それは、宰相の娘
「その美女の名は、キャロライン・ファイアストンです」
「あぁ、だから殿下がキャロルと呼んでいたのね」
「ええ。キャロルというのは、彼女の幼いときからの愛称です。というか、王太子妃殿下。そこではありません」
「って、ファイアストン? あのファイアストン? では、彼女は宰相の遠戚かなにか?」
「もちろん。ですが、ティモシーのような遠戚ではありません。彼女は、宰相の娘です。マットの双子の姉です」
「はい?」
モーガンに告げられ、そこで初めて彼女がだれかにそっくりだと感じたことを思い出した。
(あのマットの双子の姉ですって? それなら、そっくりのはずよね)
おおいに納得してしまった。
「マットの双子の姉なら、それは美しいはずよね。それで? あれだけ美しいんですもの。公式や外交などで、王太子殿下の横にいるだけでずいぶんと華やかになるわ」
「そうでしょうか? 華やかというよりかは、ド派手にはなるかと思いますよ。いずれにせよ、彼女はそれだけです。つまり、外見だけで中身がありません。宰相の娘ですから」
モーガンは、吐き捨てるように言った。
「ということは、野心満々なわけ? 王太子妃、ゆくゆくは王妃になってこのダルトリー王国をわがものにしようと? 父親や双子の弟とともに?」
「それならそれでいいのです。かえって清々しい。が、彼女は違います。先程も言いましたが、中身はありません。はやい話が、頭が空っぽです。花畑というやつです。彼女が好きなのは、ステータスや金貨。それと、アレをすることです。つまり、地位や金貨を持っている男とアレをするのが大好きなのです」
「ああ、なるほど。野心ではなく、物欲や色欲というわけね」
「そういうことです。彼女には婚約者がいます。それなのに、殿下に迫っているのです。それだけではありません。それ以外にもお遊びや付き合っている男たちがいます。それを隠そうともしません。父親があの宰相ですから、彼女はどんなことをしてもゆるされるというわけです」
「では、殿下は彼女のことを?」
「めちゃくちゃ嫌がっています。というか、嫌っています。ですから、拒否しまくっています。ですが、彼女は殿下の拒否をじつに前向きに捉えています。殿下は、照れているとか周囲に気遣っているとか……」
モーガンは、溜息をついてから続けた。
「じつは、あなたを妻にした理由のひとつが彼女を遠ざける為だったのです」
「残念だわ。まったく効果はなかったみたい」
黙りこくってしまった。モーガンもわたしも。
その沈黙の間、イヤな予感がしてきた。というか、イヤな予測をしてしまった。
その予感や予測がほんとうに起こるのは、そう先ではなかった。
パーティーが開催された。
王族の主催ではない。宰相の主催で、ファイアストン公爵家で開かれた。
しかも、急なことだった。
突然、ロバートがわたしの祖国デイトン帝国に行かなければならないと決まった。その直後に招待状が届いた。
戦後処理は、順調に進んでいる。現在、元皇帝であり元夫であるアダムズは、元皇妃のマイラとともにデイトン帝国内を引き回されている。
それは、あっさり断頭台で処刑されるよりよほど残酷で過酷な試練である。
まぁ、元夫はそれにふさわしいことをやり続けていた。当然すぎる罰だろう。
それはともかく、デイトン帝国では、いまだに反乱軍くずれの盗賊や犯罪者たちが横行している。きりがない為、この際それを一掃してしまうという。
というわけで、ロバートみずからが赴くことになったわけである。
ということは、わたしにはパートナーがいない。ひとりでパーティーに参加する。
そのパーティーの趣旨もよくわからない。
「思いつき」で開催するのだから。
わたしへのあてつけ? 挑戦? そんなものかしら?
展開は容易に想像出来る。
宰相と娘のキャロルが他の招待客に囲まれてチヤホヤされる中、わたしはひとりガラス扉の近くでポツンと佇む。
書物の場面さながら、最初から終わりまでみっともなくて寂しい姿をさらす。
もちろん、パーティーへの出席を拒否しようと思えば出来なくもない。だけど、それもまたいろいろ面倒くさい。
だから、行くことにした。




