こちら側に引き込もう
モーガンはわたしの隣に座っていて、すぐうしろにドナルドたちが並び立っている。そして、扉のすぐ横には護衛のザカリーとレオが佇立している。
心から安心出来る。
メリッサがお茶とわたしが作ったチョコチップ入りとジンジャーのクッキーを運んできてから、さっそく話を始めた。
ホレスは、ずっと苦笑している。その渋カッコいい顔には、笑みが浮かんだままでいる。
「なにか可笑しいことでも、副大臣閣下?」
「これは失礼。感心していたのですよ」
「それはどうも。レディごときが口を出すことではない、ということかしら?」
「ハハハッ! ええ、一般的にはそうですな。個人的には、お渡ししたクソ資料を完璧に暗記されていて驚きました」
彼の渋カッコいい顔に笑みは浮かんでいるものの、ブラウンの瞳は真剣そのもの。同色の髪は、肩まで伸ばしている。
「では、クソ資料や公表されているクソ内容ではなく、殿下が把握しておかなければならないものをください」
「……。わかりました。出来るだけ早急に準備します」
「ありがとうございます。ああ、そうそう。副大臣閣下をお呼びしたのは、他にお願いがあったからなのです」
唐突に話題を変えた。
(ホレスは、いまの言い方でどう受け取ったかしら?)
彼の反応を期待してしまう。
「じつは、副大臣閣下の使用人のひとりを譲っていただけないかと」
「使用人?」
ホレスの渋カッコいい顔に戸惑いの表情が浮かんだ。
彼はきっと、わたしが彼に王太子派になるよう頼むかと予想したはず。が、予想とはまったくかけ離れた内容だった。
「ええ。メイドのメイ・リーコックです。彼女は、じつはさきほどお茶とクッキーを運んできた侍女の姉なのです。彼女の実家の事情はご存知ですか?」
「ええ、知っております。そういえば、先日はとんだ災難でしたな。ご無事でよかった」
「ありがとうございます。メリッサがわが身を顧みず守ってくれたお蔭です。その彼女の功績を讃える為にも、彼女の姉であるメイにぜひ王宮に移ってもらいたいのです」
「当人には?」
「メリッサを通じて打診はしていますが、まずは主人である副大臣閣下に許可を得るのが筋と思いまして」
「メイにはメイド長を務めてもらっています。彼女がまだ子どもの頃から働いてもらっていて、妻もわたしも彼女に頼りきっています。つまり、彼女はわが家になくてはならない存在。ですが、彼女にとっていい条件で彼女や彼女の両親がしあわせになれるのでしたら、妻もわたしも反対はしません」
彼は、嘘をついていない。ごまかしたりはぐらかそうとしているわけではない。つまり、いまのは彼の本心。
そう直感した。
「副大臣閣下、ありがとうございます。あなたの言葉から、メイはわたしたちの誘いを断るであろうことがわかりました。彼女は、どうやら雇い主に恵まれているようです。副大臣閣下、どうか先程のわたしのお願いは忘れてください。このようなお願いをしたこと、心より謝罪します。今日は、会って下さってありがとうございます」
立ち上がると、ホレスとモーガンも立ち上がる。
固い握手を交わし、ホレスはわたしたちの前から辞した。
「これは、どういう意図で使われた国費ですか?」
「この建設費や改築費というのは? これは、このタイミングですべきものだったのでしょうか?」
「正直なところ、国費を使われるべき場所や理由や時期の意味がわかりません」
財務大臣でありダルトリー王国の三大公爵家の一家であるウオーレンには、ティールームのアンティーク調の椅子に着席するなり質問攻めにした。もちろん、もらっている資料に基づいてである。
ウオーレンは、モーガンとわたしの悪意ある質問すべてによどみなく答えた。そのどれもが、わかりやすい説明だった。
すくなくとも、彼は宰相派の言いなりになってなんでも「オーケー」を出すわけではない。むやみやたらに国費を消費するわけではない。
そのことがよくわかった。
が、資料を見るかぎりでは、国費は「だれの為に使われている」のかが明白である。国費の大半は、搾り取るのとは違う人たちの為に使われている。つまり、下流階級の人たちから搾り取り、上流階級が散財するのだ。
そのこともよくわかっている。
かなりの時間を質疑応答に費やしてしまった。それがひと段落したところで、ウォーレンのホレス同様渋カッコいい顔に、わずかに安堵の色が浮かんだのを見逃さなかった。
ウォーレンは、ホレス同様ブラウンの髪と同色の瞳の色をしている。ただ、ホレスとは髪の長さが違い、彼は軍人みたいにブラウンの髪を刈り上げている。




