どうしてあなたたちがついて来るの?
「親衛隊の隊長ラッセルみずから? それに、パティシエのティモシーも? どうして? どうしていっしょに行くわけ?」
なるほど。ついて来るのは、わたしの見張りというわけね。
というか、いくらわたしのお目付け役といえど、ラッセルはともかくティモシーは関係なくない? いくらなんでも、パティシエを同行させるのはムリがありすぎる。今回の旅がスイーツを探求するとかならわかるけれど。
(宰相ったら、なにがなんでもわたしのアラとか弱みを握りたいのね)
(そんなの、望むところじゃない)
(それにしても、いくら宰相の命令だからって、ティモシーがよくついて来る気になったわよね?)
ティモシーとは、初対面以降顔を見合せる度に絡まれている。それがまるで子どもみたいな態度で、苦笑しつつうまくあしらっている。彼は、どれだけあしらってもあの手この手で絡んでくるので逆に絡まれるのが楽しみになっている。
それはともかく、侍女はメリッサだけにして親衛隊の隊員の人数をおもいっきり減らした。
参加希望者には謝罪をし、ガマンしてもらうことにした。
みんな、たまには王宮の外に出て息抜きをしたいのである。その機会を奪ってしまって申し訳ないけれど、今回はやはりお忍びの視察。大勢で行ってはなにもならない。
なにより、メリッサのご両親に迷惑をかけてしまう。
というわけで、さすがにラッセルとティモシーは拒否出来なかった。だけど、最低限の人数には出来た。
馬車は一台にした。それも王族専用の馬車ではなく、ラッセルの生家であるフォロン伯爵家の馬車を借りることにした。
フォロン伯爵家の馬車は、さほど豪華ではない。だから、「いかにも貴賓」という感があまりない。とはいえ、王族の馬車もそこまで豪華絢爛というわけではない。どちらかといえば質素である。が、王族を示す獅子の紋章が彫り込まれている四頭立てのかなり大きな馬車。どこからどう見てもバレてしまう。
というわけで、フォロン伯爵家の二頭立ての四人が対面で座ることの出来る馬車だけど、わたしは出来るだけ馬に乗ることにした。というのも、同乗のメリッサはともかくティモシーが鬱陶しすぎる。狭い空間で絡まれまくるのは、不快で不吉で不運でしかない。
そういうこともあり、乗馬にした。
ラッセルとふたりの親衛隊の隊員が乗馬で、ひとりは馭者をしてもうひとり……。
そのもうひとりというのもまた問題なわけで、それもまたわたしに乗馬を選択させた理由のひとつ。ティモシーの鬱陶しさより、そのもうひとりの存在の方がある意味うんざりかもしれない。
そのもうひとりというのが、マット・ファイアストンなのである。そう。宰相の息子である。
あからさますぎるお目付け役。それどころか、外交官の彼に同行させるなんて嫌がらせ以外のなにものでもない。
じつは、マットもまた初対面以降なにかと絡んできている。ティモシーの絡み方とは違う絡み方で。
適当にやりすごしたりあしらったり出来るティモシーに比べ、マットはそうはいかない。スイーツを口実に、ことあるごとに絡んでくる。最初こそあれこれご馳走していたけれど、そのうちうんざりするようになった。だから、出来るだけいっしょにいたくないのである。
(メリッサ、ほんとうにごめんなさい)
デイトン帝国からこのダルトリー王国にやって来るときに軍から借りた牝馬「レディローズ」の馬上から、馬車の中にいる彼女に謝らずにはいられない。
下級侍女の彼女が、貴族子息たちと狭い空間でじっとしていることを強要してしまったのだから。
メリッサは、馬車内で小さくなっているに違いない。




