王妃と密談?
「ユア、急に連れだしたりしてごめんなさいね」
王妃は、王族の居住区域内の廊下を歩き始めるとうしろを気にしながら小声で言った。
わたしたちのうしろには、レオはもちろんのこと親衛隊の隊員がついて来ている。その二名の隊員は、王妃専属である。
「なにかあったのですか?」
こちらも小声で返す。
「ええ。あなたに伝えたいことがあるの」
「厨房でよろしければ、そこで。あの、王妃殿下。失礼ですが、うしろの二名の親衛隊の隊員は?」
信頼出来るのか? つまり、宰相に飼われているのかどうかを遠まわしに尋ねる。
「ユア、あなたの思っている通りよ。いまいましいったらないわね」
「それでしたら、隊員たちには厨房でお茶でも出します。レオに相手をしてもらっている間に『レディトーク』をしましょう。レディどうし、男性陣にはきかせたくない話をするのです」
「『レディトーク』? いいわね」
王妃は、クスクスと笑い始めた。すごく可愛らしく、ほんとうに可笑しくて笑っているという感じがする。
王妃の心からの笑顔を見たのは、このときが初めてだった。
「王妃殿下とスイーツ談義をしたいの。長くなりそうだから、最新作の『おから蒸しパン』の試食をお願いしていいかしら? レニー、ふたりにおからについて説明をお願い。あとで感想をきいて参考にしたいから、しっかり味わって食べてね」
最新作、というのはほんとうである。
おからと卵とさとうと豆乳と重曹を混ぜて蒸したのをベースに、刻んだイモやココアパウダーやドライフルーツを混ぜ込み、さまざまな蒸しパンを作ってみた。
料理人たちにはウケがよかった。
ほんとうは、料理人たち以外ではロバートに真っ先に試食してもらいたかった。
スイーツ好きの彼は、どれでもなんでも「美味い」と全力でお世辞を言ってくれる。
それを見たり聞いたりすると、お世辞とわかっていてもめちゃくちゃうれしくなる。テンションが上がり、もっともっと美味しいものを作ってみたくなる。
が、そのロバートはいつ帰って来てくれるかわからない。
なにせわたしの祖国の為に奔走してくれているのである。はやく帰って来て欲しい、とワガママは言えない。
(って、当り前よ。試食をしに帰って来てなんて言えるわけないわ)
そこであることに気がついた。
(違うわね。試食の為ではない。会いたいのよ。会って、例のキャロルとのことを謝ったり話をしたりしたいのよ)
が、それもなにか違う気がする。
もっと違う意味で帰って来て欲しい。彼に会いたい気がする。
ただ、それがなにかがわからない。それを考えると、胸の辺りがチリチリと痛むのである。
「わおっ! すごく美味そうですね。ほんとうにおれたちみたいなのが食っていいのですか?」
「王太子妃殿下のスイーツは、なんでも美味いです」
王妃専属の親衛隊の隊員たちの声でわれに返った。
「ありがとう。そんなにおだててもらったら、あなたたちに賄賂を渡さないといけないわね。もちろん、スイーツをだけど」
王妃曰く、このふたりは宰相に飼われている。いまの「賄賂」という言葉は、嫌味っぽかったかしら?
「はい。王妃殿下のスイーツと引き換えなら、おれたちなんでもしますよ。なっ、カーティス」
「そうだとも、クリフ」
ふたりは、嫌味とは受け取らなかった。
「王太子妃殿下、おからの説明はバッチリしておきます」
レニーがささやいてきた。
彼は、気がついているのだ。わたしの意図することを。
彼に頷いて見せ、待たせている王妃のもとへ行った。




