事の顛末
あるとき、皇帝がなにもしなさすぎるのが非難の的になった。
彼は、自分の非を棚に上げてわたしを責めた。
『事あるごとにきみがしゃしゃり出たのが、すべての元凶だ。それどころか、きみは皇妃という立場を利用し、皇帝であるおれを蔑ろにした。そして、このデイトン帝国をわがものにしようとしたのだ』
そのように怒鳴り散らしたのだ。
そして、彼はわたしに謹慎を命じた。事実上、追放されたのである。
わたしも愚かだった。実行に移される前に、自分から宮殿を去ったのである。
そして、昔皇族が万が一のときに隠れる為に準備し、いまは朽ち果ててしまった皇宮の森の奥深くの屋敷にひきこもったのだ。
宮殿の侍女や執事といった懇意にしていた人たちが物資を運んでくれたお蔭で、最初の一年間はほんとうに助かった。
わたしは本の虫なので、図書館の司書たちがたくさんの本を持ってきてくれたのもおおいに助かった。
だけど、それも月日を重ねるごとに減っていった。そして、サバイバル的に自給自足が出来るようになった頃には、ほとんど供給がなくなった。とはいえ、自給自足では補えない物がある。栄養が偏り、不健康状態なのは否めない。それを承知でこの生活を続けている。だけど、この森は広大でなんでもある。肉や木の実やキノコまで、それこそなんでも口にしている。元気にしている間は、これでいいと思っている。
じつは、ひきこもったのは夫とのことがあったからだけではない。
例の謹慎処分よりも前、両親が謎の死を遂げた。
宮殿で知らせを受けたとき、両親は殺されたのだと直感した。いろいろと事情がある。両親の死の理由は、馬車の事故でだった。しかし、皇都から一番近い山中の崖から落下するというじつに不可解で不自然な事故だった。
両親からはっきりきいたわけではないけれど、脅迫まがいの手紙が送られていたという。
わたしのところにはそういう手紙は届いていない。だけど、わたしも狙われているかもしれない。
命が惜しいわけではない。死んだら死んだでしょうがないと思っている。しかし、もしも両親が殺されたのだとすれば、その真相を暴きたい。そして、ふたりの無念を晴らしたい。
だからこそ、ふたりのあとを追うのは本意ではない。わたしにとっても両親にとっても。
そのこともあり、森の奥にひきこもった。
が、ひきこもると自由が制限されてしまう。生き残る為の生活が大変すぎて、真相を調べるどころの騒ぎではない。
だから、両親のことはそのままになっている。
あれから五年以上が経っている。ふたりが殺されたのだとしても、証拠や手がかりはなくなってしまっているかもしれない。
結局、このこともわたしの考えが甘かったのだ。
そのことは、後悔している。が、この五年間の生活は、大変だけどけっして嫌いではない。心と体に圧力がなくなり、自由気ままに出来るから、かえって楽しい日々を送っている。というか、自由気ままな生活を満喫している。
それがこうなってしまった。
五年前に予測した通りに。
こうなった以上、この生活に終止符を打ってけじめをつけなければならない。
「そうね。せめて両親の事故を調べてもらうよう、ロバートに頼んでみるのもいいかもね」
そのくらいは許されるかしら?
というわけで、なにをするにも集中出来ないまま時間だけがすぎていく。
作物のことも気になる。
「わたしがいなくなったら、もろもろの作物をだれかかわりに越冬させてくれないかしら?」
そのこともロバートに相談してみよう。
そう考えていると、ロバートがふたたびやって来た。
初対面のときと同様、月光が眩いばかりの夜遅くだった。