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Birth die Present.  作者: 間宮しろ
6/8

◆◆◆◆◆◆◇

「あや……帰るか?」


「なわけないじゃん!」


「…………」




あの後、少し先に元の場所へ戻った俺と後から来たあやは合流した。


何も知らないことを装って聞くと、さっきのシリアスな雰囲気はどこへやら、俺の願望に反した答えが返ってくる。


しかも即答。


はいはい、まだ現世にいたいんだよな。


もう慣れたよ。




「てか、このあと何するんだよ」


「そりゃあ……」






・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・






「うわぁ……なんかすごい緊張してきた」


「ちょ、うるさくねここ」




ライブ会場だった。


あやいわく、推しのいるアイドルグループのライブらしい。


もちろん、真夜中に中高生ファンが多いアイドルのライブなんかやっているわけもなく、夜が明けるのを待ってライブ会場に足を運んだ。


ちなみに、あやからアイドルとはちょっと違うの!歌い手なの!と釘を刺されたが、正直言ってどっちでも同じなんじゃないかと思う。


けれど、そんなこと言ったらあやにドロップキックをかまされかねないので、言うのはやめにした。




金はどうするつもりだろうと頭によぎるが、生前にチケットを買ったし勝手に入るのはファンマナーというものには反しないだろうとのことだ。




じゃあ俺はどうなるんだ……とか思ったけど、そもそもファンでもこの世のものでもなかったことを思い出す。


完全にあやに染められてるなと思いつつも、ライトやら何やらで明るいライブ会場を見渡して少し感動する。


なにせ、死後の世界にはこのようなものがない。


リラックスするにはいいところだけど、やっぱちょっとは刺激が欲しいと思っていた。


その願いがこんなふうに叶うなんて。




少し、


少しだけ。


あやに連れてこられてよかったなと思う自分がいた。






・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・








「推し、え、カッコよ」


「語彙力どこいった?」


「溶けて気化した」


「あるじゃねぇか語彙力」




あやはペンライトとかいう光る棒を持って、広い会場の上の方をふわふわしている。


もちろん、生きている人間たちにはペンライトが浮かんでいるように見えているから、


人の視界に入らないようにしろよ、とあやに釘を刺してキラキラするステージをぼーっと眺めた。




6人程度のなかなかのイケメンが、歌いながらダンスをする。


それなのに歌がうまくて、音程が少しもぐらつかないことを不思議に思う。


激しい動きで汗が流れるのさえもキラキラしていて、より演出を華やかなものにしていた。




「……んで、あやの推しってのは誰なの?」




ふと気になって聞いてみる。


あやは目をあのステージと同じくらいキラキラさせて、




「あの緑色の衣装着てる人!ダンスだけじゃなくて、歌もラップも、トークも上手なんだよ〜〜!!」




と声を弾ませた。


言われてみれば、あやが持っているペンライトも緑色だ。




「へー」




適当に返事をして、あやの目線の先の男をみる。


たしかに顔もいい方だし、歌もダンスもトークもうまいと思う。




じっと見つめていたら、その人と一瞬だけ目があった。


……目があった


もしかして……と、ある仮説が頭の中に降りる。




横でペンライトを振り回すあやを見て、ふぅっと息をつく。


ほんの少し、俺の中で気まぐれが生まれた。


仕方ないな。


あやの言葉を借りるのは癪だけど。








「あや」


「ん?」


「このライブも、生きてるうちに来たかった?」


「……当たり前じゃん」




聞いてみると、あやの声が沈むのが分かる。




「それは、なんで……」


「ライブ来ると元気もらえるし、また生きようって思えるけど、死んじゃったらもう生きれないし

 ……ファンサもらえないし」




なるほど、やっぱり。


やはり、そうするべきだと確信してステージを見下ろす。




「あや、降りてみる?」


「……え?」




あえて副詞を抜いて言うと、あやは小さく首をかしげる。




「席のある下の方、降りてみる?」


「えっ、でも……」




今度は具体的に言うと、あやは目を丸くした。


動揺するあやの手をとって、俺は下に向かい降りていく。


ペンライトは、観客には見えないように細工をしたから、大丈夫なはずだ。


ある一人をのぞいて。




そして、あやと一緒に降りた場所


それは……




「……真正面じゃん!!」




ステージから1番近い席。


驚きと喜びが混ざったような表情で、あやは緑色の衣装に身をまとった人を見つめる。




……あ、来た。




その男はあやのいる方に近づき、人差し指と親指でハートマークを作って片方の目を閉じた。


俗に言う指ハートとウィンクというもの。




「えっ!?」




ファンサを受けた当の本人は、顔を紅葉色に染めて固まっていた。




「確定ファンサ……っていうんだっけ。よかったな」


そう言って華奢な肩を叩くと、あやは涙のにじんだ目で大きくうなずいた。




Birth die Present 、完了だ。








あやが、なぜファンサを受け取れたか。


あやの推しが、弱い霊感を持っていたからである。




彼は、あやと俺がいる真上の方を、じっと見つめていた。


真上を見るのは首が痛くだろうなるし、ふと真上を見たとは考えられない。


それなら、俺らが見えているのが自然だと考えた。




あやの持つペンライトは普通の人間には見えないよう、簡単な細工をほどこして


あやの霊気を少し強くして


まさか、確定ファンサがもらえるとは思ってなかったけど。




あやは今、静まり返ったライブ会場の控室のソファで眠っている。


現世での幽霊の状態ってかなり体力使うし、寝るくらいある。




涙のあとが残るあやのまぶたを優しくこすって、俺もソファに横になる。


少しくらい、いいよな


仕事中だと怒鳴るもう一人の自分を押し込め、俺は静かに目を閉じた






・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・‥…━…‥・






「……て…………きて………………起きて!」




遠くから声が聞こえる。


それはだんだんと近くなっていき、それと同時に俺の意識もはっきりとしてきた。




「んあ……?なんだよお前……」


「カイルって寝起きでも口悪いんだね」


「うるせぇ」




あやに叩き起こされ、渋々重い身体を起こす。


そんな俺に対してあやは寝起きがいいらしく、眠気を感じさせる様子を全く感じさせない。


……でもまぁ、眠かったら俺を起こすなんてことしねぇか。




少し痛い頭をおさえて低い声でゔーんとうなると、あやに犬か!と笑われた。


うるせぇ。


そう言い返すと、あやは、ははっと歯を見せた。

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