リーコック子爵家
「盗賊たちは、だいたいは王都で仕事をしているようです。情報が入れば、街道を行く貴族や商人や駅道馬車を襲ったりもしています。昔はそれだけで充分やっていけたようですが、最近は街道での実入りはかなり減っているようです。というよりか、街道を使う人たちが減っているんです。盗賊たちにしてみれば、街道で略奪行為を行うよりも王都で悪いことをした方が、よほど実入りがいいようです」
「この辺りなら、王都から遠すぎず近すぎずの距離だ。根城にするにはちょうどいい」
メリッサの説明にラッセルがつぶやいた。
(その意見に同感だわ)
心の中でつぶやく。
「王都では、どのようなことを?」
「閣下。よくわかりませんが、盗みやたかりはもちろんのこと詐欺もしているようです」
マットの問いに、メリッサはすこし考えてから答えた。
「王太子妃殿下、閣下、申し訳ありません。ですが、大丈夫です。盗賊たちも、この辺りには盗るものがないことはわかっています」
メリッサは、ハッとしたらしい。すぐにわたしたちには害は及ばないだろうということを伝えてきた。
「メリッサ、わかっているわ。つまり盗賊たちの根城があるので森には入れない、と言いたかったのよね」
「そうなのです、王太子妃殿下」
メリッサは、ホッとした表情で首を上下に振った。背中でお下げがぴょこんぴょこんと踊る。
「見えてまいりました」
彼女の指す指の先に、古めかしくてさほど大きくない屋敷が見えてきた。
(盗賊に胡散臭い司祭ねぇ……)
彼女の生家を見つつイヤな予感がする、というよりか、なぜかワクワクするのが止まらなかった。
「な、な、な、なんだって? お、お、王太子妃? 王太子妃殿下?」
「まぁぁぁぁっ! こ、こちらは、ファイアストン公爵子息様?」
まさかメリッサの両親にまで隠すわけにはいかない。メリッサからわたしたちの正体をきいた彼女の両親は、こちらがひくほど驚愕した。
「あの、たいした者ではないのです。ですから、どうか落ち着いてください」
彼女の両親は、ペコペコと体を折りつつメリッサのことで恐縮しまくっている。
(メリッサのことをほんとうに大切に思っているのね)
ふたりが彼女のことを心配し、大切に思っていることをひしひしと感じる。
メリッサの両親は、しばらくしてやっと落ち着いた。そのタイミングで、訪れた目的を告げた。
「ですが、王太子妃殿下に見ていただくようなものは……」
「わが家の恥をさらすようなことしか……」
ふたりは困惑している。
わたしでも困惑する。
「恥、なんてことおっしゃらないで下さい。真実を、ほんとうのことを見聞きしたいのです。領主から報告される数値上のことではなく」
メリッサ同様、彼女の両親も洞察力や直観力にすぐれている。すぐに察して案内をしてくれた。
リーコック子爵家が管理している土地を、つぶさに見てまわった。
ラッセルら親衛隊の隊員はもちろんのこと、マットとティモシーもいっしょに。
ティモシーにいたっては、文句や愚痴を言いながらついて来ている。
リーコック家の居間で待つよう、何度も提案したのに。ティモシーにしてみれば、待つのは退屈らしい。
彼のことは無視するか適当にあしらいつつ、メリッサの両親ボブとマリーに説明してもらいながら見てまわることで、あらためて現状を把握することが出来た。やはり、自分の目で見聞きしなければならない。各地の領主や管理人や統括者や視察官や監督官の報告や資料だけではわからない。それらは、ときとして正確でないときがある。
ごまかそうと思えばいくらでもごまかせるし、隠そうと思えば隠すことだって出来る。当然、借金をしてまで税を納める場合もあるし、滞納して追いつめられる場合もある。
結果、苦しすぎる現状がある。リーコック子爵家にいたっては、メリッサら子どもたちが王都に働きに出ることによって、なんとか持ちこたえられている。メリッサら兄妹たちのお蔭で、リーコック家とその統括する地の人々が最低限の生活を送れている。
ここは、まだマシなのかもしれない。ここよりひどいところは、すくなくないだろう。
マットもショックを受けたみたいだった。彼も真剣に見てまわっていた。
意外にも、マットも真面目に向き合っていた。




