宰相との初戦
「おやおや。そういうきみは、男っぽさにみがきがかかったようだな。権勢を欲しいままにふるっていたときよりも、よほど男らしくなっているではないか」
「そうでしょう? 外交官殿、いえ、宰相閣下でしたわね? わかっていただいて光栄ですわ。わたし、ワイルドさが増したのではありませんか? そこらの紳士より、よほど男勝りだと思います。そうですよね、王太子殿下? 王太子殿下は、型にはまったレディより男勝りで自由気ままなレディの方がよほど付き合いやすいそうですから」
ロバートに振ると、彼はすぐにわたしの意を察して大きく頷いた。
「そうだ。彼女は、じつにざっくばらんで豪快だ。戦友のように腹を割って付き合える。戦場で背中を預けてもいいくらいだ」
彼は、べた褒めしてくれた。
(って、ちょっと待って。ロバートって、そこまでわたしを男認定しているわけ?)
自分でふっておきながら、ロバートのわたしにたいする評価が微妙すぎてモヤモヤ感が半端ない。
「殿下、そんなふうにおっしゃってくださって光栄ですわ」
ロバートに向けた笑顔は、強張っていたかもしれない。
「ふんっ! 祖国を思うままにして滅ぼしたばかりか、つぎはこのダルトリー王国か? 殿下をどうやって誑かしたかは知らぬが、デイトン帝国のようにはいかぬぞ」
宰相は、いかにも「自分がいるからダルトリー王国は成り立っている」と誇りたいらしい。ムダに胸を張っている。
頭上のキャンドルシャンデリアの淡い光が宰相の残念な頭を直撃し、ピカピカと光り輝いて見えるのが尊すぎる。
尊すぎて、彼の前で跪いて祈りたくなるのをガマンしなければならない。
「それに、この粗野で不潔そうなスイーツはなんだ? 食えば具合が悪くなりそうだ」
彼は、遠い親戚のパティシエのティモシーの仇を討ちに来た。
「仕方がなかったのです。専属のパティシエは、気分がのらないと作ることを拒否されました。どうやら、わたしに作るべきレシピはないそうです。ですので、せめて陛下と妃殿下に、素朴でも愛情深いスイーツを召し上がっていただこうと、料理人の方々と心をこめて作りました。パイもクッキーも、祖国で親しまれているものです」
「ふんっ! こんなもの、だれが食えるか……」
「うまい。シンプルだがすごく美味い」
「そうですね、陛下。それに、甘すぎず素材の甘さずっぱさがちょうどいい感じです」
「たしかに。これは美味い」
「ああ、いつもの甘いばかりでおどろおどろしいものより、よほど美味い」
国王や王妃だけでなく、閣僚たちもさっさと食べ始めている。
「ああ、ユア。美味すぎるよ。おかわりしたいのだが、いいかな?」
ロバートは、あっという間にペロリと平らげてしまった。
「もちろんですとも。あの、みなさんの分も作ってありますので、あとで味見してみて下さいね」
そう言った相手は、離れた所で控えている使用人や親衛隊の隊員たちである。
「やった」
「楽しみだな」
「うれしい」
みんな笑顔でつぶやいている。
「なんてことだ。われわれを餌付けしようとでもいうのかっ?」
宰相は、ひとり憤慨している。
魚の腐ったような目は、テーブル上のスイーツをチラ見している。
「そうおっしゃらず、ひとくちいかがですか? 優秀なあなた方が、スイーツごときでわたしにどうかされるなんてことありませんでしょうから。そうですよね、宰相閣下?」
勧めると、宰相はアップルパイを一切れ口に放り込んだ。
(っていうか、ふつうフォークで食べるでしょう? どれだけ食べたかったのよ?)
意地っ張りな宰相が、少しだけ可愛いと思った。
「これは……。ふんっ! たいしたことはない……」
「おかわりをくれないか?」
「わたくしも」
「わたしもです」
必死に強がる宰相を横目におかわりが続出。ふた切れ目は、ひと切れ目より少しだけ大きく切り分け、生クリームを添えた。
宰相もおかわりしていたから笑ってしまった。
こうして、挨拶は無事終了した。
ちなみに、宮殿内にいるすべての人に配ったスイーツは大好評だった。
みんなが笑顔でスイーツを頬張る姿を見、しあわせな気分になった。
やはり、だれかの為になにかをするのは気持ちがいい。
まぁ、ただの自己満足にすぎないのだけれど。




