ぶっ倒れた後に
ロバートたちによって盗賊たちは鎮圧された。
ロバートの部下の兵士たちは、彼の片腕の将校モーガンの指示で盗賊たちを縄で縛ったり引き立てたりしている。
そんな喧騒の真っただ中、ロバートはすぐにわたしに近づいてきた。
「ロバート」
「ユア」
気がついたら、彼の立派すぎる胸に抱かれていた。
「ケガは? ケガはないか?」
今度こそほんとうに安堵した。緊張感がなくなったからか、それともホッとしたからか、彼に抱かれていなかったら両膝から地面に崩れていたかもしれない。
「ロバート、大丈夫。わたしは大丈夫よ。わたしより、マットは? メリッサは? それから、ラッセルと親衛隊の隊員たちは?」
みんなのことが気になりすぎる。
ロバートに助けてくれた礼も伝えず、みんなの安否を尋ねていた。
尋ね終ってから、なにか忘れているような気がした。具体的には、だれかを忘れている気がした。
(まぁ、いいわよね)
と、結論付ける。
「ああ、みんなも大丈夫。ラッセルたちと合流出来たのがよかった。そうでなければ、教会にいるなんてことすぐにはわからなかっただろうから。それでも遅くなった。すまない」
「みんなが無事でよかったわ。そうよ、そうだわ。ロバート、もっとはやく来てくれなきゃ。みんなに怖い思いをさせてしまったわ」
みんなが無事だと分かった瞬間、持ち前の「可愛げのなさ」が炸裂した。
(バカバカ、わたしのバカ。ここは、『ロバート、ありがとう。あなたのことを待っていたのよ』とか、『ロバート、あなたはわたしのヒーローよ』とか言うべきなのに。どうしてそんな可愛げのないことを言ったのよ)
「ああ、わかっている。ユア、ほんとうにすまなかった」
「あなた、将軍でしょう? もっとはやく……」
「ユア」
「王太子妃殿下」
「王太子妃殿下」
今度こそ礼を伝えようと口を開くも、出てきたのは文句。だけど、ありがたいことに途中で言葉を止めることが出来た。
マットとラッセルとメリッサとザカリーら親衛隊の隊員たちが、走り寄ってきたからである。
「みんな、よかった……」
みんな衣服が汚れていたり血がついていたりするけれど、笑顔で自分の足で歩いている。
そのみんなの無事な姿を見た瞬間、急に気が抜けた。というよりか、ふうっと意識が遠のいた。
「ユアッ」
「ユアッ」
「王太子妃殿下っ」
ロバートの狼狽えまくった声を始め、みんながわたしの名を呼ぶ声をどこか遠くでききながら、『やはりだれかを忘れているかも』と思ったところで意識が途切れてしまった。
目を覚ましたのは、部屋の中だった。
祖国の皇宮の森にひきこもってサバイバル生活を送っていたときに使っていた、あのボロボロの旧宮殿の部屋かと錯覚した。が、霧が晴れていくように意識が明確になり、あの部屋ではないことに気がついた。
「ユア、よかった」
すぐに目に飛び込んできたのは、ロバートのごつい顔である。燃えるような赤色の短髪。褐色の肌。ついつい魅入ってしまうルビー色の瞳。
これほどごつくていかつい顔なのに、なぜかホッとする。心細さや迷いがふっ飛び、安堵と平静に満たされる。
「ロバート? いえ、殿下? わたし、どうなったのかしら? ここはどこ?」
ルビー色の瞳にわたしが映っている。
ティモシーを始めとしただれもが男と認める、黒色の短髪にシャープな顔付きのわたしが。
「ユア、ほんとうに心配したぞ。倒れたのだからな。まさか部隊のテントで簡易寝台に寝かせるわけにはいかず、メリッサの実家で世話になることにしたんだ」
「メリッサの?」
ルビー色の瞳からわたしの黒色の瞳を無理矢理引き剥がし、室内に視線を走らせた。
この部屋は、メリッサが王都に出てくるまで使っていたという部屋に違いない。彼女は、兄姉たちと年齢が離れている。兄姉たちはいっしょの部屋で寝起きしていたらしいけれど、メリッサが物心ついたときには兄姉たちはすでに王都に働きに出ていた。だから、彼女はひとりで部屋を使うことが出来たらしい。
それはともかく、結局メリッサの両親に迷惑をかけることになってしまった。




