決意
「ティモシー、それは自分で考えなさい。さあ、いただきましょう。マット、わたしも作るのを手伝ったのよ」
空気をかえる為、わざと明るくふるまった。隣に座っているマットのお皿にガレットを切り分けのせる。
「美味そうだ。おっと、その前に『いただきます』と感謝しなくては」
マットは、ここ何回かいっしょに食事をした間に食事前に感謝を述べることを覚えたのである。
みんなで食事に関するすべてのことに感謝し、食事を始めた。
食後のデザートは、スイートポテトにした。ほんとうは、もっと甘い種類のイモが適しているのだけれど、そういうイモ類はこのダルトリー王国ではさほど生産していないらしい。さいわい、タマゴと砂糖がある。それから、バターも。それらが貴重なことはわかっている。わかってはいるけれど、最低限だけいただいた。
みんなでワイワイがやがや食べた夕食や食後のティータイムは最高に楽しかった。
ザカリーとわたしに嫌味を言われたティモシーは……。
彼は、愚痴りつつもおかわりをしていた。それから、スイートポテトを三個も食べた。
ほんと、面倒くさい男よね。
彼のことはともかく、メリッサに彼女だけでも泊まるよう勧めた。が、彼女もいっしょに宿屋に泊まるという。
ボブとメリッサに何度も礼を伝え、名残惜しいけれどリーコック家を辞した。
「ユア、なにか考えているんだろう? というか、もうなにか思いついているのではないか?」
月明かりの下、町へと急いでいるとマットが話しかけてきた。
ちょうど考えごとをしているときだったので、驚いてしまった。
「ええ、まあね。マット、あなたは? わたしに付き合わせてしまって悪かったけれど、いろいろ見聞きしてどうだった?」
「ああ、そうだな」
彼がわたしを見下ろしている。その碧眼が澄み渡っているのが、まぶしいくらい明るい月光の下でもよくわかる。
「正直、ショックだよ。ユア。きみの言う通りこれが真実なのだとすれば、早急になにかしらの手を打つ必要がある」
「そうね。だけど、そうは簡単にいかないのよ。考えることは出来ても、それを実行に移すことがね。それを成功させることは、もっと難しいわ。それでも、やらないよりかはやった方がいい。ダメもとで、あるいはうまくいったら『幸運よね』程度のノリでね。ねぇ、気がついている? 法とか施策とか、なにかをよくしよう、かえようというのは、ほとんどが上流階級の為のものだということを。つまり、それを行う者がよりよい生活をする為や富を増す為に行われていることを」
マットは、それには何も答えなかった。
「そして、そのしわ寄せや負担はだれにくるのかを」
彼は、それにも答えなかった。
「ダルトリー王国は、いい意味でも悪い意味でも因習や慣習にとらわれすぎている面があるみたい。それを打破するのは容易ではない」
マットに、というよりかは自分に言いきかせる。
(いつまで王太子妃の役をしていられるかわからない。ロバートがほんとうに愛するレディを見つけ、王太子妃に迎えるかわからない。しかし、そのギリギリのところまでやってみるのもアリよね?)
「だけど、考えて実行に移してみるわ。わたしは、どうせ悪女、というよりか悪人認定されているんだし。王太子殿下の立場や栄誉を傷つけない範囲で、好きなようにやってみるつもり」
これもまたマットにというよりか、自分に言いきかせる。
「ユア、おれにも協力させてくれないか? 多くの人たちの為、それからきみの為に……」
「マット……」
ふたりとも足が止まっていて、向き合っていた。
(なるほど。父親の為に、わたしを潰すつもりなのね)
彼は父親である宰相の為、ひいては自分自身の為に、余計なことをしようとするわたしを潰そうとしている。
(望むところよ。だったら、わたしも利用させてもらうだけだから)
「ユア」
心の中でほくそ笑んでいると、彼に両肩をがっしりつかまれていた。
それこそ、その力強さで肩が悲鳴をあげそうなくらい。




