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1 生まれ変わりはモフモフに

 あぁ、こんな最期を迎えるなんて……。


 大嫌いだった姉から婚約者を奪い、贅沢な暮らしをしていたら愛想を尽かされ結局追い出されてしまった。


 私のことを愛してる、好きなものは好きなだけ買うといいとあんなにいつも言っていたのに。でもわかったの、間違っているのは私だったってこと。

 みんな何度も注意してくれていたのに、私の耳には何も入ってこなかった。聞こうともしていなかったのだわ。

 

 誰の役にも立たず、疎まれてこうして追放された挙げ句に野垂れ死にするのね。


 どうか、生まれ変われるのならば今度はちゃんと誰かのために役に立ちたい。ただそこにいるだけで誰かの心を和ませるような、幸せな気持ちになれるような、そんな存在に……。



◇◆◇


(ハッ!ね、寝てた?えっ?あれっ?私、追放されて野垂れ死んだはずじゃ……)


 目を覚ました前世での追放令嬢メリアは、起き上がると違和感を感じ自分の体をまじまじと眺めた。


(なんだろうこの感覚、なんかいつもと違う、ってあれ?なんで体が毛に覆われているの?しかもなんか頭の方がちょっと重いし、音が大きく聞こえるような……っていうか何この手足!?)


 一刻も早く全身が見たい。そう思い周囲を見渡すと近くにあった池を見つけ、池の方へ歩き出す。だが、それは歩き出すという表現にはほど遠かった。


(え、なんで跳ねてるの?え?何?まさかこれって)


 恐る恐る池を覗くと、そこには以前の自分とは全く違う姿が映っていた。


(え、待って、何このウサギめっちゃ可愛い!シルバーグレーの毛並みはもふもふだしお目目もクリンとしてる。おでこになんか小さな石があるけど……金色で綺麗だわ。可愛いすぎ!って、いやいや違うでしょ。待って、なんで、なんで私ウサギになってるの!?まさか、生まれ変わった!?)


 呆然と池を眺めていると、背後から何か殺気めいたものを感じる。背筋が凍り、ゾワゾワとしてその場から立ち去りたいのに一歩も動けない。


(な、何この気持ち悪い怖い感じ、何?何がいるの?)


 そうっと、静かに後ろを見てみると、茂みの中に赤く光る目が何個も連なっていた。その光る目が少しずつ茂みから出てきて……!その姿は、一見オオカミのような姿をしてるがその口元からはありえないほどの大きな牙が出ている。


(え、オオカミ?じゃない?何この生き物!?えっ、まさか私狙われてる?食べられちゃうの!?ヤダヤダヤダ!)


 メリアは思わずダッシュするが、オオカミのような生き物たちはすぐさま追いかけてくる。ウサギの全速力でもあっという間に追いつかれてしまうのは目に見えた。


(ヤダヤダ、こんなところで死にたくない!せっかくこんな可愛いウサギに生まれ変わったのにこんなあっという間にオオカミみたいな変な生き物に食べられちゃうなんて!まだ誰のためにも役に立っていないのに!)


 メリアは走りながら祈った。もっと速く、もっと速く走りたい!


 そう祈った途端、メリアの額の石と足が金色に光ったかと思うと走る速度が異常に速くなった。


(う、え、え!?まって早い早い速い速い!いやー!)


 砂埃をあげてメリアはオオカミのような生き物をあっという間に離していった。





◇◆◇



(ういやあぁぁ!止まらないいいぃぃ!ど、どうしたらいいの、どこまで走るのこれ!?)


 ものすごい勢いでメリアはずっと走っていた。ウサギの脚は脆いはずなのに、こんなにものすごい勢いで走っていても骨折もせず異常もない脚に驚きを隠せない。


(な、なんか目の前にすごいお城みたいなの見えてきた、けどどうしよう、このまま行くと壁にぶつかっちゃうよね?え、待って、やだもうすぐ壁に、ぶつかる!)


 城のような建物が見えたかと思うと、あっという間に目の前に壁が出現した。このままでは確実にぶつかって死んでしまうだろう。


(ヤダヤダヤダ、お願いだから止まって!)


 メリアが祈ると、おでこの金色の石と共に体が金色に光り、急ブレーキをかけたかのように脚は止まった。壁の本当にすぐ目の前で。


(と、と、止まった……よかった)


 はあはあと息を切らしながらメリアはほっとする。息を落ち着かせてから辺りを見渡すと、目の前には大きな大きな城のような美しい建物がそびえ立っていた。


(このお城はどこのお城かしら?王都のものではないわよね、見たことないもの)


 首を傾げながら上を見上げると、遠くで声がするのが聞こえる。その声はどんどん近づいてきた。


「さっき窓の外に金色に光る何かが見えたんだ。こっちの方だったんだよ」

「イベリス様、お待ちください。確かにこちらの方で魔力のようなものを感じました。ですが城の結界をすり抜けるなどあり得ません。一体何かわからないのですから気をつけてください」


