財務大臣と……
「ホレスとは、実の兄弟なのです」
意識的にウオーレンをジッと見つめ、ホレスと見比べてしまっていた。それに気がついたのか、ウオーレンが唐突に言った。
「弟は、変わり者でしてね。まだ成人するかしないかというときには、すでに勘当状態でした。あいつにしてみれば、ジャイルズ公爵家という肩書、いえ、すべてが面白くなかったようです。そこで、あいつは当時不正疑惑で王都を追放されかけていたガードナー侯爵家に目をつけ、侯爵家の息女と結婚してしまったのです。そして、あいつはガードナー侯爵家を立て直したのです」
「そうでしたか」
こういうことなら感情を隠したり演じる必要はない。素直に驚いてみせた。
(というか、モーガン。どうして教えてくれなかったのよ)
隣のモーガンを睨みつけると、彼は美貌に「テヘッ」って感じで舌を出した。
(モーガン、いやだわ。そんなお茶目な表情をされると怒れないじゃない)
「というわけで、ホレスとわたしはよく似ているわけです」
「すみません。悪意があって見つめていたわけではなかったのです」
「ええ、わかっています。もっとも王太子妃殿下の先程の質問の数々は、悪意があったようですが」
ウオーレンは、苦笑した。
「では、そのついでにもうひとつ悪意のある質問をしてもいいですか?」
こちらも苦笑しつつやり返す。
「もちろん」
「財務大臣として、どうして上流階級にばかり国費が使われていると思われますか? こうして資料を見るかぎり、そのほとんどが王都、いえ、上流階級に所縁のある場所や事柄に使われています。たとえば、王立図書館と王立劇場。このふたつの建物は、大昔まったく同じときに出来上がりました。建築様式も同じです。違うところといえば、中の構造です。それなのに、劇場には何千枚という金貨をはたいて大改築を行ったというのに、図書館にはいまだにそのような話さえ出ていません。わたしは本の虫でして、王立図書館に何度か訪れています。あそこは、あきらかに改築改修が必要です。これは、ほんの例のひとつです。資料の中には、そのようなケースが溢れ返っています。あぁそれと、領地でも宰相派の貴族の領地が優先されていたり多く使われているようです。これらはすべて、一見すると理にかなっていて当然のことのようですが、じつは公平さに欠けています」
「……」
ウオーレンは、黙っている。おそらく、答えられないのだろう。
「失礼いたしました。レディがしゃしゃり出るべきではないのに、ベラベラと喋りすぎました」
彼を追いつめるようなことはしない。
「ところで、じつはお願いがあります」
あっさり話題を変え、ホレス同様メイドのアンを引き抜きたいと打診した。
が、彼もホレス同様アンの意思次第だと言った。
結局、ウオーレンもホレス同様使用人たちにとってはいい主人のようだ。
「失礼いたしました。いまのお願いは忘れてください。財務大臣閣下、今日はお会い出来てよかったです」
立ち上がり、ウオーレンと握手を交わす。
「王太子妃殿下」
ウオーレンは、ティールームを出ていきかけて体ごとこちらに向き直った。
「わたしは、貴族です。生まれながらにして貴族です。その世界しか知りません。王都で生まれ育ち、領地には数年に一度顔を見せに行くくらいです。現在は、領地に両親はいますが高齢の為管理人が管理を行っています。その管理人は領民を不当な扱いをし、過酷な搾取を行い、その上で不正をしています。わたしは、そのことを知っています」
平然とそんなことを語り始めたウオーレン。さすがに驚きを隠すのに苦労した。これは、驚きを隠さねばならない内容だ。
「王太子妃殿下が視察に行かれ、盗賊たちの襲撃に遭ったことも知っています。王太子妃殿下は、ダルトリー王国のすべての民、いいえ、平民の為になにかされたいのでしょう。はっきり申し上げますと、いまのままではそれは難しい。それでも、あなたならなにか出来るかもしれない。あなたなら、なにかを変えることが出来るかもしれない。あなたの祖国のようにならない為に、あなたのされようとしていることは正しくて必要なのかもしれない」
「なにが正しくてなにが間違っているのか、あるいはなにがよくてなにが悪いのか、はわかりません。わたしだけでなく、だれにもわかりません。こういうことは、後世の人々が批評や判断をするのかもしれませんね」
「おっしゃる通りです」
ウオーレンは、一礼してからティールームを出て行った。




