ティモシー、大ピンチ
「わたしたちだって? 用があるのは、この男みたいなレディだろう? おれは関係ない。というわけで、おれはここから出ていく」
「なんだって?」
「なんですって?」
忘れていたわ。バカはいた。
ティモシーの爆弾発言に反応したのは、マットとメリッサだった。
「おやおや。どうしようもないバカがいるものだ」
司祭が同情してくれた。
「が、そういうバカほど血祭りにあげたくなる。われわれの神は、人間の血が大好きだからな。それから、金貨もな」
司祭は、同情のつぎは本性をあらわした。
「そいつをここに連れて来い」
司祭の命令に従い、三人の盗賊がティモシーに迫った。
「ち、近づくな。おれは、おれはパティシエだぞ。スイーツの王だぞ。おまえたちみたいな雑魚が触れていいわけがないだろう?」
「ちょっと、放しなさいよ」
ティモシー、最低な奴。
わたしの背に隠れ、わたしを盾にし始めた。
彼の手がわたしのコートをつかみ、けっして放そうとしない。
「ティモシー、やめないか」
マットが引き剥がそうとするも、まったく動じない。
三人の盗賊たちがやっとのことで引き剥がしてくれた。
それはじつに滑稽な光景でしかない。
「放せ、放せよ。おれをどうするつもりだ?」
ティモシーの「そこそこの美貌」は、恐怖と不安とで歪みまくっている。
「すくなくとも、おれたちにパティシエは必要ない。スイーツの王とやらもな。飯が作れるならいざしらず、キラキラするだけで甘ったるいだけのスイーツでは腹はいっぱいにならん。というわけで、おまえら四人の中ではおまえだけが必要ないというわけだ。王太子妃、公爵子息。それから、可愛らしいレディ。どう考えても野郎は必要ない。臆病で裏切者で調子がいいだけの野郎はな」
「もっともだわ」
「当然だな」
「そうですよね」
司祭の持論に、マットとメリッサと三人で納得してしまった。
「た、頼む。命だけは助けてくれ。おれなんて殺したところでつまらないだろう? 王太子妃や公爵子息に用があるんだったら、さっさと済ませるべきだ」
ティモシーは、命乞いしまくっている。
彼は、ほとほと見下げ果てた男である。
「待ってくれ。クズとはいえ、目の前で殺されれば気持ちのいいものではない。どうだろうか? おれが父に金貨を融通するよう手紙を書く。それをだれかに使いに行ってもらえば、明日にでも準備をするはずだ」
マットが提案した。
ティモシーのことをクズ呼ばわりしたのが面白かった。
「だから、レディふたりとそのクズを解放してくれないか?」
「ダメよ、マット。どうかしら? マットとわたしが残るわ。だから、そのクズとメリッサを解放して」
そもそも、今回の視察はわたしのワガママから始まったこと。わたしを監視する為とはいえ、マットを巻き込んでしまったことはたしかである。
マットだけにこのピンチをおしつけるわけにはいかない。
「だけど、よく考えた方がいいわ。マットは公爵子息というよりか、宰相の息子よ。そして、わたしは王太子妃。そのふたりを拉致して身代金をとったところで、このダルトリー王国そのものを敵に回すことになる。つまり、国賊よ。王太子は将軍でもあるし、軍をあげてあななたたちを捕まえる。いいえ、違うわね。国賊ですもの。攻めて攻めて攻めまくって討伐し尽くすわ。盗賊集団といったところで、軍にはかなわない。ぜったいにね。あなたたちは……」
そう言いながら盗賊たちを見まわした。
「剣で斬って斬って斬りまくられるわね。命乞いしようと泣き叫ぼうとおかまいなしに切り刻まれる。そして、斬殺された遺体はさらされて獣たちの餌になるの。それから、首領やその取り巻きのあなたたちは……」
司祭とその周囲にいる盗賊たちに視線を走らせる。




