「ちんまりの出しゃばり悪女」
「それで? キャロルのパートナーは? ずいぶんとカッコいいわね」
美男美女という形容がピッタリなほど、キャロルとそのパートナーの美しさは際立っている。
「表向きの婚約者さ。どこかの国の公子らしい。このダルトン王国に留学し、卒業後もいるわけだ」
「ああ、なるほど」
どこかの国って? 公子って?
(もっと詳細な情報が欲しいところだけれど、ティモシーにそれを望むのが間違っているわね)
心の中でイラッとしてから苦笑した。
(いけない。こんなときまで政治的なつながりを考えてしまっているわ)
われながら、生真面目すぎると苦笑する。
苦笑していると、宰相やキャロルたちがこちらに向って来た。そのうしろを、取り巻きたちがゾロゾロとついて来ている。
「これはこれは、王太子妃殿下」
宰相は、あいかわらず残念な頭髪をムダに手でかき上げつつ声をかけてきた。
(頭髪をかき上げるだなんて、ムダな動作としかいいようがないわよね)
彼の顔はそこそこなのに、頭髪が残念でならない。
「ご招待いただき、ありがとうございます」
これでもかというほど胸を張った。
堂々としていればいい。
「楽しんでいらっしゃいますか?」
「ええ、とても」
にこやかに応じる。そのとき、キャロルと目があった。
彼女は、書物に出てくる「性悪令嬢」そのまま美貌にニヤニヤ笑いを浮かべた。
「まぁっ! 一応パートナーを連れていらっしゃるのですね」
「王太子殿下は、あいにく軍務で不在ですので。ですが、彼がわたしの為にパートナー役を買って出てくれたのです」
手でティモシーを示すと、彼はここぞとばかりにふんぞり返った。
「えっと、ファイアストン公爵令嬢、ですよね? 先日ちゃんと挨拶が出来なかったので、あらためて自己紹介しておきましょうか?」
温室でのロバートとの甘い場面を思い出してしまった。あのときは動揺していたから逃げてしまったけれど、まだ自己紹介をしあっていない。
「自己紹介なんて必要ないわ、王太子妃殿下。だって、あなたは『ちんまりの出しゃばり悪女』で有名だもの。あなたもわたしのことは知っているでしょう? だって、わたしはこのダルトリー王国で『美貌の公爵令嬢』で有名だから」
モーガンから「キャロルは残念だ」とはきいていた。
彼女は、ほんとうに残念だった。
これだけ多くの人がいる公式の場で、堂々とわたしを、というよりか王太子妃を揶揄し、自分を称讃するのだから。
(双子の弟であるマットとは、外見だけであとはまったく違うみたい)
まぁ彼女は、神様は「いいところ」をいくつも与えないという典型的な人ね。
(というか、わたしは「ちんまり」だけでなく、「出しゃばり悪女」とも言われているのね)
まっ、ちんまりでも出しゃばりでも悪女でもいいけどね。
苦笑を禁じ得ない。
(それにしても、温室でのことを悪びれないというのも不可思議よね)
もしもわたしが婚約者の前であのときのことを話し始めたら、彼女はいったいどうするつもりなのかしら?
キャロルの婚約者という「どこかの国の公子」を見ると、ポケーッとした表情でテーブル上の料理やパーティーの参加者たちを見つめている。
料理の種類は少なく、量もかなり少ない。ティモシーの話をききながら、何種類かつまんでみた。
控えめにいっても、あまり美味しくない。
(ダルトリー王国の三大公爵家の筆頭であるファイアストン公爵家のレベルは、こんなものなのかしら?)
どう考えても不釣り合いすぎる。違和感しかない。
いますぐにでも厨房に行き、料理人たちと会ってみたい。




