メリッサの実家へ
メリッサの実家は、馬車で一日くらいのところにあるらしい。
朝早く王宮を出発し、朝の忙しい王都の街並みを見ながら王都を出、王都内とは正反対ののどかで静かな村や町を通りすぎていく。
途中で各領地の領主の屋敷に立ち寄り、領地内を視察させてもらった。
とはいえ、ほんとうにザッとである。ちゃんと視察するとなると、それこそ数日かかってしまう。
三人の領主に会い、そのやりとりの中でひとりをのぞいて不正を行ったり虚偽の申請をしている可能性に気がついた。
そのふたりの領主は、領民の生活水準と比較してそれをはるかに上回る生活を送っている。ちょっと揺さぶりをかけるか、あるいは調査をすれば、ゴミやホコリが出てくるはず。が、そのふたりは宰相派。よほどうまくやらないと、こちらが痛い目をみる可能性がある。
そのふたりの領主は、宰相の息子であるマットに気を遣っていたことはいうまでもない。
そんなふうにして寄り道をしていたから、メリッサの地元に到着したのは夕方近くだった。
彼女の実家から一番近い町に宿屋があるので、そこでお世話になることにした。
翌朝、彼女の実家を訪れるつもりでいる。
投宿したのは、書物に出てくるような街道沿いの街にあるような宿屋である。
一階が食堂兼飲み屋になっていて、二階に客室が並んでいる。
その町は、街道が近くにあるということで賑わっているらしい。たしかに、暗くなってからも人が大勢いる。それから、食べ物を扱っている店はまだ開いている。
「この辺りは大領主様の管轄なのです。うちが管理しているのは、この町はずれからということになります」
メリッサは、そう言って気弱な笑みを浮かべた。
「大領主様の領地内でも、賑わっているのはこの町くらいです。この町でさえ、潤っているわけではありません。街道が近くにあるので商人が利用してくれますが、それもこの前のデイトン帝国との戦争騒ぎで素通りしているそうです。昨年、一昨年とイモが不作でしたので、余計に敬遠されているみたいです」
この領地内で一番の生産量を誇っていたイモの収穫量は、年々減っていっているらしい。他の農作物の生産を検討する概念さえないらしい。昔から生産してきたイモにしがみつき、そして喘いでいる。それを領主はわかっていながらなにもしない。いいえ。領主もなにかしたくても出来ないのだ。
メリッサの話は、ここだけでなく他の領地の話でもある。
違うわね。このダルトリー王国のことだけではない。祖国のデイトン帝国は、もっともっとひどい状態だった。それで多くの人々の恨みと怒りを買った。なぜなら、帝国そのものが、つまりわたしたち皇族が元凶だったからである。
いまのダルトリー王国の王族は、すくなくともわたしたちのように贅を尽くしまくり、自国民を追い詰めているわけではない。いまのところは、そういうふうには感じられない。だけど、彼らもまたなにもしていない。なにもしていないから、宰相やその一派が好き勝手をしている。それが王国民の不満へとつながる可能性は充分ある。不満を向けられると、宰相とその一派は自分たちが正義になって王族を非難し、牙を剥き始める。はやい話が、ほんとうの元凶が反乱を起こして王族を弾圧する。
まるで書物の筋書きだけれど、そういうことはあり得る話なのだ。




