ロバートの言葉
ロバートは、デイトン帝国からまだ戻ってこない。
元夫であり元皇帝であるアダムズは、デイトン帝国内を引き回されている。
さっさと断頭台の露と消える方が、彼にとってはラクである。
(わたし? わたし自身はどう思っているのかしら?)
五年間に及ぶ皇宮の森にひきこもってのサバイバル生活に入る前である。わたしは、アダムズが行うことや彼が行わないことを予測していた。
そして、起こるであろう事態を想定していた。
もしもあのとき、わたし自身子どもじみた衝動に駆られず、冷静沈着になっていれば、デイトン帝国の人々は物理的にも精神的にも追いつめられることはなかった。
皇帝や皇妃や側妃たちのあらゆる欲の犠牲にならずにすんだ。
すべてを止められるとは思っていない。森にひきこもらなければ、事実上追放されていたのだから。追放されてしまえば、当然なにも出来ない。が、なんとかして官僚や貴族たちとつながり、なにかしらの対処が出来たかもしれない。もしくは、ひきこもってからでも官僚や貴族たちとつながっていればよかった。
わたしは、それでさえ放棄してしまった。
だから、元夫や皇妃たちだけではない。
わたしも同罪である。ということは、わたしも罪を償うべきなのだ。
ロバートは言ってくれた。
『ユア、きいてほしい。死で償うのは簡単だしラクだ。が、生きて償うことは険しく困難。そんなに償いたければ、生きて償えばいい。しぶとく生き抜き、きみ自身やデイトン帝国の民衆が納得いくだけ償い続けるべきだ。きみには、その才覚がある。あのクソッたれの皇帝にはまったくない才覚が、きみには備わっている。それを縦横にふるうべきだ』
そのように。
だからこそ、わたしはロバートが申し出てくれた彼との契約結婚に応じることにした。
王太子妃という肩書がないと、わたしはただの「みすぼらしい廃妃」にすぎないから。
だけど、いまはまだデイトン帝国の人たちになにも出来ていない。いまは、ロバートが治安維持に向けがんばってくれている。
残念ながら、いまは「祖国の人々に豊かで平穏な生活を送ってもらいたい」という、きれいごとばかりが先走っている。それは自分自身が一番よくわかっている。ロバートと契約結婚をし、ダルトリー王国にいる意味や意義でさえ、いまはまだ見いだせないでいる。
それでも、一歩一歩前進するしかない。
まずは身の回りから。それから、もっと遠くを目指し、範囲を広げるしかない。
それはともかく、ロバートはいつになったら戻ってくるのかしら?
彼は、祖国デイトン帝国でいまだくすぶり続けている戦後のゴタゴタを片付けている。
反乱軍崩れや反乱中や反乱後のどさくさに紛れた悪党たちが、あちこちで悪さをしているのである。
ロバートは、それらを一掃しようとみずから陣頭に立っている。
彼は、正直なところ王太子としてはまだまだ。しかし、将軍としてはこの大陸でも五本の指に数えられるらしい。
ロバートの「真紅の獣将」というふたつ名は、けっして誇張ではない。
彼が戻って来たら、まず謝罪しなければならない。
例の温室での「のぞき見」のことを、である。
彼とキャロルの密会。
訂正。密会と勘違いしていたあの場面のことを。




