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Birth die Present.  作者: 間宮しろ
8/8

◆After being born again.◆

「あや……ちゃんとやってるかな」




あやが現世へと生まれ変わり、しばらく経つ。


俺はあやに現世へ強制連行されたことを、忘れられずにいた。


流れる時間があんなに飛躍的に感じたのは初めてだった。


そして、あのときの楽しかったという余韻が、今もなお残っていることも。




「そんなにあの少女が気になるか、カイル」




ぼんやりと雲を眺めていると、後ろから荘厳な老人の声音が耳に入り込んできた。


振り返ると、この世界の支配者……現世でいう神が微笑んで立っている。




「そうですね……そうかもしれません」




視線をもとに戻して、呟くように言う。


神は、そうかとだけ言うと俺と同じように空を見上げ、目を細めた。


しばらく沈黙が続く。




「そういえば、どんなご用件ですか」




あたかも今思い出したような口で言う。


すると神は、そうかと細めていた目を見開いた。




「カイル」


「はい」


「出世したいか?それとも現世で生きたいか?」


「……はい?」




思わず聞き返す。


出世は……分かるけど、現世で生きたいか?


混乱して少々パニックになる俺を見て、神は愉快そうに肩を揺らして笑う。




「俺、現世で生き物として生きられるんですか?」


「そうだよ」


「出世も、できるんですか?」


「そうだよ。けど、君はどうするか、もうとっくに決まっておるのだろう?」




世界全てを一瞬で包み込むような、優しい瞳が俺を映す。


でもどうして突然……


頭の中をあはてなマークでいっぱいにしていると、神はそれをのぞいたように口を開いた。




「千年経つだろう?」


「千年?」


「現世の時間の流れでは、君が生まれてから今日で千年なのだよ」




驚いて、前のめりだった身体を大きくのけぞらせる。


今日で千年だったのか。


俺が、生まれ落ちてから。




「君は現世で生きるってことで、いいかい?」


「はい」




即答した。迷いはない。


生きることは、辛いこともたくさんある。


けど、あやとまた会えるのなら、それでもいいと思った。




神は、決心した俺の顔を見て、ためらいがちに口を開く。




「じゃあ、君は現世で、人間として生きることになるな」


「え?」




あやはダンゴムシになったんじゃ……


神は俺の問いを汲み取り、小さく口を開いた。




「……規則違反してたのだよ」




そのとき、千年も前にどこかで教えられ、忘れていた知識が頭の中に蘇る。






  ___自分を大切にすること。それが、最も重要な規則のひとつである。___






・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・








「おーいカイルー!はやくー!おいていくよー?」


「寝坊したのはあやだろ!!」




雲の上にいたときより何回りも小さくなったあやが、手を振って俺の名前を呼ぶ。




あの後、俺は現世に人間として生まれ変わった。


今のあやと俺は幼馴染で、今日は小学校の入学式だ。


俺の隣で歩くあやは、レモンマリーゴールドの色をしたランドセルをゆらして、これから始まる新生活に目を輝かせている。




「べんきょーとか、むずかしいのかな?」


「んー……どうなんだろうな」


「でもカイルは、あたまがいいから、らくしょーだね!」




あやは、俺に目のピントを合わせてにぱっと笑う。




当たり前だけど、あやは前世のことを覚えていない。


俺の前世の記憶は神の意向でなのか、残っている。


現世に来る前の、あの出来事をあやが忘れているのは寂しい気もするけど、仕方ない。




「あや」


「ん?」




立ち止まって、いつの間にか俺を追い抜いていたあやの背中に呼びかける。


わずかに首をかしげながら振り向いたあやに口を開いた。




「今度は俺が、殺させないから」




あやは、わけわからんときょとんとした様子でこっちを見つめる。


俺は、ははっと歯を見せて再び歩き始めた。


少ししてあやは、まってよ!と走ってくる。






せっかく手に入れた命なら、殺さないでほしい。


死なないでほしい。


自分の人生なんだから、自分の好きに生きれば、自分が満足できれば、それでいい。


そんな人生とバカにするやつなんか、鼻で笑ってやればいい。





自分を大切に。


そんな当たり前が、人々の中に広がってほしい。




俺は元天使、この世の者ではなかったけれど


心からそう思っている。







「カイル!」




やっと俺に追いついたあやに名前を呼ばれる。


振り返ると、どこかで摘んできたのか、あやの手には花が一輪握られていた。




「……シロツメクサ?どうしたの、それ」




聞くとあやは、にぃーっと笑って言った。




「カイルへの、Birth die Present!!」

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