ティモシーがエスコート役を?
ファイアストン公爵家の執事らしき男性が走ってくるのが、馬車の窓越しに見える。
彼が馬車の扉を開けてくれ、先にメリッサが降り立った。
本来なら、メリッサは王族の馬車に乗ることは出来ない。が、今回は国王に頼み込んで特別に許してもらった。
メリッサには、ロバートのかわりにいっしょにいてもらうのである。というか、わたしがミスやヘマをしないか、あるいは暴れないかを見張ってくれるというわけ。
馬車内に腕が伸びてきた。
が、その腕はメリッサの腕ではなく正装の男性の腕だった。
(ファイアストン公爵家の執事がエスコートしてくれるのね)
わたしがひとりでやって来ることを知っていて、気を利かせてくれている。
その手を取り、降り立った。
「遅いじゃないか。いつまで待たせるんだ? ひとり寂しくやって来るきみを、エスコートしてやろうとわざわざ来てやったのに」
が、ファイアストン公爵家の執事ではなかった。
なんと、ティモシーだった。
おバカなパティシエのティモシーが、正装姿でわたしの手を取っているのである。
「あら、どうしてあなたが?」
心の中では「ウワッ!」と思いつつ、すました顔で尋ねた。
同時に、彼の手から手をどけようとした。しかし、おもいのほか強く握られていて回避出来なかった。
「フンッ! 見てわからないのか? パートナーのいないきみが気の毒すぎるからな。おれのパートナーにはガマンしてもらって、おれが付き合ってやろうというわけだ」
(なるほど。どこかのご令嬢に同伴するのを断られたわけね。もしくは、すっぽかされたのね。それで、わたしに恩を売ろうと思いついたというわけね)
あいかわらず、おバカな男ティモシー。
でもまぁ、一応はわたしのことを気にかけてはくれるわけね。
そんな彼のおバカさが、ほんのちょっとだけ可愛く思えた。
「だったら、必要ないわ。その崇高なお気持ちだけいただくことにするから」
「王太子妃殿下」
即座に拒否った瞬間、うしろからメリッサにささやかれた。
「一応、主催者の遠戚です」
ああ、そうだった。ティモシーは、宰相の遠い親戚だったわね。
(本来なら、ロバート以外の男性をパートナーにするのは好ましくない。だけど、ティモシーは主催者の遠戚だし、そもそも彼とわたしがめちゃくちゃ仲が悪いというのは周知の事実。ぜったいに、ぜったいに疑われることのない仲だわ。『ちょっと親密な仲?』とさえ疑われることはない。だったら、どうせだし彼に恩を売らせておいてもいいわよね)
と、結論付けた。
メリッサには、目線で了解を伝える。
「なんだって? この『男レディ』、せっかくのおれの思いやりを……」
「わかった。わかったわ。仕方がないわね。だったら、エスコートしてちょうだい。ほら、もう始まっているわ。はやくはやく」
「くそっ! きみがごちゃごちゃいうからだろう?」
ティモシーは、ブツブツ言いながらもわたしをエスコートしてくれた。
結果的に、おバカなティモシーにエスコートしてもらってよかった。
おバカさはともかく、とにかく情報通なのである。
「あのレディは、この前婚約破棄されて……」
「そこのレディは、恋敵に平手打ちを食らわせて……」
レディ中心の話題に事欠かない。レディに関連し、その恋人や夫や婚約者や友達である子息、そして家族の情報までペラペラと囀ってくれる。
ティモシーのお蔭で、ファイアストン公爵家の巨大で豪勢な大広間の片隅でひとりポツンと佇まなくてすんだ。
暇つぶしにはなったけれど、わたしたちに近づいて来る者もいない。男性であろうとレディであろうと。
わたしだけでなく、ティモシーも嫌われているからに違いない。
今夜のパーティーの主催者である宰相とその妻、それから令嬢であるキャロルとそのパートナーのまわりに集まり、ワイワイがやがやしている。
宰相の妻もまたド派手である。しかも、宰相とはずいぶんと年齢が離れているみたい。
「彼女は、四番目の妻だよ」
「四番目?」
「ああ。四番目の妻とは、親子ほどの年齢の差がある。キャロルやマットと同年齢だ」
「ああ、なるほど」
ティモシーに教えてもらい、あらためて宰相の四番目の妻を見る。
(ほんと。『ああ、なるほど』といった感じのレディよね)
宰相は、いろいろな面で精力的らしい。




