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いよいよダルトリー王国へ

 武骨そうに見えるチャドが淹れてくれたのはブレンドティーで、深みとキレがあってすごく美味しかった。


 ちゃんとミルクもあたためてくれていたので、体が冷えきっていることもあって三杯もおかわりをしてしまった。


(この最高のお茶にスイーツがあれば、いうことなしね)


 そう思ったのはわたしだけではない。


 ロバートも同様のことを考えていたみたい。肩を並べて長椅子に腰かけている彼と視線が合い、おもわず苦笑してしまった。


 それはともかく、チャドから事情をきいたところによると、天災や反乱の影響で領地内でいろいろなものが壊れたり破壊されたりしているらしい。特に領地内の人々の生活に必要不可欠な何本もの橋と主要道路が不通になり、輸送や連絡の手段が断たれているらしい。彼の領地は、隣国ダルトリー王国との国境に位置している。その為、帝国内よりむしろダルトリー王国と密接にやりとりをしている。その輸送手段が断たれたことによって、生活必需品や食料なども不足しているという。


「私財をかき集め、売りはたいた。それでなんとか資材は購入出来た。が、人手がない。だから、きみらから金貨をせびろうとした。雇う為にな。もっとも、ここを通過したところでいま言ったように隣国への道は閉ざされておるがな」


 チャドは、まったく悪びれた様子もなくそう言ってのけた。それがかえって清々しく感じられる。


「ガハハハ!」


 そして、彼は豪快に笑った。


 不思議と腹が立ったり不快に思わない。


「なるほど。ということは、われわれは進み続けても国に戻ることは出来ないわけですね」


 ロバートが尋ねた。


 一瞬、問題にするのは「そこなの?」って思ったけれど、口には出さなかった。


「ああ。が、案ずるな。帝国に来たルートを戻るといい。さして時間はかからぬ」

「なるほど。それでは、しばらく時間を下さい。すぐに工兵部隊を派遣します。橋だけでなく、道や建物の修復を行いますので」


 内心で驚いた。ロバートは、即座にそう決断したからである。


「当然だ。わしの領地もきみらの領地になったのだから」


 チャドは、当然のことのように受け取ったみたいだけれど。


 手配の為にさっそく戻ろうと長椅子から立ち上がったとき、チャドに声をかけられた。


「わしのことを放置してくれただろう?」


 チャドは、例の税などのことを言ったのだ。


「ええ、まあ。状況を見て勝手に判断しました。ああいうものは、とれるところからとればいいので。それに、わたしたちも普通に暮らしてその分を帝国民にまわせばよかっただけですので」


 結局、皇族はその普通の暮らしは出来なかった。


「きみがずっといれば、皇族も安泰だったろうにな。自業自得というやつさ。帝国民にとっては、自分たちの生活さえ保障されれば、だれが支配しようとかまわんのだから」


 たしかに、その通り。


「ユア、きみのご両親のことだが……」


 いままさにエントランスを出ようとチャドに背を向けた瞬間、彼が言いかけた。


「両親ですか?」

「あ、ああ。いや、知っておったからな」


 あれほど歯切れとテンポよく話すチャドが、急に歯切れもテンポも悪くなった。


「そうでしたか。また機会がありましたら、両親の話をきかせてください」

「ああ、そうだな」


 再会を約束し、彼の元を辞した。


 チャドはわたしの両親のことを、具体的には両親の死のことでなにか知っているのかもしれない。


 チャドのことをロバートと話しながら、そう確信に近いものを感じていた。



 

 結局、ロバートたちがこのデイトン帝国にやって来たのと同じルートで越境し、ダリトリー王国に入った。


 ダルトリー王国は、初めての訪問である。そして、もしかすると終の棲家になるのかもしれない。


 まだデイトン帝国の情勢が落ち着かず、各地で争いやいざこざが多発している。その為、国境に近い駐屯地では厳戒態勢が敷かれている。

 それとは別に、チャドの領地も含めてこの反乱によってめちゃくちゃに破壊された建物や橋梁や道などを修復する為に、工兵部隊が続々とデイトン帝国へ向かうことになる。


 わたしたちはとりあえず駐屯地のひとつで体を休め、それから王都へと向かった。


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