いざ、パーティーへ
宰相主催のパーティー当日、一応ドレスアップした。さすがに、いつもの軽装はよろしくない。わたし個人的にはかまわない。だけど、表向きは一応王太子妃。ロバートに恥をかかせることになる。
メリッサに手伝ってもらい、ふだんは着用しないコルセットでウエストをギュウギュウ締めまくった。それから、夏の空の色の控えめなデザインのドレスに身を包んだ。短髪は、そのまま。というか、飾ったり結ったりしようがない。靴もドレスの色と合わせた。わずかだけど、かかとに高さがある。これ以上の高さがあると、慣れない分バランスを崩したりつまずいたりする。というわけで、この高さが歩くことの出来るギリギリの高さ。装飾品は、最初にロバートが準備してくれていたネックレスを着用した。このダルトリー王国で産出されたダイヤが控えめにあしらわれている。
時間はギリギリ。個人的には、少し前に行きたいところだけれど、王太子妃という立場上パーティーの開始時間ギリギリか、わずかに遅れていく方がいい。
準備を終えて宮殿の大廊下を足早に歩いているところに、執事長のオスカーと侍女長のライラが追いかけてきた。
「ひとりで参加されるのですか?」
「嫌がらせのパーティーに?」
オスカーとライラは、前置きなしで単刀直入に尋ねてきた。
ふたりがなにを言いたいのかは、すぐにわかった。よーくわかった。
「ええ。一応、招待されています。宰相の主催ですから。王太子殿下が不在でわたしひとりであっても、参加した方が無難でしょう」
ふたりに向き直り、「言いたいことはわかっている」感を醸し出した。
「ああ、大丈夫です。メリッサについていてもらいます。そうそうおおきなミスやヘマはしないと思います。おそらく、ですが。もちろん、暴れることもないでしょう。おそらく、ですが」
ニンマリ笑って言うと、オスカーとライラは苦笑した。
「あなたのことですから、ひとつやふたつトラブルを起こすかと」
「ちょっ……」
オスカーの断言に絶句してしまった。同時に、なにかあるのかと勘繰った。
現在、わたしが想定しているもの以外に。
「ということは、参加しない方がいい、と?」
トラブルを起こす可能性が高いのなら、最初から参加しない方がいい。何度も言うようだけれど、わたし個人になにかあったり起こるのならかまわない。だけど、ロバートや王族に迷惑をかけてしまうことだけは避けたい。
「いいえ。いまさら不参加というのはムリでしょう。体調不良という理由も通用しませんし。殿下とあなたが偽装結婚しているということ同様に、あなたの心身の頑丈さは有名ですから。それより、いっそ王宮の外での上流階級の様子を見聞きする方が、あなたにとってはいい経験になるかもしれません」
ライラのメガネの下の眼差しは、めずらしくやさしい。
そして、ふたりに見送られて馬車に乗り込んだ。
もちろん、今回はお忍びではないので王族専用の馬車を使った。
ファイアストン公爵邸は、控えめに表現しても立派である。周囲にある貴族たちの屋敷も立派なはずなのに、その立派さがかすんでしまっているほど凄い。いろいろな意味で凄すぎる。
あとで知ったことだけど、ファイアストン公爵家は、敷地内にある建物すべてを数年前に建て直したらしい。
改築や改修ではなく、建て直したというから驚きである。
ファイアストン公爵家は、ダルトリー王国建国前から続いている名家である。その当時の建築様式からいまどきの建築様式に変更したかったらしい。
ファイアストン公爵家の敷地は、王宮ほどではないにしろ広大である。公爵家という爵位を別にしても、王都にこれほどの土地を有しているというのは驚き以外のなにものでもない。
ファイアストン公爵家のすごさを物語っている。
そのファイアストン公爵家の門前に到着した。
パーティーの列席者の馬車の数もすごい。
が、王家の象徴である三頭の獅子の紋章が刻まれたこの馬車は、優先的に公爵家の門を通過することが出来た。
どこの王侯貴族も同じである。門から屋敷までがまた遠い。
その馬車道がまた幅が広く、馬車停まりでの順番を待つ馬車の列を横目にわたしの乗る馬車は進んで行く。
そして、やっと屋敷の前に到着した。




