町はずれの教会の胡散臭い司祭
町の唯一の通りには、すでに閉まっているもののなにかしらのお店が軒を連ねている。メリッサによると、この町にある店だけで生活には困らないらしい。
街道に近い町だけのことはある。
人通りはない。というか、人がいない。道を歩いているのは、わたしたちだけである。
そんなだれもいない静けさの中、ティモシーは宿屋を出てからずっと文句を言い続けている。
彼はきっと、文句や愚痴を言うことがふつうなのだ。
そういう人はすくなくない。いつも愚痴や文句や悪口や不平や不満をいう人が。
そういう人たちは、周囲の空気を読むことや他人の迷惑を顧みることはない。息を吸ったり吐いたりするように、それが当たり前のようになっている。そして、そういうものの考え方や捉え方しか出来ない。
うしろ向きでネガティブな考え方しか。
あくまでもわたしの考え方だけど、そういう人たちは人生を損をしていると思う。損とか徳とかと表現するのはおかしいけれど、ネガティブな考え方や生き方は面白くないのではないかと思ってしまう。
そういうわたしのくだらない持論はともかく、静かな町にティモシーのブツブツとつぶやく声だけが流れているのは、正直不快でしかない。
そういうふうに思っている間に、教会が見えてきた。町の規模に比べれば、ずいぶんと立派な教会である。その教会の向こうには、黒い大きな影がボーッと浮かび上がっている。
「あの黒い大きな影が、この町を象徴する丘です。丘の上に枯れ木があるのですが、大昔、戦争があった際に国王と王妃が首を吊ったと伝えられています。だから、丘の名は『ハンギング・ヒル』というのです」
メリッサが教えてくれた。
「そういうふうに伝えられているだけで、真偽のほどはわかりません。ほんとうだとしても、どういう国王と王妃だったのかもわからないのです」
彼女は、そう言って苦笑した。
「伝説や伝承はそういうものよ。その話から、いろいろ想像や空想するのが大好きなのよね」
黒い大きな影を見つつ、大昔の戦争に思いを馳せる。
「ユア、きみの言う通りだ。作家や学者みたいに調べるとまではいかなくても、頭の中で思い描くのは楽しいよ」
マットが共感してくれた。というよりか、やさしい彼らしく社交辞令で言ってくれた。
「その国王や王妃を守るべき親衛隊の連中は、敵に皆殺しにされたのかもしれないな」
ラッセルがつぶやいた。
それも空想よね。
「ふんっ! どうせその国王と王妃は、国民にさらし者にされた後に断頭台で首をバッサリされるのが怖かったんだろうよ」
そして、ティモシーも。
(断頭台で一瞬のうちにバッサリされるより、自分で自分の命を絶つ方が怖いし勇気がいると思うけど)
もちろん、口には出さない。
みんなでいろいろ空想しあいながら教会へと向かった。
教会は、想像していたよりも立派で大きかった。中に入ると、この町だけでなく周辺の町や村からもやってきている大勢の人たちでいっぱいである。すでに会衆席はいっぱいで、立っている人たちもいる。
さすがにここは平等のようで、レディの姿もちらほら見える。が、それでもレディの数はすくない気がする。
入ってすぐ右横のスペースが空いていたので、そこに立つことにした。八人で身を寄せ合うようにして立つ。
ちょうど司祭の話が始まるところだった。
司祭は、意外にも書物ではなかなか描かれそうにない雰囲気を醸し出している。
司祭服に包まれたその体は、控えめにいっても立派すぎる。司祭服の上からでも筋肉質であることが分かる。それだけでなく、めちゃくちゃ背が高くてがっしりしている。肩まである金髪は、うしろでひとつにくくっている。さらには、その視線である。ブラウンの瞳から発せられる光は、敬虔さや慈しみからは程遠く、不穏ななにかを感じさせる。
大昔にいた勇者とそのパーティーであれば、彼は司祭よりも勇者や剣士の役割を担いそうである。
訂正。彼は、あきらかに悪の側として登場しそう。
もしかすると、軍人や悪人がなにかのきっかけで神に仕えるようになったのかもしれない。
一瞬そう考えはしたものの、わたしの勘はそうは告げていない。
(この司祭、胡散臭すぎるわ)
ここでなにか悪だくみに従事しているか、あるいは企んでいるかしていそう。
そう告げている。
司祭の話じたいは、よくある内容だった。
教会内の静寂の中、彼の説法がダラダラと続く。




