国王と王妃と試作品
「こちらは、新作のクッキーです」
国王と王妃には、定期的に会っている。いまの寒い時期はティールームで会っているけれど、季節がよくなれば庭園の東屋で会うのもいいかもしれない。
温室だけでなく、庭園も変えていく予定にしている。
残念ながら、ここにやって来たときは冬期に入っていた。その為、庭園もほぼ封鎖状態だった。というわけで、どんな花々が咲き誇っていたかはわからない。
それはともかく、今回の差し入れは、おからで作ったクッキーにした。
ティールームには国王と王妃とわたしの三人だけ。
廊下には親衛隊の隊員たちが立っている。
「大豆を使ったクッキーなのです。プレーン、アールグレイ、ナッツ、チョコチップ。お茶は、ジンジャーティーにしました。今日はいっそう冷えますので、体があたたまるはずです」
「おお、これがこの前話をしていた大豆の試作品だね?」
「見た目は、いつものクッキーのようね」
国王と王妃は、つまんでは上品に食べている。
「味も食感も小麦粉のクッキーとかわらないね」
「そうね。すくなくとも、わたしにはわからないわ」
「陛下、王妃殿下。そうなのです。小麦粉と遜色ないようにする為、試行錯誤を繰り返しています。おからのクッキーは、小麦粉と違ってダイエットにいいのですよ」
「ほんとうに? では、いくら食べても太らないのかしら?」
「ほう。ということは、罪悪感なく心ゆくまで食べることが出来るな、王妃?」
「陛下、意地悪をおっしゃらないでください」
国王の冗談に王妃と顔を見合せて笑ってしまった。
「クッキー以外にも、大豆を使った料理も試作中なのです」
「それは楽しみね。ということは、食事も罪悪感なく出来るということ?」
「王妃殿下、さすがにすべての食事をというわけではありませんが……。それでも、置き換えてじゃっかんは痩せたり健康によかったりはするかもしれません」
それよりも、大豆の生産や大豆の加工品を普及出来ないかを模索しているのだと伝えた。
「専門家などにも相談し、少しずつではありますが計画は進んでおります」
「大変かもしれないな。あたらしいことを受け入れるということは、だれにとっても難しい。わたしたちのよに遠くから眺めている分には無責任に『やってみろ』とか『がんばれ』と言えるのだが、当事者たちにとっては不安でしかない。それをわからせるのが、またひと苦労だろう」
「はい、陛下。重々承知しております。ですが、やらなければいずれダルトリー王国は……。鉱物資源は無尽蔵ではありません。実際、徐々にではありますが産出量は減少しております。いまのうちに手を打っておくのと、その事実にふたをしておくのとではまったく違ってまいります」
「ユア、まったくその通りだ」
国王は、何度もうなずいていた。
まったくその通り。
その一語に尽きる。
「ユア。もしよかったらこのクッキー、わけてもらえないかしら?」
「王妃殿下、もちろんです。あとでお届けします」
「いいのよ、わざわざ。よければ、いまから取りに行きたいわ」
「はい?」
王妃の突然の申し出に困惑した。
というか、違和感を抱いた。
「ですが、王妃殿下……」
「お願いよ、ユア」
いまだ美しい彼女の顔には、どこか訴えるものがある。
(もしかして、他になにかあるのかしら?)
なにかを察した。
「それでしたら、王妃殿下」
だから、即座に了承した。
国王に暇乞いをし、王妃とともに王族の居住区域にあるティールームをあとにした。




