将軍、ではなく王太子ローガン
ロバートは、将軍職を辞した。
王太子として、本格的に政務を執り行うことになったからである。
とはいえ、彼の軍人としての功績はかなりのものらしい。他国との戦争だけでなく、戦後処理や災害支援等々はかりしれないとか。
というわけで、将軍職は辞したものの総督としていつでも軍の命令系統に介入出来るという。
そのロバートの片腕であるモーガン・エディントンも軍を辞し、王太子としてのロバートを補佐することになった。
というわけで、軍一筋だったロバートの周囲にはそういう系に強い人たちしかいない。
そこで、心当たりをあたってみることにした。
というか、賭けてみることにした。
その人物たちについて、実際に会ってみることになった。
ロバートにとってもわたしにとっても、幸運というよりかは奇蹟が起ったといってもいい。
その人物たちが、予想以上に優秀な人たちだったのである。
家の都合で働かねばならなかった。実際、ずっと真面目に働いている。生来、向上心があって前向きである。自分の境遇や運命に流され、諦めるのではない。働きながらも自分を信じ、夢を抱き、自身に出来ることをなんでもやった。例えば、図書館で勉強したり周囲の人たちからなにかしらを学び続けた。それらを差し引いても、もともとが優秀だったこともあるのかもしれない。
メリッサの一番上の兄テリー・リーコックと二番目の兄のテッド・リーコック。親衛隊の隊員ザカリーの一番上の兄ドナルド・ゴールトンと二番目の兄レオ・ゴールトン。
彼ら四人と会って衝撃と刺激を受けた。だから、すぐに誘った。メリッサとザカリーの説得もあり、っして待つことなくうれしい知らせを受け取った。そして、彼らはわたしたちの仲間になった。ただし、レオだけは腕っぷしの強さを見込まれ、親衛隊に入隊した。ザカリーとともに、ロバートの直属の護衛になった。
というわけで、ロバート陣営はこのメンバーでスタートをきることになりそう。
幸運は、まだまだ続く。
メリッサとザカリーの姉たちは、貴族の屋敷に勤めている。メリッサの姉のメイ・リーコックは、ダルトリー王国の侯爵家でも筆頭にあたるホレス・ガードナーの屋敷で。ザカリーの姉のアン・ゴールトンは、三大公爵家最下位にあたるウオーレン・ジャイルズの屋敷で。彼女たちは、それぞれの屋敷で働いている。
ホレスは、内務副大臣。変わり者らしく、どこにも属していない。ウオーレンは、財務大臣。同じ公爵家である宰相とは、控えめにいっても仲は良くない。
いまのところ、政務関係においては王太子派は不利どころかほとんど味方がいない。
このふたりをどうにか出来るかもしれない。
最初は、メイとアンを引き抜き、ロバートの専属の侍女にと考えていた。その方が、給金がかなり増えるからである。それに、待遇もよくなる。
が、ホレスもウオーレンも雇用主としてはいい人らしい。彼女たちはそれぞれの屋敷で長年勤めていて、ふたりともいまはメイド長をしている。それならば、引き抜きはかえって迷惑だしイヤな思いをさせることになる。だから、引き抜きは諦めた。
そこでその主人たちをどうにか出来ないか、つまり懐柔出来ないかと思いついたのである。
内務副大臣と財務大臣を陣営に引き入れることが出来たら、これほど心強いものはない。
さっそく、メイとアンを口実にしてそれぞれ会ってみた。
どちらも五十代。言葉は悪いけれど、いろいろな意味でちょうど脂ののっている世代。
はやい話が、一筋縄ではいかない。
だけど、わたしにしてみれば、これほどやり甲斐のある駆け引きはない。
油断と焦りは禁物。
じっくりゆっくり試みることにした。
とはいえ、わたしにはあまり時間がない。いつロバートの前にほんとうの愛するレディが現れ、このダルトリー王国から放り出されるかわからないから。
もちろんこういうもろもろのことは、わたしひとりで決めたわけではない。ただの独りよがり的な考えだから。まず、モーガンに相談した。わたしの話などきいてはくれないかもしれない。笑い飛ばされるかもしれない。心の中でそんなふうに思いながら。
だけど、それでもよかった。
マットにも言った通り、結果はどうあれ実行することこそに意義がある。臆病と不安でなにもしなければ、なにも始まらない。
結局、なんにもならない。どれだけいい考えであっても無に等しい。
考えるだけ時間のムダ、である。




