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Birth die Present.  作者: 間宮しろ
7/8

◆◆◆◆◆◆◆

「カイル」


「どうした?」


「帰ろ!」


「そうだな。もう、後悔はない?」


「もちろん!」




あやは相変わらずあやらしく笑って言う。


俺はうなずいてあやの手を握り、とんっと軽く地べたを蹴った。


風が俺とあやを優しく包んで、本来いるべき世界へ戻る。




気づいたら、既にそこは元の世界だった。




「カイル」


「どうした?」




目の前には俺から手を離し、俺としっかりと向き合うあやがいる。




「私、これからダンゴムシに生まれ変わるんだよね?」


「そうだな。あやが今から変更しなければ。……変えたいのか?」


「いや、そうじゃないんだけど」




妙にそわそわとして、あやの視線が俺から右側にズレる。


様子がおかしいと違和感を持ちつつも、俺がなにかやったか心当たりはなくて首をひねる。








「……ありがとう」




少し間があってから言われた。




「え……」




お礼を言われるとは予想外で、思わず声がもれる。




「俺、なんかしたっけ?」


「だってさ、現世に行ったときだってカイル、めんどくせー帰らせろとか思ってたじゃん」




不思議に思うと、あやはおかしそうに答えた。




「あ、いや、それは……」




まさかバレていたとは……


気まずくて視線をそらす。


けど、あやは気にする様子もなく、




「なのに、しぶしぶでも私についてきてくれて、素敵なプレゼントももらっちゃった。

 だから、ありがとう」




と、少しだけ頰を赤く染めてはにかんだ。




こんな仕事をずっとやっているからだろうか。面と向かってお礼を言われるとなんだかこそばゆい。


でも決してそこに悪い思いはなく、むしろ心のなかは、春先のたんぽぽを思わせるような温かいもので満たされていた。


どう反応していいのか分からず、あやと同じ色になっているであろう顔を向け笑顔をこぼす。




「じゃあ私、もう行くね。どこ行けばいいかな?」


「えっと、そこのゲートを通り抜ければもう生まれ変わってるはず」


「……じゃあね、カイル」


「ああ、元気でな」




小さく手を振るあやに、俺もためらいながら手を振り返す。


あやがゲートの奥に消えていって、俺はゆっくりと腕を下ろした。




……また、会えるだろうか。




何億何兆をゆうに超える数の生き物の魂が行き交うこの世で、同じやつと再び出会えることは少ない。


何百年も仕事をしてきた俺でさえも、また同じやつの担当になるということは経験がない。


だからきっと、あやとまた会うこともないだろうと思う。


だからか、もう少しここに居てほしかったな、とわがままを思った。





その後過ごした長めの休暇は、よく眠れなかった。


天使である俺でも喪失感は感じるものなんだと、どこか冷静な自分もいた。

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