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殿下、溺愛展開は契約違反です~「追放の廃妃」の私、わけあって元敵国の王太子と契約結婚することになりました~  作者: ぽんた


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リーコック子爵家でのひととき

 せめて夕食を食べて行って欲しい。


 メリッサの両親ボブとマリーが勧めてくれるけれど、断った。理由は、述べる前でもない。が、彼らは何度断わっても納得してくれなかった。


 泊まってもらいたいが、八人を泊めることは出来ない。イモ料理しかないが、ぜひとも食べて行って欲しい。すでにメリッサが作り始めている、と言って。


 彼らの心からの誘いに根負けし、夕食をいただくことにした。


 手伝わせてもらうのもひと苦労だった。合計で十人分。メリッサとマリーだけでは大変である。


 くつろいでいてくれ、と手伝いも断られた。しかし、宮殿の厨房でも料理をしていることを話すとどうにか受け入れてくれた。


 いつもだったら、宮殿の厨房で料理長を始め男性ばかりの中で料理やスイーツを作っている。それが、今回はレディばかり。正直、レディたちとの方が気楽に出来る。


 料理長や料理人たちは、どうしても根底に「レディ」にたいする偏見がある。もちろん、彼らがそれをあからさまに出すことはない。それどころか、王太子妃ということで気を遣ってくれている。が、どうしても根底にレディにたいする偏見がのたくっている。ふとしたときにそれが垣間見えてしまう。


 メリッサとマリーと三人で、リーコック家の狭くても機能的な厨房に立つのは楽しかった。三人でワイワイ話したり教えてもらいながら作ったのは、わたしにとって最高の思い出となった。


 そういう楽しさの反面、メリッサがうらやましくもなった。


 お母様が生きていたら、わたしの人生もかわっていたのかしら? 意地をはって森にひきこもってサバイバル生活などせず、廃妃された後は実家に戻ってお母様と料理やスイーツを作ったり、お父様と政治や経済について議論を交わしていたのかしら?


 そんなふうに考えてしまった。



 テーブル上に並んだのは、前日の夜宿屋の食堂で食べたのとほとんど同じメニューだった。それらに加え、イモを甘辛く煮たものやガレットがあった。そして、イモパン。パン生地にイモが練りこまれている。


 これがまた、ほんのり甘くて美味しかった。


 リーコック家の先代の当主夫妻を入れれば、七人家族だったらしい。それ以前に、兄弟姉妹が多かった時代もあったらしい。その為、食堂にある十人掛けのテーブルだけはいまだに当時のままにしているという。テーブルだけでなく、十脚分の椅子も残されている。もっとも、そのほとんどの椅子の上に物が置かれたり衣服がかけられているけれど。


 そのような物や衣服を移動させ、全員でテーブルを囲むことが出来た。


 ティモシーはあいかわらずである。数々のイモ料理をけなし、嘲笑う。それがあまりにも度が過ぎるので、さすがにやりすごしたり無視することが出来なかった。


「イモ以外にないのかねぇ。子爵家なんだろう、一応は? 下級でも貴族なんだ。おしゃれで上品な一品を出せないのか?」

「申し訳ございません。貴族とはいえ、わが家は落ちぶれております。これでせいいっぱいなのです」


 ボブは、心から申し訳なさそうに謝罪する。


「もしかして、このイモもあんたたちが作ったのか? それとも、管理地の農民が作ったのか? ほんと、土臭いところだよな。土のにおいが充満している。どこかで風呂に入ってにおいを落としたいよ」


 ティモシーは、調子にのってきた。


「これが下級貴族の現状なのです。うちもそうです。うちも大領主の領地の一部分の管理を任されていますが、両親が毎日必死に働いてくれています。兄貴や姉貴たちが王都で働いてくれて、おれは王都の学校を卒業し、こうして親衛隊の隊員になることが出来ました。土臭い両親のことを尊敬し、様々な偏見や侮蔑に耐えながら働いている兄姉たちを、心から尊敬しています。メリッサやメリッサのご両親だって同じことです」


 そのティモシーに異論を唱えたのは、親衛隊の隊員のひとりザカリー・ゴールトンである。彼はブラウンの瞳に同色の短髪で、そこそこの美貌に筋肉質の体格をしている。なにより、好男子すぎる。


「ティモシー。あなたの目は節穴だし、あなたの性根は腐っているわ。ここ数日の間、いっしょにいるのにあなただけまったく別の世界を見たり聞いたりしているようね。あなたみたいな人になにを言ってもムダでしょうけど、ひとつだけ言っておくわ。『あなたは、生かされている』、ということをね」

「なんだって? それはどういう意味……」


 ザカリーが口を閉じた瞬間、おもわず口にだしてしまった。だけど、かろうじてひとことだけで口を閉じることが出来た。


 このままだと、ティモシーが足腰立たなくなるまで、さらには彼の心が折れまくるまで、言い続けてしまうに違いない。





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