「バーン」に「ドーン」の美女について
「王太子妃殿下」
料理長たちは、すでに勤務を終えている。
厨房にいるのはわたしひとり。時間の経つのも忘れ、すっかり大豆の試作に没頭してしまっていた。
厨房にやって来たモーガンに呼ばれ、やっとわれに返った。
「モーガン、どうしたの?」
「こんなに遅くまで試作ですか?」
「ええ。ついつい時間が経つのを忘れてしまうわ」
「あまりムリをなさらないでください」
「ありがとう。というか、あなたは? あなたもこんな時間になにをしているの?」
「ハハッ! 一本取られましたね。じつは、たったいままでデイトン帝国の処理のことで殿下と話をしていたのです。それで腹が減ってしまいまして、王太子妃殿下特製のクッキーをつまみ食いしに来たというわけです」
宮殿で働いてくれているすべての人たちが小腹が空いたときにつまめるよう、クッキーやマフィンなどスイーツを準備している。彼は、それをつまみに来たらしい。
「だったら、サンドイッチでも作るわね。わたしもお腹が空いたし」
使ってもいい食材は、メモ書きや専用の棚や場所で保管するなどしている。
それらをチェックし、ハムとチーズと葉物野菜を使うことにした。パンは、コッペパンが残っている。
「そうだわ。これも試してみよう」
大豆を一晩水につけて置いておき、それを時間をかけてすり潰す。鍋に移して水で混ぜながら煮て布袋に入れて搾る。これで大豆の汁とカスカスになったおからが出来る。あとは、その搾り汁ににがりを入れるとかたまってくるので、うわずみを捨てて重しをのせ、かたまると「元」が出来上がる。その元を凍らせ、解凍して水分を抜いてから潰してしまう。その潰したものを丸く平たく成形し、焼いたものを葉物野菜といっしょに切り目を入れたコッペパンにはさむ。特製のトマトソースを塗れば出来上がり。
「なんですか、これ? めちゃくちゃ美味い」
モーガンは絶賛してくれた。
自分でも食べてみたけれど、「めちゃくちゃ美味い」に同感である。
ロバートの分も作ったので、すぐにモーガンに持って行ってもらった。
そのあと、あらためてモーガンとふたりで厨房にあるテーブルで試食した。
「殿下も食べ終ったかしらね?」
「ええ、きっと。おれが寝室を出るときにはすでに頬張っていましたので。ところで、殿下となにかあったのすか?」
ちょうど最後のひときれを咀嚼したタイミングだった。
食べ終ったら、モーガンがロバートと話をしたというデイトン帝国の処理について尋ねるつもりだった。
頭の中は、すでにそのことでいっぱいだった。だから、モーガンのその質問はわたしを驚かせた。
「殿下となにかあったかですって?」
わたしたちしかいない厨房内に響いたわたしの声は、いつもの低く野太い声より驚くほど甲高かった。
「王太子妃殿下は、殿下の誘いを拒否されました。それ以前に、殿下は落ち着かないようです。しょっちゅう『ユアはどうしている?』とか『ユアと話をしたか?』とか、きいてきます。あなたも同様です。どうもいつもの様子とは違うようです」
「あー、そうかしら?」
とぼけようとしたけれど、モーガンは美貌に意地悪な笑みを浮かべた。
「ほんとうになにもないのよ。すくなくとも、わたしはなにもしていない。この前、殿下が見たことのない美人といっしょにいるのを見たのよ。ずいぶんと親しい感じだったけれど。というか、殿下といい仲って感じ。ということは、殿下もわたしなんかと契約結婚みたいなまわりくどいことをせず、その美人さんと結婚すべきだって思っているだけ」
気がつけば、いっきにしゃべっていた。
「美人?」
思い当たる節があるのか、モーガンの美貌に影が差した。そんな気がした。
「あぁ、あの美人ですね」
「だれなの? 顔が美しいだけでなく、『バーン』に『ドーン』だったわ」
擬音とともに、胸の豊満さをジャスチャーで示す。




