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幸せテロ、爆破まであと。  作者: 葉方萌生
二、大事なものを守れない
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 男女の仲の進展を目指すなら、まずは連絡先を聞くのが鉄則だろう。昨日、運良く憧れだった「SHIO」と話をすることができた璃仁は、彼女と言葉を交わしただけで満足だった。いや、正確に言えば言葉を交わすのに精一杯で、その後の交流については頭になかったのだ。

 昨日はお察しの通り、帰宅後頭から紫陽花の話し声や、彼女と話した内容がこびりついて離れなかった。身体が休むことを拒否しているように起き続け、寝ようとすればするほどアドレナリンが暴走しているようだった。結局眠りにつけたのは午前3時ごろ。おかげで今日は1時間目から重たいまぶたが閉じないよう闘うのに必死だった。


「ふっ、今日はいかがわしい写真、見てないんだな」


 3時間目と4時間目の間の10分休みに、昨日と同じように海藤が突っかかってきた。カバーをかけた文庫本を手にしていた璃仁はさっと視線をそらす。反応をすれば余計に面白がられるのは目に見えていた。小学生の頃から、この手の相手と何度やりあってきたことか。皆一様に、璃仁が悔しそうに顔を歪めるのを見て愉快そうに腹を抱えて笑っていた。


「無視かよ。あ、もしかして今日は写真じゃなくていかがわしい本を読んでるのか。だから何も答えないんだな」


 海藤の隣と、その隣に座っていた女子が三角の目をしながら「何しょうもないこと言ってんの」と笑っている。しかしこれは璃仁を庇って言ったのではなく、「冗談を言うならもっと面白いこと言って」というようなことを伝えているのだと分かって鼻白んだ。

 高校生にもなって小学生レベルの言葉で揶揄ってくる海藤に対し、鬱陶しいと思うほかなかった。クラスメイトたちは今のところ海藤のノリについていっているというわけではないが、もし今後海藤派が増えるようなことがあれば余計面倒なことになると、璃仁は青い顔で考えていた。



 昼休み、璃仁は昨日と同じように図書室に向かっていた。理由は言わずもがな、紫陽花に会うためだ。告白するわけでもないのに図書室の扉に手をかけた瞬間、心臓が大きく跳ねた。彼女に会えるかもしれないというだけで心臓が暴れるなんて情けない。でも、璃仁の人生で経験のないことだから仕方がなかった。


「失礼します……」


 普段図書室に入る時に断りを入れるなんてことはしないのに、深層心理がそう言わせているようだった。

 璃仁はまず図書館のカウンターのところに座っている生徒を見た。2年生の他クラスの男子生徒だった。4月の初め、まだ仕事に慣れないようで、椅子に座りながらキョロキョロと辺りを見回している。

 図書委員は毎日決められた当番が順番に仕事をするのだが、二、三日は連続で同じ人が当番をすることになっている。だから昨日に引き続き紫陽花が仕事をしていると踏んでいたのだが、今日は姿が見えない。

 カウンターではなく、昨日のように本棚に本を片付けているのかもしれないと思い、文庫本、単行本、図鑑、経済、社会学の本などの本棚をぐるりと見て回ったが、紫陽花はいなかった。今日は当番ではないのかもしれない。当番制のローテーションの仕方が去年と変わっているとすれば不思議ではなかった。


 図書室に紫陽花がいないと分かると、璃仁は早くも途方にくれた。彼女に連絡先を聞かなかったのが悔やまれる。もっとも、今日はその連絡先を聞き出すために紫陽花を探しているのだけれど。

 彼女が昨日伝えてくれた彼女自身に関する情報はあまりに少なすぎた。分かっていることといえば、彼女の名前が崎川紫陽花だということ。それから、O型で3年1組だということ——。

 ここで璃仁はそうか、と思い立つ。3年1組。紫陽花がくだらない嘘をついているのでなければ、昼休みに3年1組の教室にいる可能性は高いんじゃないか。


 璃仁はさっと踵を返し図書室を後にした。一刻も早く紫陽花に会いたいという気持ちが先走っていた。昨日初めて話した女の子にそこまでの気持ちを抱くのは、第三者から見れば気持ち悪いんだろう。絶対に他の誰にも、胸の内は打ち明けられない。3年生の教室はA棟の3階にあるので、B棟3階の図書室からは、渡り廊下を歩いていけばすぐだった。


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