視察に行きたい
わたしには、ダルトリー王国でコネや後ろ盾がない。それどころか、知り合いさえいない。
情報を得るのにも限界がある。
政治的なこともそうだけど、王国内のことをどうにかしたい。
王国内の改革となると、いきなりスケールが大きくなる。それどころか無謀といってもいい。自分でも笑ってしまう。思ったり願ったり望むことは自由。だけど、ほんとうに出来るのか? それ以前に着手出来るのか? ということになると、はなはだ心もとない。
どうしてこのような無謀なまでの野心を抱いたかというと、侍女のメリッサや他の下級下女たちからいろいろ話をきいたからである。
メリッサの実家は、王都からそう遠くない小さな町や村を管理している子爵令嬢である。とはいえ、その町や村では、年々収穫出来る作物の量や質が低下し、その地方の大領主である伯爵家からのプレッシャーがすごいらしい。彼女の両親だけでなく、兄姉もいっしょに畑を耕していたらしい。だけど、それでもまったくおいつかない。
彼女と兄姉たちは、それぞれ働きに出なければならなかった。リーコック家を継ぐべき長男まで働かねばならず、現在は王都の貴族の屋敷で下働きをしているとか。
彼女の実家だけではない。他の侍女たちも似たり寄ったりの状況である。
「メリッサ、あなたのご両親に会えないかしら?」
当事者たちと直接話をしてみたくなった。というよりか、いまのダルトリー王国の真実をこの目で見たかった。
祖国からこの王国へやって来たときのような旅の途中で見た光景だけでは、とうていこの王国の現状はつかみきれない。ほんとうに知りたければ、というか改革を起こしたければ、ちゃんと向き合わなければならない。
その為には、そこに行ってしっかり見聞きすべきである。
「ですが、王太子妃殿下。王太子妃殿下に訪れていただくわけには……」
「もちろん、殿下の許可はいただくつもりよ。それから、国王陛下にも」
「いえ、王太子妃殿下。そういう意味では……」
「だから、メリッサ。ご両親に『里帰りするつもり』って、手紙で知らせておいてくれない? 気を遣わせてしまうから、わたしのことは伏せておいてほしいの」
「えええっ? それは……」
「ワガママはわかっている。だけど、せっかくだからなにか出来ることがあればやりたいのよ」
ほんとうにワガママである。困惑しまくっている彼女に迷惑をかけていることも重々承知している。しかし、どうしても見聞きしたい。
彼女の手を握り、ねばりにねばった。
そうして、彼女は根負けした。
ロバートも国王も許してくれた。
ただし、護衛というよりかはお目付け役がついてくるという。
それでも、許してくれただけよかった。
出来るだけこじんまり行きたかった。
それこそ、表向きとはいえ王太子妃であることが知られずに済むように。
わかっている。ほんとうは王太子妃ではないけれど、それでもダルトリー王国の国民たちにはわたしが王太子妃であることに間違いはない。
その王太子妃が王宮を出るとなれば、いくらお忍びとはいえ警護やお付きの人たちがついてくる。
そのことは重々承知してはいる。
それを差し引いても、である。
(こ、これはいったいなに?)
いっしょに行きたいと申し出てくれる人たちやすでに決定済みの人たち……。
とにかく、その人数が半端なく多いのである。




