融通がきかず、空気を読めない男
「多くの人々の前にさらされる。石や卵なんかを投げつけられ、唾や暴言を吐きかけられる。とことん屈辱を味あわされ、どん底に叩き落されてしまう。そして、最終的には断頭台でバッサリというわけ」
このダルトリー王国の制度がどうなっているのかはわからない。
いまのはすべて、書物に出てきた冤罪の断罪の場面や悪党や謀反人の処刑の場面である。それらを思い出し、語ったまでのこと。
「いずれにせよ、あなたたちの末路はきまったようなものね」
最後は、素敵すぎる笑みを浮かべてみせた。
元夫が「不気味すぎる」、と評した例の笑顔を。
サッと視線走らせると、盗賊たちの何人かはおたがいに顔を見合せたり不安そうな表情になっている。
(すこしは効果があったかしらね?)
「いや、ユア」
盗賊たちの悲惨な末路を、さらに言い募ろうとしたときである。
「ダルトリー王国では、さいわいなことにいままでにそういう前例がないんだ」
マットが言いだした。
「だから、きみがいま言ったようなことは……」
「マットッ! いままでに前例があろうとなかろうと、どこの国でも王族や王族に近しい公爵家のだれかになにかをしたら、最悪最低の罪になるのよ。だからこそ、国をあげて罰しないと他国に顔向け出来ないの。なにより、国内でいい笑い者になる。その首謀者がたとえだれであろうと、等しく断頭台行きよ」
(マット、空気を読みなさいよ。嘘も方便じゃない。生真面目に考えなくてもいいの)
マットのあまりのマイペースぶりに、というよりか生真面目ぶりに辟易としてしまった。
「あいかわらず、口の減らんレディだな。まぁいい。逆賊扱いされようがかまうものか。金貨さえ手に入ればそれでいいんだ。そうすれば、こんな国などさっさとおさらばしてやる」
司祭は、鼻で笑った。
「『あいかわらず』ですって? ということは、あなたたちはもともとこのダルトリー王国の者ではないのね」
「ああ、そうさ。国を転々としている。あんたのことは、まだデイトン帝国の皇妃時代に知っていた。まっ、仕事をしたのはあんたが廃妃になってからだったがね。もっとも、こんな間近で見たのは初めてだ。まぁ……、そういうわけだ」
(いまの『まぁ……』の後の間はいったいなに? それに、『そういうわけ』ってどういうわけなの?)
司祭の言い方にモヤモヤしてしまった。
「おおっと。時間稼ぎをしているようだが、そうはいくか。おいっ、この三人は縛り上げてそこのバカは殺れ」
司祭の命令に、盗賊たちはいっせいに殺気立った。
前後左右、盗賊たちがわたしたちにジリジリ迫る。
その盗賊たちの向こうから、ティモシーの無様なまでの命乞いの叫びがきこえてくる。
「ユア」
「王太子妃殿下」
マットとメリッサと三人で身を寄せ合う。
頭の中では、この最大級のピンチをどう切り抜けるか考えている。そのはずなのに、まったくなにも思いつかない。
「ふたりとも、付き合わせてごめんなさいね」
マットとメリッサに謝罪をせずにはおられない。
「付き合わせて」というのは、ピンチに付き合わせてってことである。
(こうなったら、とことん抵抗してやる)
祖国での皇妃教育の一環として、自衛や防御方法を学んでいる。それから、簡単だけど体術やナイフ術や剣術も。
そのお蔭で、ひきこもりのサバイバル生活の際に獣たちを相手にすることが出来た。もっとも人間の男性相手では、それも通用しないだろう。だけど、せめて盗賊たちの「アソコ」を蹴り上げるなり拳で殴るなりしないと気がすまない。
「ユア、危ない」
決意したのと、盗賊のひとりが飛びかかってきたのが同時だった。それに気がついたマットがわたしの前に一歩踏み出した。が、彼はいとも簡単に盗賊に殴り飛ばされてしまった。
「マット、大丈夫?」
床に倒れた彼に声をかけたけれど、うつ伏せに倒れたまま動かない。
(脳震盪でも起こしたのかしら?)
先程彼を殴った盗賊が、彼の襟首をつかんだ。
「マットに手を出さないで」
無我夢中、とはこのことである。
警告を発したときには、その盗賊のごつい顎めがけて拳を繰り出していた。




