わたしのピンチにロバートが……
「ギャッ」
奇跡が起きた。
拳が盗賊の顎にあたったのである。
尻尾を踏まれた猫のような悲鳴とともに、その盗賊はうしろにふっ飛んだ。
「キャッ!」
すでに他の盗賊が、メッリサに飛びかかっている。
「メリッサ」
無我夢中、ふたたびである。
つぎは右足で蹴りを入れていた。
ロバートの愛馬サンダーがするように。サンダーは、人見知りが激しい。ロバートとロバート専属の厩務員とわたし以外の人間が近づくと、彼は自慢の足でおもいきり蹴りを食らわすのだ。
サンダー仕込みの鋭い蹴りが、メリッサに襲いかかった盗賊の股間にヒットした。
奇蹟、ふたたびである。
「ギャアアッ!」
その気の毒な盗賊は、殴られた盗賊よりも哀れな悲鳴を発して床に沈んだ。
「なにをしているっ! 殺りさえしなければ傷をつけたってかまわん。さっさとつかまえろ」
司祭の苛立ちはマックスみたい。
盗賊たちが本気を出してきた。
これ以上の奇蹟は、期待出来ないみたい。
そう諦めかけた瞬間……。
「ドカーンッ!」
教会の玄関扉が、すさまじい音とともにふっ飛んだ。
その扉が、盗賊たちをなぎ倒しふっ飛ばす。
教会内の淡い灯火の中でも、土埃や埃がもうもうと立ち上がっているのが見える。
敵味方問わず、教会内にいるすべての人の動きが止まった。全員が、扉に注目する。
埃の中、ワラワラとたくさんの影が教会内に殺到してくる。
盗賊たちは、すぐにわれに返った。なだれ込んできた集団を敵とみなし、そちらに対処するべくかかっていく。
「ユアッ、どこにいる? ユアッ!」
あっという間に喧騒にかわった。それも、すさまじいまでの騒ぎに。
そんな喧騒の中でも、わたしを捜し呼ぶ声はかき消されることはなかった。
なぜなら、その低くて大きな声は、喧騒をはるかに上回っていたから。
なにより、わたしには馴染みのあるハスキーボイスだったから。
「ここよっ! ロバート、わたしはここよ」
無意識にロバートと呼んでしまっていた。
本来なら王太子殿下と呼ぶべきところを、である。
(いまは、呼び方なんてどうでもいい。ロバートが、彼が来てくれた)
ロバートが、彼が来てくれた。
わたしにとって、それがすべて。
『どうしてこのタイミングでわたしのピンチがわかったのか?』とか、『なぜグッドタイミングで現れたのか?』とか、そういう謎があるとしてもいまはそんなことはどうでもいい。
「ユアッ!」
教会内は、ロバートの部下の兵士たちと盗賊たちとでいっぱいになっている。その人ごみの中、人一倍背が高く立派な体格とごつい顔のロバートが見えた。
「ロバートッ!」
心からホッとした。ほんとうに安堵した。
ロバートさえいれば、わたしたちはもう大丈夫。
ロバートが盗賊たちをやっつけ、わたしたちを救ってくれる。彼なら、ぜったいにそうしてくれる。
その安心感が油断を招いた。
「おおっと。そうはいくか。王太子妃殿下、せめてあんただけでもいっしょに来てもらうぞ」
うしろからそうささやかれたときには、首筋に冷たくて硬いものがあたっていた。
司祭がナイフで脅してきたのである。
「お断りよ。首を掻き切るならどうぞ。あなたもすぐにあとを追うことになるから」
ロバートの登場は、安堵感を与えてくれただけではない。強気にもさせてくれる。
というわけで、首筋に鋭いナイフの冷たさを感じていながら、強がってしまった。
「この男レディがっ! こうなったら、おまえは殺ってやる。どうせそれが望みだったんだしな」
司祭もまた強がった。というか、捨て台詞的なことを吐いた。
「なんですって? あなたに男レディと言われる筋合いはないわ」
ムッとした。男レディだなんて、男みたいと言われるよりよほど男って感じがする。
(というか、『どうせそれが望みだった』って言った?)
なにかがひっかかった。
「ユアに触れるなーーーーーっ!」
そのとき、教会内に雄叫びが響き渡った。それこそ、喧騒がピタリと止まってしまったほどの大音声だった。
しかも、その雄叫びが終るまでにわたしを殺そうとしていた司祭はふっ飛んでいた。
気の毒すぎる司祭は、ロバートの拳の一撃であっけなくふっ飛び、祭壇に叩きつけられ動かなくなった。
わたしたちは、助かった。
ロバートが助けてくれた。




