宿屋の食堂にて
宿屋は、ちょうど四部屋空いていた。ちょうどというのはふたり一組として四部屋、八人分という意味である。
ラッセルを含めて親衛隊が四人。それから、マットとティモシーとメリッサとわたしである。
ムダに気位の高いティモシーと公爵子息のマットは、同室になるのを嫌がるかと思った。だけど、よくよく考えるとふたりは遠縁にあたる。
同室でも問題ないはず。
推測通り、どちらからもクレームや文句はなかった。
夕食は、宿屋の一階にある食堂でいただくことにした。
食堂と飲み屋がいっしょになっている為か、大盛況である。テーブル席もカウンター席もすぐに埋まってしまった。
なんと、レディの客はメリッサとわたしだけであとは全員男性。
こういう食堂や飲み屋は、レディが入りにくい雰囲気があるのかもしれない。というよりか、外食や飲酒が許されない風潮があるみたい。
というわけで、いやでも男性たちの注目を浴びている。これが美しいからとか可愛いからとかなら、わたしとしても「望むところよ。ドンと来なさい」とない胸を張っていられる。が、偏見からきているので正直居心地はあまりよくない。
「まぁ、メリッサじゃない」
宿屋兼食堂のおかみさんが通りかかった。この辺りは、メリッサの地元。彼女がメリッサのことを知っていて当然である。
「たしか、王都に働きに出たのよね?」
おかみさんは、書物から飛び出してきたのかと思えるほど「おかみさん」のまんまである。彼女は、他のテーブルへ料理を運びながら大声で言った。
「メリッサだ」
「リーコック子爵のとこの末っ子の?」
「あそこも大変だからな」
周囲のテーブル席からひそひそ声がきこえてくる。
「おひさしぶりです。そうなのです。王都で働いているんですが、里帰りを許されたのです」
メリッサは、はにかんだ笑みとともに応じた。
「ご両親、よろこぶに違いないわね。どうする? 今夜のスペシャルでいい?」
メリッサは、目顔で「今夜のスペシャル」でいいのかどうかを尋ねてきた。だかだ、間髪入れずにかすかに頷いた。
「彼らに葡萄酒をお願いします」
おかみさんに追加注文をした。彼らというのは、マットたち男性陣のことである。
「あいよ。ちょっと待ってね」
おかみさんは、威勢よく応じてから他のテーブル席へと行ってしまった。
料理は、さほど待つことなく運ばれてきた。
「今夜のスペシャルっていっても、しょっちゅう同じメニューで代り映えしないんだけどね」
おかみさんは一度に三人前分ずつ運び、ひと通りいきわたってからあらためてわたしたちを見まわした。
正体がバレるのがイヤだから、出来るだけ地味な恰好をしてくるようにと伝えてあった。ラッセルたちはともかく、マットとティモシーは材質もデザインも「いかにも貴族」って感じの服装を着用してくると思ったからである。
ちなみに、わたしはズボンとシャツにコートという恰好である。着用しているのは、祖国にいるときから着用しているシャツとズボンとコートだから、かなり擦り切れ色褪せている。
「あの、もしかしてどこかの貴族かい? だったら、こんな料理は口に合わないだろうね」
マットとティモシーは、わたしの頼み通り派手でも豪華でもないシャツとズボンである。だけど、そもそもの雰囲気が違う。マットは貴公子然としているし、ティモシーは黙っていてさえ傲慢な振る舞いをする。それは、ラッセルにもいえる。彼も同様のシャツとズボンとコートという恰好で、食堂内ではシャツにズボン姿だけど、「どこかの子息」という雰囲気がありありと出ている。なにより、腰に剣をぶら下げている。まぁ、それは仕方がないんだけど。
おそらく、おかみさんは彼らのそういう雰囲気を感じとったに違いない。
「イモとベーコンの煮物にイモの揚げ物にイモのふかしたものだって? イモ、イモ、イモ。こんなみすぼらしいもの、口に合うわけがないだろう。 グワッ!」
ティモシーは、元夫にそっくりのクズでバカな上にろくでなしである。
おもわず、大声で悪態をつく彼の足を全力で蹴ってしまった。
「そんなことないですよ。どれもすごくおいしそう。ねえ、マット?」
「ああ。このパンもうまそうだ。葡萄酒も美味いですよ」
わずかな灯火の中、マットの美貌がキラキラしている。
わたしが同意を求めると、彼は如才なくそう言った。
「食いすぎて動けなくなっても、ここならすぐ上に部屋があるから心配いらないしな」
「飲みすぎもオーケーってことですよね?」
「おいおい、いい加減にしておけよ」
親衛隊の隊員やラッセルもうまくやってくれる。
「もうガマン出来ないわ。さっそくいただきましょう」
手を合わせてすべてに感謝し、シンプルだけど心のこもった料理の数々を堪能した。
わたしだけでなく、みんなもお腹が減っていたみたい。
とくにティモシーは、ブツブツ文句を言い続けながら人一倍食べていた。
もっとも、負けず嫌いのわたしも人一倍食べてしまったけれど。




