襲撃される
「町に警察か守備隊はいるのかい?」
とにかく足を動かし続けている。こんなに全速力で走ったのは、まだ皇宮の森でひきこもってサバイバル生活を送っていたときに、小型のシカを追いかけて以来のこと。
サバイバル生活では、畑で野菜類と麦類を作っていた。どこかからか逃げだしたトリが野生化していたので、それを飼育して卵を得た。だけど、肉や魚は狩ったり釣ったりするしかない。さいわい、皇宮内の森は広大で野生の動物が多かった。大きな池があったので、そこで魚を釣ることも出来た。弓と矢と釣り竿は、自分で作った。見てくれは悪かったけれど、それとナイフさえあればなんとか狩りや漁は出来た。
当時は、どれだけ森を走り回ったことか。
それはともかく、マットの質問にメリッサは首を横に振った。
「小さな町ですものね。まぁ警察や守備隊が常駐していたとしても、盗賊とグルだったり飼われている可能性が高いけど。ということは、わたしたちはどこに逃げればいいのかしらね?」
まるで他人事である。
体力には限界がある。しかも、三人ともふだんから運動をしているわけではない。すでに息が上がっているので、体力が尽きて走れなくなるのもそう先のことではない。
「教会です」
町はずれの教会が見えてきた。
月光の下、臆病者のティモシーが教会の扉を叩いているのが見える。つづいて、「バンバン」だとか「開けろ、はやく開けろ」という音や声が流れてくる。
今夜は、夜の祈りはやっていないのだろうか。
ティモシーがいくら暴れようが、扉はなかなか開かない。
しかし、わたしたちが教会にいたったとき、まるで見ていたかのようにそれがスーッと開いた。
「クソッ、はやく開けろって」
ティモシーはわたしたちが近づくのもかまわず、開いた扉に体をねじこもうとした。
それを見ながら、うなじのゾワゾワがひどくなっていることに気がついた。
(これはもう、嫌な予感しかしないわ)
一歩、また一歩と後ずさると、わたしの様子を感じ取ったらしいマットとメリッサも警戒心もあらわに後ずさりを始めた。
「ティモシー、もういいわ。行きましょう。とにかく、ここから離れた方がいい」
いまだ中途半端にしか開いていない扉に体をねじ込もうとしているティモシーに声をかけるも、彼はきく耳を持たない。
「だったら、さっさと行けばいいだろう。おれは、ここに隠れてやりすごす。いくら盗賊でも教会に乗り込んでくることはないだろうからな」
彼は、面倒くさいだけでなくバカだということを忘れていた。
元夫と同類だったことを。
「おやおや、どうかされましたか?」
そのとき、教会の中から声がしたと同時に扉が大きく開かれた。
いまの声は、司祭の声だった。
「どうかされましたかだって? 盗賊が襲ってきたんだ。返り討ちにしてやってもいいが、あいにくおれは武器を持っていない。護衛たちがやっつけている間、ここで待つことにする」
おバカなティモシーは、こんなときでも見栄を張っている。
「そうでしたか。それは大変でしたな。ささっ、中へどうぞ。お連れの方たちもどうぞ中へ」
ティモシーは、さっさと入ってしまっている。
マットとメリッサと顔を見合せた。
「入らない方がいいですよね、きっと」
「ああ、メリッサ。おれも同感だ」
メリッサが小声で言い、それにマットも同意した。
「とはいえ、仕方がないわ。ティモシーを置いていくわけにはいかないんですもの」
溜息をつくと、マットとメリッサは同時に両肩をすくめた。
そう。わたしたちは見たのである。
この教会にいたったとき、教会のエントランス近くにある小窓から司祭が様子をうかがっていたことを。
その抜け目のない悪人面に、凶悪な笑みを浮かべながら。
(わたしたち、おバカなティモシーのお蔭で万事休すね)
わたしたちも教会の中へと足を踏み入れた。




