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殿下、溺愛展開は契約違反です~「追放の廃妃」の私、わけあって元敵国の王太子と契約結婚することになりました~  作者: ぽんた


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いたたまれない

 あいにく、結婚歴があるとはいえわたしにはこういうドキドキばくばくの体験はない。幼い頃からバカな元夫の為だけにすべてを捧げていた為、男性というものがよくわからない。そのバカな元夫にしても、わたしにだけは手を出さなかった。それこそ、挨拶の口づけでさえ。さらには、ハグでさえ。それは、子どもの頃からずっとだった。結局、結婚して決別するまで一度もそういうことなかった。


 ちなみに、バカな元夫はレディにたいして真面目なわけではない。誠実でも正直でもない。どうしようもないレディ好きだし、不誠実で不正直。だから、側妃たちだけでなくけっして表には出せないような愛人が大勢いる。「お手つき」などということになったら、どれだけの人数になることやら想像もつかない。



 ここからでも、キャロルの唇は官能的に見える。ルージュでピカピカ光っている。


 じっと見ているだけでドキドキしてくる。胸の辺りがジリジリと痛みもする。


 じょじょにドキドキよりも、ジリジリというかチリチリというか痛みが上回ってきた。


「グルルルル」


 その瞬間、よりにもよってお腹の虫が盛大に鳴った。それこそ、静寂満ちる温室内に響き渡るかのように。


「だれだっ!」


 ロバートの怒鳴り声とともに、おもわず立ち上がって姿をさらしてしまった。


「ご、ごめんなさい。悪気があったわけではないの。なにも見ていないから」

「ユア、いや、これは、これは違う……」

「いやだわ。さすがはちんまい泥棒ネコね」


 ロバートとキャロルとわたしの言葉がかぶった。


「わたし、行くわね」

「待て、ユア。待ってくれ」

「ロバート、あんなちんまい泥棒ネコ。放っておきなさい」


 またかぶった。


 これ以上、いたたまれない。


 彼らに背を向け走りだした。


 ロバートもキャロルも追いかけてはこなかった。



 しばらくの間、胸の辺りの痛みは治まることはなかった。しばらく経つと治まりはしたけれど、その後も温室でのあの光景を思い出すたびに痛みがぶり返した。


 夕方、ロバートから「会いたい」という伝言をもらった。が、この午後は自分だけの時間と決めていた。だから、ロバートの誘いを断った。


 胸の辺りの痛みもだけど、その痛みの原因であろうあの「口づけの場面」のことが脳裏から離れず、照れくさくて恥ずかしくて仕方がない。


 のぞき見していたと思われているのも癪である。まぁ、実際はのぞき見していたのだけれど。だけど、それは彼らにはわからないこと。だから、「良し」としておく。


 あの場面は、それこそ書物で読んだり「レディトーク」で聞きかじったことしかない場面である。だから、これまでにない衝撃を受けた。


 もちろん、そういう行為を否定するつもりはない。当人どうしの合意や愛し合っている上での行為なのであれば。ひとえに、わたしに経験がないことが、照れ臭かったり恥ずかしかったりするわけである。


 正直なところ、男性と口でなにかするのなら、舌戦とか口論とか議論とか対談とか、そういうことの方がよほど性に合っている。


 唇を重ね合わせるだとか、ましてや舌を入れ合うだなんて、自分がすることは想像が出来ない。せいぜい宰相やその一派を、てっていてきに口撃することしか浮かんでこない。


 もしかすると、遠い将来奇蹟が起こってそういう事態に直面するだろうか。起こったとしたら、それはどういう相手なのか。


 未知の分野すぎる。


 とにかく、そういうもろもろの事情もあってロバートの誘いは断った。


 気分転換に厨房に行き、レシピの開拓に励むことにした。


 いま、取り組み始めたことがある。


 温室の花のことで知り合った商人がいる。マットの紹介だけれど、その東の大陸のある国の商人から、大豆を仕入れた。大豆のことは知っていた。料理本や資料では、大豆は栄養があって「畑の肉」と呼ばれているらしい。


 大豆などマメ科の植物は、根粒という細菌が空気中の窒素を固定して植物に栄養を供給するらしい。だから、多少荒れた土地であっても育てることが出来るらしい。収穫した大豆をそのまま使ってもいいけれど、それを加工して肉のかわりに出来ないかと思いついた。


 それをいま、試行錯誤しながら試作している。


 大豆の育成。そして、大豆の加工品の開発。


 大忙しの中ではあるけれど、様々な分野の専門家に相談しながら試作を進めている。


 大豆が成功すれば、他のマメ科の植物の導入もしたい。


 夢ばかりが広がり、大きくなっている。

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