 小さい男の子の声と大人の男性の声。メリアは耳をピクピクとさせると、声の主は目の前の壁の曲がり角を曲がってメリアの目の前に現れた。


 十歳くらいだろうか。美しい金髪に翡翠色の瞳、色白の肌は透き通るようで可愛らしいという言葉がぴったりの少年だ。着ている服は上質なものでとても気品がある。そしてその少年を庇うかのように歩くのは二十五歳前後だろうか、若草色のローブを羽織り、薄い紫がかった白く長めの髪をゆるく一つに束ねた男がいる。


「モルガ!見て!ウサギがいるよ!」


 少年がメリアを見つけて嬉しそうに笑う。そしてそばにいた男はメリアを見て両目を見開いた。


「これは……!イベリス様、お待ちください。この生き物はウサギのようでウサギではありません、聖獣です!」

「聖獣?聞いたことあるような気がするけど、それってすごい生き物なの?」


 メリアを見て二人はあれやこれやと騒いでいる。


(え、なんだろう、この人たち。どちらもあり得ないほど綺麗……なんかすごいこっち見て騒いでるけど、なん、だ、ろ……)


 突然の眠気に襲われ、そのままメリアは気を失った。





◇◆◇



 暖かい手に優しく優しく撫でられている。頭を撫でたり、体を撫でたりしているがその手つきは控えめに、でも慈しむような手つきだ。


(あぁ、すごく気持ちいい……ずっとこうして撫でられていたいわ)


 ぼんやりとした頭でうっすらと目を開けると、両膝が見える。どうやら、先ほどの少年の膝の上で少年に撫でられていたようだ。


「あ、目が覚めた?おはよう。急に倒れちゃったからびっくりしたよ。大丈夫?」


 少年はメリアの顔を覗き込みながら優しく微笑み、心配そうな顔で聞いてきた。


(あ、あ、あ、なんて、なんて美しいお顔……!)


 メリアは思わず見惚れてしまう。そんなメリアの様子に、少年は問題ないと受け取ったのだろう、嬉しそうに微笑んだ。


「大丈夫みたいだね、よかった」


 少年の膝の上でメリアは辺りをゆっくりと見渡した。どこかの部屋だろうか。高貴な方が過ごすような部屋で驚いてしまう。

 少年のむかえには先ほどの若草色のローブを羽織った男と、もう一人別な男がいた。その男はどうやら騎士のようで、腰に剣を下げている。年は若草色のローブを羽織った男と同じくらいで艶のある黒髪にルビーのような瞳、スラリと引き締まった体で背も高い。


(どうしてみんなこんなに美しい人ばかりなのかしら?こんなに美しい人たちがいたのなら王都でもっと噂になったり騒ぎになったりしてもいいはずなのに)


 ぼんやりとその騎士のような男の顔を見つめると、その男と目が合う。だがその男の目つきは鋭く、無表情でむしろ怖い。


(美しい顔なのに、な、なんか怖い)


 少し怯えて思わず少年の手に擦り寄ると、少年は騎士のような男を見て笑った。


「ほらサイシア、そんな真顔ではダメだよ。この子が怖がっている」

「申し訳ありません、生まれつきこの顔なので」


 サイシアと呼ばれたその男は表情を変えず静かにお辞儀をした。


「さて、目が覚めたようですのでイベリス様、話の続きをしましょう。先ほども申し上げました通り、その生き物は聖獣です。聖獣は古くからの言い伝えでこの国コランダでは神の使いと言われており、強い魔力を持っています。その聖獣と心を通いあわせることができれば災いを遠ざけ強力な護りを施してくれると言われています」


 モルガと呼ばれていた若草色のローブを羽織った男が話し始める。


(え、私ってそんな生き物なの?っていうか魔力って何?しかもコランダ国って言わなかった?聞いたこともないのだけれど……もしかして、前に生きていた世界とは別の世界なのかしら……)


 メリアは疑問に思いながらモルガの話を聞く。


「イベリス様がこの聖獣と心を通い合わせることができれば、きっとイベリス様の強力な力となるでしょう。現に、すでにイベリス様とこの聖獣の友好度が上がっているようです、聖獣の魔力に変化が見られます」


 興味深いものを見るようにモルガはメリアをしげしげと眺める。そんなモルガの様子に、メリアはまたイベリスの手に縋り寄った。


「モルガ、あんまりこの子を怖がらせないでよ。聖獣なのかもしれないけど小さくて可愛い生き物でもあるんだから。聖獣とか関係なく、僕はこの子と仲良くなりたい。ねぇ、君は僕と仲良くなってくれる?」


(はぁぁぁん!可愛い!可愛すぎるでしょ!仲良くなりたいに決まってますとも!)


 優しくイベリスに聞かれ、メリアのハートはすっかりうち抜かれてしまった。返事をするようにまたメリアはイベリスの手に擦り寄る。先ほどとは違う、親愛を込めた擦り寄り方だ。そしてイベリアの指をぺろぺろと舐め始めた。


「わぁ、見て!ちゃんと返事をしてくれたよ。可愛いね!この子はこの城で僕が責任を持って育てるよ。名前は……そうだな、アリアネル、通称アリアだ!」


(アリアネル、アリア、なんて素敵な響き……!メリアにもちょっと似てるけど、この体で新しい名前をもらえたんだもの、アリアとして立派に生きてみせるわ!)




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