司祭と対峙する
どこの教会もそうであるように、この教会も壁や祭壇に備え付けられているロウソクが灯っているだけで薄暗い。
一歩足を踏み入れただけで、その独特の雰囲気に包まれた。
独特の雰囲気とは、あいにくどこの教会もあるような敬虔なものではない。
ひとことで表現するなら「不穏」。つまり、教会ではけっして感じられないものである。
例の悪人面の司祭は、祭壇の前に立っている。一応、先夜同様司祭服に身を包んでいるものの、持って生まれた性質や本性は隠しきれるものではない。
ティモシーは、会衆席の間の通路に立ってなにかわめいている。
「水をくれ」
ティモシーもまた、ふだんは全力疾走することない。
訂正。レディを追いかける以外は。
彼は、おもいっきり走って喉が渇いたみたい。エラそうに水を要求している。
が、悪人面の司祭は、祭壇の前に立ったまま邪悪ともいえる笑みを浮かべているだけである。
「ティモシー、やめて。ムダよ」
彼に近づくと、声をおさえてやめさせようとした。が、静かすぎる教会内では、その小さな声でさえ大きく響いた。
「わたしたち、罠にかかったのよ。というか、あなたみずから盗賊の巣に入ったのよ」
「な、なんだって? ふんっ! ここは教会だぞ。悪党がここにいるわけないだろう?」
「それなら、きみも入れないだろうな、ティモシー?」
ティモシーのおバカすぎる理論に、冷めきったようなツッコミを入れるマットが面白すぎる。
(って、面白がっている場合ではないわ)
「ようこそ、王太子妃殿下。それから、ファイアストン公爵子息」
悪人面の司祭は、両手を広げて歓迎してくれた。
してもらいたくないけれど。
「いかがですか、ド田舎の滞在は?」
「そうね。とっても快適よ。つい先程までは、だけど」
出来るだけ冷静であることを努める。ついでに堂々と。さらには、怖れなど微塵も抱いていないというふりをして。
「それはそれはよかった」
わたしの心の内や感情を見透かしたように、司祭はニンマリと笑った。
「襲ってきた盗賊たちは、親衛隊とおれたちとを引き離す為だったわけだ」
マットも同じことを考えていたみたい。
「親衛隊など、実戦経験のないお飾りのようなものだがな。だが、腰に剣をぶら下げている以上、念には念をいれておいてちょうどいいというわけだ」
司祭の声質は、先夜会衆に語りかけていたものとは比較にならないほど低くて不気味である。
(ということは、ラッセルたちはまだ盗賊たちを相手にしているのかしら? それとも、盗賊は放っておいてわたしたちを追いかけてきているのかしら?)
彼らが無事であれば、どちらでもいい。
(というか、わたしたちよね)
司祭の合図で、教会の入り口や奥の扉から盗賊たちがのっそり出てきた。
「ワワワッ! どうして盗賊が教会にいるんだ?」
おバカなティモシーは、まだおバカなことを言っている。
彼は、後ずさりしてくるとよりにもよってメリッサとわたしのうしろに隠れようとした。
レディふたりのうしろに、である。
(ああ、そうだった。彼にすれば、わたしは男なのよね)
こんなときなのに、苦笑してしまう。
「それで? あなたが盗賊の首領なの? それとも、あなたもその他大勢のひとり? 司祭のふりだなんて、神をも畏れぬ所業よね?」
時間稼ぎに言ってみた。
もっとも、なんの時間稼ぎかはわからないけれど。
「盗賊だって? 見てわからないのか? 司祭だ。神の僕だ」
「あらそう。勘違いしてごめんなさい。そうよね。善良なる人々を正しい道に導く神の使いよね? では、この人たちも? この人たちもそうなのかしら? だとしたら、あなたたちの神はずいぶんと物騒なのね」
ジリジリと近づいてきている男たちを手で示す。ほとんどの男たちの手には、ナイフが握られている。
「……」
そのわたしの嫌味は無視された。
(まぁ、いいんだけど)
「でっ、わたしたちになにか用かしら?」
「きまっているだろう? バカでないかぎりな」
司祭にバカ扱いされてしまったみたい。




