もうひとりの王子ですって?
(わたし、そこじゃないわよね?)
自分で自分にツッコんでおいた。
わたしのボケはともかく、王妃の話によると、宰相の双子の妹というのは国王が唯一過ちをおかした相手らしい。
ダルトリー王国の王位継承者は、基本的には側妃はおかないという。基本的には、だからぜったいではない。が、宰相の双子の妹は強引だった。そして、彼女は王子を産み、暗黙の了解的に王宮の王族の居住区域に住むことになった。
「とにかく、その王子が厄介なの。だから、王族としてすごすことは許されても王位継承権はなかったの」
「それが、いま王太子の座を狙い始めたというわけですね」
「ええ」
みなまできく必要はない。こういうことは、どこの国の支配者階級にはよくあることだから。
「わたし、ですか? わたしがきっかけなのでしょうね、やはり?」
わたしがしゃしゃり出てきたばかりに、宰相たちにスイッチが入ってしまった。
ロバートの存在だけなら、彼は王太子としてはまだまだである。ロバートは、根っからの軍人で将軍職が大好きである。もしかすると、そちらに専念し続けていたかもしれない。
極論かもしれないけれど、ロバートは将軍職だけを望んで王太子の地位はその王子に譲ってしまったかもしれない。
「それで? その王子は優秀なのですか?」
そこである。だれの子であろうと、どんな後ろ盾がいようと、ようは当人が重要なのだ。
当人が支配者として問題なければ、国民にとってそれが最善である。
国民は、だれが支配者になってもいい。はやい話が、平和で豊かで穏やかな暮らしを保障してくれさえすればいいのだから。
「それが、よ」
王妃は、おおきな溜息をついた。
「ユア、ごめんなさいね。このことを伝えるだけでも、フェアじゃないと思うの。ロバートの実母であるわたしが、ロバートとその王子について話すことをね」
彼女の言いたいことは分かる。
自分の子の方が可愛いのは当たり前。
ということは、王妃は実子のロバートのことを褒めたとしても、悪く言うことはない。逆に、夫と別のレディとの間のその王子のことをけなしたとしても、けっして褒めることはない。
「わかりました。自分で見聞きしてみます」
彼女の意を察した。
じつは、宰相の妹や王子に会ったことはない。それどころか、見たこともない。
そのような存在のひとつやふたつ、想定しておくべきだった。
王妃には警告のお礼を言って密談を終えた。
朝、厨房のテーブルで料理長たちと朝食を楽しんでいた。
この日は、おからパンを焼いてみた。蒸すタイプではなく、食事用にと焼くタイプを何度も試行錯誤を繰り返し、やっと納得のいくものに仕上がった。
自分ではそう思っている。
というのも、おからでパンを作るのは、焼くより蒸す方が適している。
それでも、なんとかトースト用の食事用パンが完成した。
金物屋に頼んで取り寄せてもらったトースト用の二斤用の型で焼き上がったおから食パンを切り分け、トーストしてバターやジャムを塗る。
今朝は、おからトーストと卵とベーコンとマッシュポテトとヨーグルトである。
おからトーストは、料理長を始め料理人たちにも好評だった。
料理長たちは、けっしてお世辞は言わない。ビシバシ批評してくれる。
それがおおいに助かる。
だから、ロバートをのぞいては彼らに真っ先に試食してもらうのである。
「ファイアストン公爵子息が、王太子妃殿下に面会されたいと」
朝食を終え、みんなでおからトーストのさらなる改善で意見を交換しているときである。
執事のひとりがやって来て告げた。
どうやら、マットが出張先から戻ってきたようである。
(会わないわけにはいかないわよね)
というよりか、「会わない」といういい訳を考えるのが面倒である。
だから会うことにした。
その旨を執事に伝えようと顔を上げると、当のマットが厨房に入って来たのが執事越しに見えた。
彼は、まっすぐこっちに向ってくる。




