盗賊の森?
わたしは、いずれの神も信仰していない。強いていうなら、「困ったときの神頼み」派に属している。というわけで、大切で貴重なのであろうこの説法にたいして、個人的には響くことはないしありがたいとは思わない。
会衆たちは頭を垂れて瞼を閉じ、五本の指を交互に組んで祈りのポーズで説法をきいている。
教会内に視線を巡らせた。
隣に立つマット、それから斜めうしろに立つラッセルもまた、わたし同様周囲に視線を走らせている。
司祭から祭壇へ。すると、祭壇の蔭に隠れるようにして複数の影が蝋燭の灯に揺らめいていることに気がついた。
暗くてはっきり見えないけれど、黒い影から体格のいい男性たちのようにうかがえる。
(手伝いの人? 弟子? 見習い?)
教会の関係者に違いない。
そのとき、視線を感じた。そちらを見ると、司祭が説法を続けつつ目をこちらに向けている。
その視線がまた、胡散臭すぎる。刃物のような鋭さでこちらを切り刻むような視線なのである。その表情がまた、じつに油断がならない。
違和感しかない。
しばらく睨み合っていたけれど、向こうから視線を手元の本へと落とした。
(違和感しかないわね)
違和感だらけのひとときは、こうしてすぎていった。
ティモシーは不平タラタラだったけれど、宿の寝台は寝心地がよかった。
もちろん、王宮の寝台とはまったく違う。だけど、ひきこもってサバイバル生活をしていた頃に比べると、極上の寝台である。
翌朝、一階の食堂で朝食を食べた。
朝も早い時間なのに、町や村の人たちが大勢食べている。あいかわらずレディの姿は見えない。
「ティモシー、いい加減にしろよ。どれだけ眠ったら気がすむんだ。というか、それでよく王宮の厨房で働けているな」
マットは、朝食の席でプリプリしている。なんでも、ティモシーを叩き起こすのが大変だったとか。三人の親衛隊の隊員たちが、文字通り叩き起こさねばならなかったらしい。
そのお寝坊野郎は、テーブルをはさんだ向こう側で大欠伸をしている。
「おれは、パティシエだ。ちんけな料理人みたいに、イモの皮を剥くわけではない。パティシエというのは、優雅に午後から活動する。手腕を発揮するのは、昼以降で充分なんだ」
欠伸の合間に言うティモシーを、マットは冷めた目で見ている。
「そのパティシエの役目だって、最近は果たしていないらしいではないか。いい加減に態度をあらためないと、クビになるぞ」
「フンッ! おれをクビになど出来るものか。マット、きみの父上がいるかぎりはな」
マットは、憎まれ口を叩くティモシーからわたしへと視線を移した。
「ティモシー、きみは宰相のことをわかっていないようだ」
それから、つぶやくように言った。
「おまたせしました」
そのタイミングで朝食が運ばれてきた。
目玉焼き、カリカリベーコン、サラダ、スープ。それから、堅パン。
シンプルだからこそ、めちゃくちゃ美味しい。
あっという間に完食。
ティモシーもグチグチ言いながら完食した。
それから、メリッサの実家へと向かった。
町を出てメリッサの実家であるリーコック子爵家が管轄している土地を歩きながら、やはり土壌そのものがあまりよくないのだと痛感した。
ここだけではない。もともと鉱山が多いこのダルトリー王国そのものが、農業や牧畜に向いていないのである。
イモの収穫が終ったばかりらしい。さして広大でもないいくつものイモ畑を見ながら、メリッサの実家へと急いだ。
「森はあるのね」
畑よりも森が目立っている。
その森を見た瞬間、閃いた。というか、予感がした。
それは、野生の勘というのかしら? とにかく、ひきこもってサバイバル生活をしていたときの勘が働いた。
「はい。ですが、あそこは盗賊たちのテリトリーなのです」
「盗賊?」
メリッサの回答は意外すぎた。
盗賊たちも、こんな痩せてなにもない土地で活動したって実入りがすくないのではないかしら。




