夜の散策
食後まだ眠るには早い時間だったので、町の中を散策してみることにした。もちろん、護衛のラッセルに許可を得て。
メリッサが案内してくれるという。とはいえ、町は小さくて見るべきものといえば丘の上からの景色と町はずれにある教会くらいだとか。
景色は、いまはもう暗いので見えない。町の家々の灯りがまばらに見える程度だろう。
というわけで、教会に行ってみることにした。
夜の祈りの時間らしく、人々が集まっているという。
「おれも行っていいかな?」
宿屋の二階にある自分の部屋を出たところで、マットに呼び止められた。
「あなたも疲れているでしょうし、ラッセルと部下の隊員がついて来てくれるのでいいわよ」
四六時中見張られるのも疲れてくる。
だから、遠まわしに拒否した。
「馬車内でずっとティモシーの愚痴をきいていただけだから、疲れてはいないよ。それに、おれも町の様子を知っておきたい」
マットは、遠まわしの拒否に気がつかなかった。
「閣下。教会といっても王都の大聖堂のようなことはありませんし、この辺りの町や村の人たちがぞろぞろとやって来てお祈りをしたり司祭の話をきくだけです。むさ苦しい思いをされるだけかと」
うしろで控えているメリッサが助け舟を出してくれた。
「かまわない。ユアが見るものを、おれも見ておきたいんだ」
が、マットは頑なに行きたがる。
(空気を呼んで欲しいわよね)
と言いたいけれど、言えるわけがない。
「それなら、コートを羽織った方がいいわね」
「やった。ありがとう、ユア。すぐに取ってくるよ」
彼は、美貌をさらに輝かせて自分の部屋に入った。そして、すぐに出てきた。が、なぜかティモシーもいる。
「おれも行ってやるよ」
ティモシーは、目が合った瞬間高飛車に言った。
「恩着せがましく言うくらいなら、同道してほしくないわ」
遠まわしに拒否をする。あくまでも、やさしく丁寧に。それこそ、「淑女の鑑」のような対応で。
「そうだぞ、ティモシー。きみは、部屋でゴロゴロしていろよ」
「つまらないんだよ。いつもなら、この時間帯はレディと甘いひとときをすごしている」
マットの指摘に、ティモシーは見栄を張った。しかも、「レディと甘いひととき」のところでわたしに視線を向けて。
(どうせわたしは、レディではなく男よ、男)
ティモシーの嫌味に、いちいち反応するつもりはない。
「教会なら、レディがいるだろう? お淑やかでやさしくて気遣い抜群のレディが」
「バカバカしい。そのような邪な考えで教会に行けば、雷に打たれるぞ」
マットは呆れ返っている。わたしもその考えに同感である。
「おれの美は、この世の中のレディたちの為にあるんだ。レディたちには、平等に接したい。こんな辺鄙な田舎のレディたちだって、おれのすべてに触れる権利がある」
ティモシーは、起きているのに寝言を言っている。しかも、わたしを見ながら。
(だったら、わたしにも平等に接してよね)
いつも理不尽かつ侮蔑的な接し方を、というか絡み方をしてくるくせに、平等がきいて呆れるわ。
(あ、そうか。ティモシーにとっては、わたしは男みたいなものですものね。平等に接する必要はないってわけね)
心の中で苦笑する。
結局、みんなで散策に行くことになった。




