまで、私はできるだけ気配を消して教室にいた。

入学当初は話しかけてくる人もいたが、今はいない。


私に話しかけても『生産性がない』とみんな気がついてくれたからだ。

平凡な公立高校の2年生はそんなものに使う時間はない。

やりたいことがたくさんある彼らには私に構う時間などないのだ。


静かになった廊下はなぜか薄暗くて永遠に続くように思えた。

階段も同じようにいつまでも続く螺旋階段のように見えた。


─今日はなんだか変だな─


違和感を覚えたがそれ以上考えるのをやめた。

そしていつものように誰もいない玄関から学校を出る。


いつもならこのまま静かに校門を出るのだが、この日は違った。


あたりに悲鳴が響いていた。

部活中のジャージ姿の生徒たちがこちらに向かって走ってくる。


私は気にせずいつものように帰ろうとした。

みんなが何をそんなに怖がって声を上げているのかわからなかった。

別に知ろうとも思わない。


しかしそれは突然やってきた。

私の前に現れた黒い塊は光るものを私に向けた。

私はその塊の中にある目を見た。

その目は燃えるような赤で鋭くこちらを睨みつけ、大きな口はニヤリと口角を上げていた。


そして次の瞬間、私は腹部に熱いものを感じた。

ゆっくりとお腹に視線をやるとそこには真っ赤なものがあった。


あたたかくて、真っ赤なものが。


私は目を閉じた。

いや、自分から閉じたのかわからない。


ただ真っ暗闇に私は落ちた。

何も感じない。

何も聞こえない。


静かで、真っ暗だった。


────


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